- 儒教と負け犬/酒井 順子
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「儒教と負け犬」 酒井順子 著 講談社
30代以上の独身女性を『負け犬』と呼び、一大ブームを巻き起こした著者が、儒教とのからみで負け犬や少子化について考察した本です。
私にとって儒教は、やや極端に言えば『儒教』と聞くだけでイラッとするような、日本の古き悪しきイエ制度やら男尊女卑やらが思い浮かび、現代の若い世代でさえそこから自由になっていない思想の発端というイメージ。
著者も儒教には他の側面があることは承知しつつも、私たちがもっとも身近に感じる儒教的影響を、
『たとえば母親が外出すると父親の機嫌が悪くなったり、飲み会というものに出るようになったら当然のようにお酌するように言われたり、彼と温泉に行くと彼がなぜか当たり前のように上座に座っていたり・・・・・・ということを繰り返ししていくことによって、儒教的な自己規制のようなものを働かせるようになってきた。』
と書いています。
そして、少子化、晩婚化の背景として、儒教的価値観がしっかりと染み込んでいる土壌に、近代的男女平等思想を覆いかぶせようとしたからなのではないか、と仮説をたてています。さらに、儒教のうまれた中国と、儒教の影響が強いといわれている韓国の負け犬・勝ち犬たちを取材し、日本の少子化・晩婚化の特徴をあぶりだしたりもしています。
一昨年から去年にかけて、不況と婚活に関するテレビ番組を観ていてしばしば見聞きしたのは、結婚したいけど正社員の仕事が見つからず収入が安定しないから結婚できない、と言う男性。
私は夫と一緒に暮らし始めるとき、二人で働いて半分ずつ出し合えば、今までの半分の家賃で倍の広さの部屋に住める~とうれしく思ったものです。それに、二人とも働いていれば、どちらかが職を失ってもしばらくは片方の収入で食いつなぐことだってできます(これは夫がリストラされて現実となった。しかも私の妊娠中)。だから、むしろ結婚した方がお得かつ安心なのでは??と、前述のような人を見るたびに首をひねっていました。出産・育児はともかく、結婚は無料でできるのになんで??と。
しかし、結婚の条件として安定した収入を求める女性が多いことを思うと、男性が収入が少ないから結婚できないと考えるのも当然で、家庭に入って夫に養われたいと思う女性、妻子を養わなければと思う男性、これもまさに儒教的価値観だったのだなぁと、この本を読んでようやく気が付きました。
前置きが大変長くなりましたが、私にはとても興味深い内容の本でした。いつも通り、読みやすい著者の文章ですが、なかなか読み応えがありました。
中国と韓国の取材を通して見えてきた日本の負け犬の姿は、著者を(私をも)ちょっと悲観的な、情けない気分にさせてしまうものでした。引用します。( )内は私による注です。
『三都調査(東京、ソウル、上海)の結果からも明らかになった通り、(東京の)負け犬はすぐにセックスをさせてしまうのに付き合っている相手がいる割合は少なく、男性と対等であるという意識が弱い。「老」とはいえ「処女」の純さと矜持を持つ老処女(負け犬の韓国語版)、あくまで強くて合理的な余女(負け犬の中国語版)と比べると、「大丈夫なのか」と、自分のことも含めて心配になってくるのです。
負け犬と、老処女・余女の違い。それは、希望があるか否か、のような気が私はします。恋愛していなくてはならないという強迫観念にさいなまれた結果、セックス、不倫、ダメ男・・・・・・と、男女間のドロドロしたものを既にたくさん見てしまっている、負け犬。』
うーん、これを読んでどっきりする女性も少なくないのではないでしょうか。確かに日本人の恋愛しなければという強迫観念は、驚くほど強いです。ダメ男や不倫でも、相手がいないよりマシ、と思う女性は多そうです。そんなことして心身をすり減らすよりは、韓国や中国女性のように堂々と、安売りせず自分の望むものを追い求めたほうが楽しそうだし、自分に優しいというもの。どうせ結婚しないなら、楽しくて自分を大切に出来たほうがいいに決まっています。
でもそれが難しいのは、「結婚後は夫にリードしてもらいたい」という回答が、韓国・中国にくらべて非常に多かった日本というお国柄のせいもあるようです。自分よりも少し「上」の人と結婚してリードしてほしいと思う女性が多く、また日本の社会通念として結婚=幸せとか一人前というのがあるからなのでしょう。負け犬なのに堂々と楽しそうにはしにくいものがあるのかもしれません。
儒教的価値観に支配されて家庭に入ることを密かに望んでも、表面的な男女平等思想によってキャリアや収入は身につけてしまった女性は、自分より少し「上」の男性などそういないうえに、「下」の男性からも求められないためどんどん負け犬化しているという構造が正しいならば、著者の仮説も的を得ていると言えます。
ここで言う儒教的価値観が人々の意識からなくなれば、晩婚化や少子化の問題は改善していくのかもしれません。が、それは社会制度を変えるよりもっと難しいことでしょう。人々の心の根底を支配する儒教的意識、これがもっともやっかいなものだと私は思います。中国のように革命でも起きない限り、世代交代を何度も繰り返していくしかないんだろうな。というわけで、晩婚化・少子化はいましばらく続くのではないでしょうか。
最後に、思わず笑ってしまった部分を紹介しておきます。三都調査の『あなたが絶対に結婚したくないのは、どんな男性ですか?』という質問の答えが、すごくおもしろかったのです。
東京の1位は「無職」(ちなみに2位「マザコン」、3位「ケチ」)、ソウルは意外にも「亭主関白」と「マザコン」が同率1位、中国の1位「ケチ」はなんとなく分ります。
もっとも笑ったのは、「ハゲ」への評価の差です。13項目中、東京8位、ソウル7位と、結婚したくなさでは中の下、すなわちそこまで嫌われていない日本と韓国のハゲですが、中国ではなんと3位なのです。中国女性はハゲがお嫌いなのですね。なぜなんでしょうか。日本と韓国のハゲのみなさん、よかったですね。髪を気にするより、職を見つけて母親から独立することの方が、結婚への早道のようですよ。