カイセイが言うのももっともなのだが、松村さんちはあまりエアコンを使わないんで、こうやって開け放して扇風機を何台か回してあるのだ。
(いや、エアコンは適度に使われた方が良いと思うが。)

「マズいな?」
「あの女の人だよね?」
「やっぱり松村さんちに行っちゃってる。
あの人が探してるのは、やっぱり銀だ。
まじどうする?」

大体予想通りの展開だが、果たしてどうしたもんか。
土間にチャリ3台をいれ、
和室のこたつ台に先生方の愛と励ましのこもった宿題を広げて思案した。

頭からいくら閉め出そうとしても、あの白い女の人が桃畑の小路に存在感薄く佇んでるのを想像してしまう。
「どうすんの?
夜中にこっちの敷地とおって松村さんちに行ってたら?
夜トイレに起きたら窓の外に・・・・」

やめろ、カイセイ。
考えたら夜中トイレに行けなくなる。

ヒスイがこたつ台にのって、オレの
「パーフェクトサマー国語」を尻に敷いている。
ああ・・・先生方の汗と涙の結晶が。
カイセイが嬉々としてヒスイのアゴの下をかいてやる。
「カワイイなあ。
もし猫飼えたらなんて名前にしようかなあ。」
いやいやお前、お母さんお気に入りの家具が。
お母さん困るだろ、ソファで爪とぎされたら?
「え!?それぐらい良くない!?」
・・・・ダメだ。目がキラキラしてる。
こいつ、こーゆうキャラじゃなかったはずなんだが。

「漢字30ページ、キツいなあ。」
あっさりやるくせにヒビキが嘆いている。

カイセイも宿題リストをあらためる。
「えーと、環境ポスターか風景画・・・」
「作文は・・・自己PR?」
「体育の宿題、ラジオ体操・・・第2 !?
え?ウソ、よく知んないんだけど!? 」

「家庭科・・・キュウリの輪切りの練習。
ええ?10回? 」

2人が騒ぐのを聞き流しつつ
鞄から図書室で借りた本をひっぱり出した。
全部で7冊。
どれから読もう?

「いや、お前 風景画は描けよ?
描く景色には困んないじゃん。」
そりゃ山と池と湿地はあるけど。
でも・・・めんどくね?

「お母さんに描かしたらダメだよ?」
ヒビキもクギを刺してくる。
・・・・

「よし。じゃオレ、
ブリリアントサマー理科からやるわ。」
カイセイがムダにさっさと取りかかる。
ヒビキがよこから圧をかけてくるんで、
オレも仕方なしに
アメージング現代社会をやるハメになった。
しかし
各々宿題をやりながらも、話はあの不可思議な女の人と銀の事に戻っていく。
ヒスイは パーフェクトサマー国語を自分の座布団と決めたらしく、円くなって寝始めた。

「銀、夜な夜などこに行ってるわけ?」
「さあな。」
猫は人間に自分の都合は明かさない。
「松村さんたち、危なくない?」
しかし警察に相談する種類のものではない気がする。
万が一のとき、ヒスイが再び化け猫化して助けに行くか、という点も非常に怪しい。
自分のナワバリの外の事に、
そこまで親切に動くだろうか。

「・・・でもさ、」
カイセイがふと顔をあげた。
「銀はどうなんだろ、
ヒスイが化け猫になれるんなら
銀もなれるんじゃないの?」
・・・・
・・・・
・・・・
はい!?
今なんて?

オレの頭にアニメ日本昔話的な情景が浮かぶ。
群青色の 
夜の闇が濃い 
桃畑と 田んぼと 山に囲まれた 
ほんの数軒の家。
そこで向きあう 巨大化した2匹の猫。
いやもうダメだろ。
恐らく生きた人間ではないあの女の人より、よほどコワい気がした。