【小説】ミルクティー好きの悪魔

【小説】ミルクティー好きの悪魔

高2少年ユメアリの心の移り変わり。わたしクライチの初小説をどぞ。

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「少年は何してたの。こんなとこで。哀愁漂わせて。」


あ・・・何かこれ・・・やっぱ。


「失恋かいー!?」


・・・めんどくせ。



「・・・かんけーねぇっす」

溜息を混じらせながら俺は答えた。


「そりゃ、かんけーないわなー!!!」

カラカラと笑う。


やっぱ帰ろうかな。


「私ねー、彼氏いない歴20年なの!!」


・・・んな自慢そうに言うことか。


「君は彼女いない歴は!?」


「・・・17」


しまった。勢いに流された。

まともに答えてしまった。


「ってことは高2かー」


「・・・・・・」


20歳・・・大学2年か、この・・・



ヘンな女。



「おぉっと!そういやアイス持ってんだった!早く帰んなきゃ!」

女は勢いよく立ちあがった。そばに停めてある自転車には、パンパンになったスーパーの袋ひとつ。



「アイスは家族の分だから・・・君にはこれ!」


立ち去りながら何かを投げた。


「じゃーねー!!」



女はさーっと帰っていった。



投げられたモノを見ると、


個別包装のチョコ。


俺は甘いものがテストと同じくらい嫌いだ。



しかも、このチョコはかなり溶けかけていて・・・


やわらかい。







あいつは悪魔か。







もうすっかり夕日空。

赤、オレンジ、黄色のグラデーション。


遠くの建物がうすくシルエットになっていく。



俺は向こう岸をぼーっと眺め続ける。




一瞬、頬が冷たく感じた。

風なんかじゃない、何か当たっている。


冷てぇ。


振り返ると、女が立っていて、俺の頬に冷たい缶を当てていた。


「・・・・・・」


どうにも反応できない俺。見上げるしかない。


「あはははははっ きみ!何そのマヌケ面ー」


「・・・・・・」


お前は何者だ。見上げるしかない。


「何ですか。誰ですか」


俺にはこんな年・・・大学生くらいの女の知り合いはいない。はず。



女は俺のとなりに腰をおろす。

そしてその缶のフタを開け、ぐびぐび飲みだす。


ミルクティー。


んな甘そうなのよく一気に飲めんな。


「誰ですか。俺のこと知ってるんすか。」


小学校の時の班の上級生か?


中学のバスケ部の先輩か?


女の先輩たちとはあまり関わらなかったから覚えが悪い。


誰だ。


「きみのことは知らないよー」


「・・・・・・は?」


何だこいつ。


「きみの後ろ姿がねーなぁんか哀愁ただよってたもんで。」


おかしいのかこいつ。





立ち去っても良かった。



だけど俺はそこに留まった。



カラカラ笑ってるこの女。



ヘンな女。




帰って何かすることもない。



何故か俺はそこに留まった。









風がぬるい。空気がぬるい。俺の気分もぬるい。


多摩川を自転車で走りながら家に向かう。


クリームの混ざったような水色の空が、じわじわと夕空へと変わっていく。



ムズムズする。

やりきれないような、どうしようもないムズムズ。


俺はこの世界にひとり取り残されているのか。



ぬるい。




俺がぬるい。


どうすりゃいいのかわかんねーよ。


今までこんなこと考えなかったけど、てか避けてたけど。


今日。あの忌々しい進路希望用紙と現実で向かい合ってしまった。




ぬるい風。空気。俺。


ずっとこのまま、ここに取り残されてもいいかも。


自転車を停めて土手の階段に腰をおろす。





木津根ユメアリ。


俺の名前。

俺の、ほんっとにしょーもねー名前。


今。


俺は進路希望用紙に、そのほんっとにしょーもねー名前を記入。


高二の7月末。ぬるい、あまったるい空気の教室で、クラスの皆はかったるい用紙とにらめっこ。



かったるい。



かったるいことこの上ない。


そして“ユメアリ”なんっちゅー乙女頭の母親が考えた名前に、負けている自分。



笑える。残念な意味で。ほんとうに残念。




俺の予定。


バイト続けて親と住み続けて生き続けます。


それを5文字で用紙に表し、裏側にし、伏せておく。


窓の外は真っ青な空で、でっかい雲が悠々と泳いでいる。

空ばっかでっかくたって。

俺はちっさいです。


むわっとした風が窓から入ってくる。

一瞬下敷きで顔を仰ぐのをやめる。


高二の夏。


ここが人生の分かれ道のひとつとか、受験勉強のはじまりとか、明暗を分けるとかいう。


おれは今のまま行きますよ。


分かれ道なんて俺にはない。



夢なし坊主のユメアリ君です。


ほんっとにしょーもねー。



「はい、もう回収ー!これを元に夏休みに面談するからねー」


佐伯先生が言ったあと、後ろの席のやつがガタガタと立ち上がり、回収を始める。


「ユメちゃん、フリーター!?」


俺の用紙をぱっと取り上げ、アズマが叫ぶ。

アズマ。大森東。俺の後ろの席の、これまたしょーもねーやつ。

伏せておいたんだからいちいち見るな。

言いたかったが反応すればまた騒ぐ。黙っとく。


その代わりにアズマの用紙をひったくる。


『 けっこん(笑) 』


(笑)じゃねぇよ・・・・・・。

思わず吹いてしまった。アズマは調子に乗る。

「俺にはやっぱコレっしょー!」

「いいからさっさと提出してこいよ」

ばしっとアズマの背中をたたき促す。





アズマはおおげさにお辞儀をして提出していた。