梅の花 夢に語らく みやびたる 花と我思ふ 酒に浮かべこそ
大伴旅人/万葉集・五・八五二
※「こそ」は助動詞「こす」の古い命令形で願望を表す。
大伴旅人に代表される万葉歌人たちは、ことのほか梅の花を好んだ。
芳しい梅が香が万葉貴族の舶来趣味をかきたてたのであろう。
この時代、梅は間違いなく春の花を代表する花であった。
この大伴旅人が率いた、神代から続く大豪族である大伴氏は、この時代の外交防衛の司る家であり、
そのことで舶来文化には馴染みが深かった。しかし忘れてならないのは、
大伴氏がなければ万葉集は成立しなかったであろうということである。
歌を通して大和心のまことを伝えたのは他ならぬ大伴氏の大きな功績のひとつである。
この大伴氏が持つ舶来文化と大和心の関係は、梅と桜の関係に似ているかもしれない。
万葉歌人がどれほど梅を愛したとしても、神代から日本で花と言えば桜において他になかった。
美しいが儚いコノハナサクヤヒメを愛したことにより、天皇は寿命を与えられてしまったという、
神話の一節が日本を代表する花とは何かを明確に示している。
桜の花のゆるぎない美しさがあればこそ、梅の花はかくも万葉人に愛されたのであろう。
