来音あすか@趣味の小部屋

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小説の小部屋~オリジナル・二次創作の小説を書き置いています~

ここには二次創作を置いています。

意味が解らない方、興味がない、二次創作に否定的な方の立ち寄りはご遠慮ください。

また、閲覧はアメンバー限定にさせていただいています。

詳しくはプロフをご覧ください。

ピーンポーン
宮城の実家にも似た雰囲気の古い日本家屋。呼び鈴を鳴らすとしばらくして引き戸がガラガラと音を立てて開くと、季節外れの装いをした家主が現れる。
「やぁ、いらっしゃい」
「……お邪魔します」
「なにかしこまってるの?らしくない」
「いや、だって。俺が上がったら潰れそうだなと思って」
「なに、巨大化でもするの?はじめて来たわけでもないのに今更じゃん」
前に来た時も少し思った。この家の廊下を日向が歩くとギシギシと音がするのだ。古さ故当たり前とも思えるが、孤爪が歩く時は軋む音ひとつしない。
「で、次の移動いつだっけ?」
「明後日の飛行機」
「翔陽もよくやるよね」
「研磨のおかげで毎日楽しいバレーができるよ」
Vリーグ入りが決まって一旦はスポンサーを降りた孤爪だが、ブラジルのリーグに挑戦すると伝えたら再びスポンサーとして日向の生活の手助けをしてくれるようになった孤爪には感謝しかない。今はチームのサポートもあって、ビーチバレーをしていた2年間に比べれば負担は大きくないはずだが、それでもブラジルでより安定した生活が送れるのは孤爪のバックアップがあってこそだ。
「おれも翔陽が時々配信参加してくれたり企画手伝ってくれて助かってるよ。翔陽が出てくれた後は必ずフォロワー増えるんだよね」
「え?そうなの?なんで?」
「さぁ?」
知らない素振りを見せる孤爪だが、きっと理由はわかっているのだろう。なのに言わないということは、きっと知らなくても問題ないということだ。
いつも通される居間を通り過ぎ、奥の部屋に入ると日本家屋には似つかわしくない最新のパソコン機器が閉め切った暗い部屋に所狭しと並べられている。6月で蒸し暑いとは言え異常な程エアコンの効いたその部屋に足を踏み入れると身体が反射的にぶるりと震える。なるほど、孤爪が分厚いパーカーを着込んでいるわけだ。
「なんか羽織る?」
昔の自分なら間違いなく「いらない!平気!!」なんて言っていただろうが、アスリートに冷えは禁物だ。素直に上着を借りて羽織ると自分とは違う匂いがした。
もう何年も前、はじめて孤爪の家で配信をした時驚いた。たくさんのパソコン機器が熱を持ちすぎないよう、この部屋は夏場は寒すぎるほど室温をさげるし、冬場は暖房器具を一切使わないのだそうだ。その時一緒に来ていた黒尾は慣れていたのか孤爪の家に自分専用の防寒着一式用意していた。
「今日はなんの配信するの?ゲーム?」
体を動かすならどこか場所を借り外で収録するし、トークだけなら簡単なシナリオを渡され打ち合わせしてからになる。なにもなくこの部屋に通されるということは初見のゲームをやる確率が高いと日向は思った。
「翔陽、今日何の日か知ってる?」
「え?なんかあった?今日何日?」
「ふふ……ちょっとバレーに集中しすぎたんじゃない?……いい時間だね」
そう言った孤爪が珍しくいたずらっぽい笑みを浮かべ慣れた手つきで配信用と思われるパソコンのモニターの電源を入れた。
「サプラーイズ」
棒読みで驚嘆の言葉を口にすると、モニターに見知った顔が所狭しと映り込んでいた。
「…………へ?」
『翔陽くん、さっきぶりやなぁ!!』
『あれ?日向固まってるけど、これちゃんと映ってる?』
画面の向こうでわちゃわちゃしているのはついさっき滞在先から追い出すように見送ってきた代表メンバー達だ。日向は調整の為休みを取らされたが、同じく休みの選手以外は今日はトレーニングセンターで練習しているはずだ。
「なんで……?」
『やっと喋った!』
モニターいっぱいに選手が映っていてわかりにくいが、トレーニングセンターにはいるらしい。各々練習着を着ているし、後方にネットもある。
そして、孤爪が電源を入れたもう1台のモニターにも同じようによく知った顔。
「リエ……はぁ?!影山っ!なんで??」
影山も今日は休養日だったはずで、予定を聞いたら外せない用があると言ってさっさと出掛けて行ってしまったのだ。その影山が、モニターの向こうに仏頂面で座っている。
そのまわりで灰羽や山本といった主に音駒出身の友人たちがなにやら騒いでいるが、日向はもうわけがわからない。
『あっちもうまいこと繋がったみたいやな。ほないくで』
『せーの』
『日向、お誕生日おめでとう!!』
祝福の言葉とともに、どこからか用意されたクラッカーの音が鳴り響き、賑やかなモニターの向こうがさらにカラフルに染まる。日向の目の前にいた孤爪もポケットに忍ばせていたクラッカーの紐を引いたので日向も色とりどりのテープにまみれた。
「……あ、ありがと………?」
ぽつりと呟き、驚きに呆然としてモニターを見つめていた日向が、大きく瞬きし我に返ると、はたと振り返り部屋を飛び出した。
「あ、気づいたみたい」
ボソッと孤爪が呟くと同時に、勢いよく襖を開ける音がした。
「なんで居る?!」
家の中とモニターから同時に日向の声が響いた。
「孤爪さんに呼ばれたから?」
一見仏頂面ではあるが、これはかなり楽しんでいる顔だ。
「おーい、日向。俺たちもいるぞー」
「リエーフ久しぶり!猛虎さんお久しぶりッス!あと夜久さんは影山と共犯ですよね?」
夜久さんは今日休養日だったっけ?と思いながらも、ここにいるということは影山と一緒に日向に見つからないよう移動したのだろう。
「影山が研磨ん家知らないって言うからさ」
全く悪意のない笑顔で夜久が答える。が、日向は影山は知らないんじゃなくて覚えていないんだなと察して影山をちらりと見るとわかりやすく目を逸らされた。不定期にバレーボール選手と孤爪でコラボ配信している企画で影山も呼ばれたことはあったし、なんならふたり揃って孤爪家で収録したのは割と最近のことだ。
『おーい、日向!俺らのこと忘れてない?』
孤爪の家を訪ねるといつも最初に通される居間に、いつもは置いていないパソコン機器が置かれ、先程の部屋同様に宮たち代表メンバーが映し出されたモニターが置かれている。
『機械使い慣れへんメンバーでセッティングするの大変やってんで?もっと構ってぇや』
今日この日のサプライズのために寝る間も惜しんで覚えたのだと宮が力説する。
「いや、バレーの練習してくださいよ……」
日向が少し呆れていうと、そもそも今日は全員が休養日だったのだと星海がモニターの向こうでネタばらしする。日向の誕生祝いのためだけに監督やコーチもグルになっていけしゃあしゃあと嘘をついていたのだ。密なスケジュールの中、偶然にも日向の誕生日が空く予定に気づいた誰かが言いはじめたサプライズ。
『日向、迷惑だったのか?』
「牛島さんもこういうノリに参加するんですね…」
『別に嫌いではない。白鳥沢の頃は天童がよく企画していたな』
意外、と思ったが牛島なりに楽しんでいるらしい。
「嬉しいですよ?驚きましたけど。ありがとうございます」
『おっしゃ!サプライズ成功やな!夜は食堂で誕生パーティやからな!晩ご飯までには帰ってきいや』
たったこれだけのために機器を繋ぐやり方を覚え、全力で楽しめる友人たちに脱帽する。
きっと他の誰かの誕生日だったとしたら、日向も全力で楽しむに違いないのだが。
「本当に、ありがとうございます」
そう言って笑うと、モニターの向こう側も笑顔に溢れ、じゃあまた後でな、と映像が切れた。
「さぁ、こっちもパーティはじめようぜ」
「え?夜もやるのに??」
「俺らは合宿所入れないもん」
「大丈夫。糖質やカロリーは抑えてるよ」
俺らも祝いたいじゃん、というリエーフの言葉の後、さっきまではいなかったはずの福永が料理を乗せた大きな皿をテーブルに並べていく。
「原稿回収したら赤葦も来るって。あと芝山と犬岡が来れなくてごめんって」
孤爪がスマホを確認しながら言う。
「研磨、今日はほんとありがと」
「……。別に。おれは場所と機材提供しただけだよ」
孤爪は今回の大会で日向が気負い過ぎていたのを察してくれていたのだろう。
「うん。ありがと」
この後改めてお祝いの言葉をもらって、日向は楽しい時間を過ごし、その様子を配信されていたと知るのは帰り際。

「あ、これ生配信してたから」
「え?」
「あとで編集して廊下走ってくとことか入れようかな?ちゃんと撮れてるかな?」
「え??」
「カメラ設置するの結構大変だったんだよね。ほとんどクロにやらせたけど」
「えーっと?」
「翔陽出ると再生回数すごいからほんと楽しい」
「け、研磨さん……?」
後に、束の間の休暇を楽しむ代表選手をはじめ、売れっ子モデルの灰羽が日向や孤爪たちと知り合いだったことや、まだ売れていないが一部コアなファンを持つ福永も参加していたこともあり、この動画は日向が出演した配信の中で一、二を争う再生回数を稼ぐことになる。

そして誕生パーティは夜の部まで続くのだった。

Happybirthday!!HINATA2024