例えば、「青い鳥は実在するか?」という命題に対して、「居るわけが無いだろう」と一蹴するのが弟で、「いるかも知れないね」と微笑うのが僕だとしたら、ソフラフェア=リグという青年は「居るか居ないかと問われて、居ないと断言するためには、世界中を隈なく探し回って調べ尽くさねばならず、だから合理的に考えるならば「居るのかも知れない」と曖昧に答えを濁しておくのが最適なのだろう」と、ご丁寧に自分の思考回路まで解説してくれるだろう。
どこまでも思考回路がひねくれていて、夢など一瞬たりとも見ないような現実主義者。頭はいいが、それを使い熟す術を持ち合わせない不器用者。青白くてひょろ長い、病気がちで決して強いとは言えない人間。それが、僕の義兄弟であり、親友であり、守らなくてはならない一人の人間に対する僕のここ10年余りの解析結果の賜物である。
彼――無論、ソフラフェア=リグが、僕の義兄弟となったのは、確か13年程前のことである。
元々は、彼と僕は友達でも何でも無かった。ただ、家がそこそこ近く、同じ学区に住んでいた、別段仲も良くないような小学校のクラスメイト同士だった。
彼は生まれついてからあの性格なので、特にクラスに打ち解けることも無く、ひっそりと教室の隅で呼吸を繰り返すような生活をしていた…と思う。対する僕はクラスの中心に立つタイプで、一応クラスメイト全員の顔と名前は一致しているものの、はぐれものにわざわざ声を掛けに行かずとも周りに友人が沢山いたので、特に用のない話をすることも無かった。
そんな彼がサファ家(言い忘れていたが、僕は名前を『アトメオクト=サファ』と言う。それは今の名前であって決して本名では無いし、そもそも僕はこの名前が大嫌いなのだが、それは今は関係ないので置いておこう。つまり僕が言いたい事は、僕らの家が世間で『サファ家』と通称されるという、それだけなのだ。)に来ることになったのは、運命のいたずら、形容するならば、神様が大事な場面でうっかりくしゃみでもしたかのような偶然の上に成り立つ。
たまたまその日、滅多に家に帰って来ない父さんが帰ってきていて、オムライスを作る卵が足りなくなったこと。大抵その場合使いに出されるカイが風邪をひいていたこと。そして僕が店で卵を買うのに色々と手間取ったこと。それらは偶然のようで必然で、当然のようでそうではない。様々な要素がうまい具合に噛み合って、僕はあの雪の日に、血を流して人通りの少ない一方通行の道に倒れている彼を見つけるに至ったのだ。
電球が切れかかっていたのか、暗い上にチカチカと点滅する街灯に照らされた雪の紅さを覚えている。彼の服には溶けた雪と、彼の体から出たのであろう血とが、重く染み込んでいた。彼の体は、そこらの死体よりも冷たかったと思う。だけれども、どうしたことか僕は、手持ちの物で出来る限りの応急処置を行い、そのまま意識の無い彼を担いで一番近い医者まで連れて行った。その後のことは良く覚えていないが、暫く後、彼はそこよりもう少し大きな病院に入院することになった。――我ながら、素晴らしい精神力。ある意味超人である。
少年の僕の精神力の話はそれとして、彼の話に戻ろう。二日の昏睡期から醒めた彼の目に最初に映ったものは、テレビのニュースだった。彼を刺し更にはその母親を殺した凶悪殺人犯の。
「これ、お父さんだよ。」
「えっ?」と、見舞いの暇つぶしにテレビを付けていた僕は、慌ててさっきまで昏睡していた少年を振り向いた。
「だからね、僕を刺したのも、お母さんを殺したのも、お父さんだから。」
さっきまで意識の無かった人間とは思えない、ゆくっり且つしっかりとした口調で彼は言い、寂しく笑った。
その日から暫くして、彼の病室は取り調べ室のような雰囲気になり、何人もの警官が出入りするようになった。僕はなんとなくそこに行けなくなり、次に彼の元を訪れたのは、彼の父親が逮捕された後だった。
「僕が、お父さんが居そうなところを教えたんだ。やっぱりそこで見つかったって。……本当はね、そこに居ないといいなって思ってた。僕は、お父さんもお母さんも大好きだから。」
本当だよ。そう言った寂しい笑顔。
「うちにおいでよ。一緒に暮らそう。」
無意識のうちに、口が動いていた。
「僕が頼むから。ね、父さんも母さんも、やることやったら文句なんて言わないよ。だから、一緒に来て。」
彼らは僕の本当の家族では無かったのに、随分と自分勝手に話を進めたものである。考えなしの子供ほど、恐ろしいものもそうそう無いだろう。
しかしまあ、それから先は驚く程トントン拍子に話が進んだのである。「本当にいいの?本当に?」と、此方が聞いてしまうほど。彼に至っては、全てなされるがままだった。
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