随分時間が空いてしまいました。季節はもう春、、、皆様、花粉症お見舞い申し上げます。
さて。「雪の幻想」について、後日談をいくつか書きたいと思います。「雪の幻想」と「長崎の歌は忘れじ」についての調査結果です。「歴史的な証言」もありますので最後までお付き合いくださいね。
■「雪の幻想」の作曲者はだれ?
「長崎の歌は忘れじ」のDVDジャケットには、早坂文雄先生が作曲および音楽を担当したと書かれており、衛藤先生のお名前は一か所も記述がありません。そこで調査してみると、以下の事実が判明しました。
1. 日本音楽著作権協会(いわゆるJASRAC)のデータベースでは、「雪の幻想」は衛藤公雄先生が作曲した、と登録されています。また、衛藤先生の楽譜を管理されていた姉弟子の資料によると、1952年に衛藤先生がJASRACに登録した、となっています。
2. 明治学院大学の早坂文雄資料館には、「長崎の歌は忘れじ」の草稿譜・手書き譜が残っており、雪の幻想に相当する部分も早坂先生の手稿譜が残っているそうです。JASRACには、「長崎の歌は忘れじBGM」という登録もあり、その作曲者は早坂文雄となっています。
3. キングレコードから1950年に発売された「雪の幻想」のレコードジャケットには、
著者:早坂文雄 作編曲
著者:衛藤公雄 琴
演奏:衛藤公雄 琴
との記述があります(国立国会図書館の調査結果)。
4. 1957年ころに、NHKのラジオ放送で「雪の幻想」が放送された際は、作曲:衛藤公雄、原曲:早坂文雄 となっていました(日本音楽国際交流会の資料による)
5.2016年に上梓された自演CD集「奇跡の爪音」に収録された際には、作曲:衛藤公雄となっています。
そのほか、いくつかの証言があるのですが、一次データに直接つながっているのは、上記5つに集約されるかと思います。
ここから先は、私と夫の仮説です。
おそらく。雪の幻想は、四段目(映画の中では「心の真珠」という名前)が最初に早坂先生の作曲で存在したのではないでしょうか?実際、演奏してみても、四段目は他の段とはずいぶんと趣が異なりますし、映画の中では「心の真珠」として用いられていますから。
これを箏曲「雪の幻想」にする際に、ほかの段を早坂先生と衛藤先生が作ったのだと思います。冒頭の音は、衛藤先生の響きだと感じますし、2,3段目の速いパッセージは衛藤先生ならでは、の指使いです。こんな感じで、きっと二人で楽しい時間を過ごし、あっという間に出来上がったのが「雪の幻想」でしょう。書き留める際は、、、衛藤先生はお目が不自由でしたから早坂先生が楽譜にしてくださり、それが手稿譜として残っている。
合作とはいうものの、箏ならではのパッセージをはじめ、衛藤先生の寄与が大きいとお感じなられ、また、早坂先生より10歳年下でまだ26歳だった衛藤先生を応援する意味も込めて、JASRACに登録する際は衛藤公雄作曲、となったのではないか、と推察しています。
このように推理して、改めて衛藤先生が1961年にカーネギーホールで弾いた「雪の幻想」を聴くと、四段目を随分と大切に弾かれているな、と感じます。
■ 幻の32絃箏発見!
前々回、映画からカットした写真を改めてご覧ください。随分と大きな箏です。普通の箏は13絃。17絃箏もありますが、それよりも絃の数は多い。古い映画なので糸の数を数えることに苦労しましたが、30本以上のようです。三十絃箏を初代宮下秀冽先生が考案したのは1955年で、1952年の映画には間に合いません。、、、ということで姉弟子の宮川嘉有子先生にお訊ねすると、「衛藤先生の32絃箏でしょう」とのこと。衛藤先生が進駐軍(古い表現です!)でジャズを演奏していたころ、ご自身で32絃箏を開発して演奏していたそうです。私が門下生になったころはもう手元にはなかったようで、一度も拝見したことはありませんでした。その32絃箏に、映画「長崎の歌は忘れじ」で会うことができました! これは大興奮です!!
そんな意味もあり、この「長崎の歌は忘れじ」は、箏の歴史を語る上で無くてはならない映画なのだ、と改めて感じました。そして、、、そんな珍しい箏をプロ顔負けに弾いている(実際は演技でしょうけど)京マチ子さんの多芸ぶりにも脱帽!です。写真は、映画から、改めて京マチ子さんが32絃を弾いているシーンです。
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