今年のよく降る雪を見ながら、衛藤公雄先生の「雪の幻想」の感じではないなと思ったと先日書きました。今日はその「雪の幻想」について書きたいと思います。まずは、衛藤公雄先生演奏の「雪の幻想」をお聴きください。

 
この曲は1952年、京マチ子主演の大映映画で「長崎の歌は忘れじ」という映画の劇中で使われた曲ということです。この映画のお話で、昔衛藤公雄先生のお姉さまの大塩寿美子先生にご指導いただいていた時に、大塩先生が「あの映画で私は京マチ子に箏の指導をしたのよ。箏を弾いている私の手が映っているの。」と懐かしそうに話されていたことを思い出します。
 
ここからは、私がこの曲を演奏する時に心掛けていることを書きます。写真は、私の使っている「雪の幻想」の楽譜の一ページ目。この曲は公刊されていないので、楽譜を見たことがある方は少ないかもしれませんね。私自身の写譜によるもので、もう2X年まえから使っているものです。書き込みも沢山!
 
雪の幻想はEHH(もしくはCGG)の三和音で静寂を破るかのように始まります。辺り一面雪しか見えない真っ白な光景。私が普段住んでいる場所ではそこまで降りませんし、降ってもすぐ解け始めますのでこの感覚はなかなか味わえないのですが、雪が降り積もると急に他の音が聞こえなくなる、あの感覚。シーンとした中に、ただただ降っている、、、冷たい雪。曲の始まりは、この世界を"冷たい音で"表現しなくてはなりません。一段の出だしの三和音は、とても重要です。
 
雪の幻想は一段〜八段の構成です。二段に入ると冷たい風に吹かれて降り続ける雪の光景。二段とそれに続く三段のPassageは速く正確に弾き、容赦なく激しく降るさまを表現するには相当な練習を要します。二段始めの左手と右手を駆使した手は凸凹にならないように弾くこと、そして特別な表現を持ち込まずに一気に弾くことです。三段では中指で弾き左手で半音ずつ音程を変化させる手法も現れます。
 
四段になるとそれまでの速さ、強さからは一転、三和音アルペジオ連続で静かな美しいメロディーを奏でます。ここで注意しなくてはならないのは、感情移入しすぎて間延びしてしまわないこと。美しいメロディーこそ、自分が思っているよりも淡々と聴かせることで美しさが際立つのです。
 
五段では六段に向けて動きを見せはじめます。手の大きい衛藤先生だったからこういう運指を考えられたのも頷けますが、中指と親指を交互に弾くこと10小節、しかもその指同士の間隔はだんだん広がり弾きにくいのです。ここは八分音符の連続で次第にその音同士もオクターブの関係を超えて高音域も使い、心理的には高揚していきます。そしてそのまま六段に流れ込みます。七段は二段と同じですが最後は静かな光景に戻ってきます。
 
八段。また静かな冷たい雪の光景。一音一音冷たい音を紡ぎ出していき終わります。弾き終わってもなお、その余韻、世界に浸りたい心持ちになります。