衛藤先生と私自身の思い出話。芸大受験の頃の話を書きたいと思います。

 
 高校二年生の頃、私は大学受験の第一志望を東京芸術大学の邦楽科に決めていました。芸大で色々な音楽を学ぶことは、私の夢でもありました。小学生、中学生の頃に教わった青山先生は、私を芸大に行かせたいと仰っておられていましたし、私自身、芸大に行くつもりでした。
 
 衛藤先生は、お弟子には芸大に行かず衛藤公雄の弟子でいてほしい、というお考えであることを、私は存じ上げていました。ですが受験への熱は収まらず、お稽古のおりに自分で先生に「芸大を受験するつもりです」打ち明けました。その時、衛藤先生は大変残念そうなお顔をされました。そしてしばらく沈黙の後、ただ一言。
 
「芸大に4年間行った後、また私のところに戻ってきてくれますか?」
 
とだけおっしゃいました。私はもちろん、「はい。」と答えました。芸大に行っても、衛藤公雄先生の弟子であることは変わりません。先生の教えや音楽から離れる訳ではありません。ただ少し、(箏の世界における)世の中を見てみたかった。17歳の私は単純にそう考えていました。
 
写真は、そのころの衛藤先生と私の貴重なツーショット。ある演奏会の後の会場での一コマです。