終電を逃し、ネカフェを満喫した後、始発でお家に帰った。
まだまだ暗くて、上着をネカフェに置き去りにしてドンキで買った服着て女装してったから寒くて、コンビニのイートインスペースに寄って明るくなるのを待っていた。
なかなか明るくならなくて、ゆっくり明太もちチーズまんを食べた後、諦めて寒い中帰ろうと立ち上がると、なにやらオレンジやらピンクの派手な服をきたおばさんが話しかけてきた。
「旅行いくの?おっきな荷物ね」
イヤホンを外して「帰りです」と答えると、おばさんは、今日の飛行機を数日先延ばしにしたと話し始めた。どうやら足を怪我したらしい。
数年前に無理を言って貰った、旦那の骨壺を持っていくとの話だった。兄弟には後々困るととめられたらしいが、貰わんと生きてけん、と無理を言って骨を貰ったんだと。愛していたんだなあ、とほっこりしてしまった。
話を聞いていると、40後半だと思っていたおばさんは、もう70だと言う。お若い!
私が神奈川に行ってたと言うと、おばあさんも元々は神奈川にいたらしい。旦那が勝手に仕事の都合で春日部に行ってしまったのをなんとか探し出して、追いかけて埼玉まできたらしい。あまりの一途っぷりに私は感動した。私の理想の女はこんなところにいたのか!なんちゃって。
綺麗な目で、細くて背筋の伸びた綺麗な人で、若い時は大層可愛らしい人だったろう。
「沢山話しちゃって申し訳ないから、ココアあげますよ。混ぜて飲むんですって」
まだ口つけてないから、と差し出され、私はありがたく貰うべきか遠慮するべきか悩んだ。
すると、ミルク嫌いなのに、店員さんが親切でミルク入れちゃったから飲めない、と言う。最初は私に気を遣ったのかと思ったのだが、コーヒーにも入れない、ミルクは大嫌いだと言う。
私がお礼を言うと、おばあさんは颯爽とレジへ向かった。
しばらくすると、ミルクの入ってないココアと小さめの焼酎をもって私の隣に座った。
そしてまた話し出す。
おばあさんは沢山の話をしてくれた。
60まで一滴もお酒呑めなかったらしく、でも旦那が好きだったビールや焼酎を旦那にあげても、子供もいないし友人も呑まないもんで、自分しか呑む人が居なく、そのうち呑めるようになったと言う。
そこから、衝撃的な話を聞いた。
旦那より先に死にたかったが、先を行かれてしまったと、生きていけないと、自殺をはかったらしい。
このコンビニにある、36度のウイスキーをストレートで、一気に半分と呑んで倒れたと言う。しかし、たまたま友人が家を訪ねてきて、気がついたら病院のベットの上だったと。先生になんども呼びかけられ、やっとこさ意識を取り戻し、助かったのだと言う。先生が呼びかけなかったら、そのまま死んでたなんて言い出す。
そういえば、旦那が倒れたとき、いつもは居るのにたまたま自分がその場にいれず、助けられなかったとずっと悔やんでると言っていた。
しかし、いまは自分で死ぬ気はないらしい。友人も死んでしまったが、自分で死んでは会えないと聞いたから生きてるんだそう。
「口角が上がってて、アヒル口で、いいですね」
おばあさんは唐突に私を褒めた。印象がいいと。口紅とアイライナーでほんの少し口角をあげているとはいえ、なんだか嬉しいもんだ。
そこからホクロの話をして、私と同じところにホクロがある芸能人が好きだったと話し出す。
旦那と会う前追っかけをしていて、外国人と結婚してショックだったらしい。
好きになったらその人しかダメらしく、追っかけ時代は誰のことも好きにならなかったと言う。その後旦那と会ってからは、旦那だけだったとも。
まっすぐすぎて、やきもち焼くしあんまりよくないと言いだすので、思わず私は、良い事です!と力説した。
「やきもち焼かれなかったら寂しいじゃないですか!すてきなことです!」
微笑みと苦笑いの境界線のような表情を向けられたが、私の意見は変わらない。とてもすてきな人だ。
話は変わるが、ちょうど昨日が友人の三回忌で、腹痛になったときは友人に呼ばれたのだと思ったらしい。墓参りに行けなかったバチがあたったかしらなんて言ってたが、私なんてもう何年も母の墓に行ってないから、そろそろ私も激しい腹痛に襲われるかもしれない。
お互いココアを飲み終わり、2人でコンビニを出てお別れをした。
別れ際にお互いの名前を教えて、私がお大事に!というと嬉しそうにありがとうと返された。話してきた中で一番嬉しそうだった。
荷物持ってあげたいけど、医者にあんまり歩くなと言われてるからと言われてるからなんて申し訳なさそうに言われて、ほんとに人に尽くす人なんだろうな、なんて思う。私、めっちゃ元気なんで!がんばります!家まっすぐなんで!と言ってわかれた。
別れ際、おばあさんが振り返るのが見えてほっこり。
ちなみに名前は、私が行った神奈川の駅の名前に田を足した名前だった。これは私のメモでしかないのだが。
一途で危うい、美しい人間だった。
私はおばあさんに会えてすごく嬉しかった。
生きていてくれてありがとう。
なーんて勝手に思っている。
なんたって、私の演じた理想の女そっくりなんだもの。言い表せない感情がずっと胸を渦巻いている。すてきな人だった。
私みたいな嘘と演技の汚い紛い物じゃない、本物の女だった。理想。なんて、素晴らしい。
明るくなった空を見上げて、寒い寒いと言いながら充実して気分で家まで帰ることができた。
さあ、課題を終わらせなければ。
