あたしは自分で言うのもなんだが、情の厚い女だ。気前も良い。

あたしを頼ってくる人に親身になりすぎるきらいがある。


あいつはそんなあたしの性質を見破っていたに違いない。

退屈な時、困った時、そして頼みがある時に連絡をしてきた。

あいつは廊下ですれ違う度に、人なつっこい笑顔を振り撒いて挨拶をしてきた。

そして少しずつあたしを自分のペースに巻き込んでいった。


気づくといつの間にか、あたしとあいつは社内で公認の仲良しさんみたいになっていた。

あたしはだんだんそれが苦しくなってきて、あいつと距離を置くようにしたりした。

あいつは妻子持ちの単身赴任者だから、不倫しているなどという噂に発展するのが怖かったし、あいつの存在が特別に感じられてしまった時、苦しむのはあたしなのは分かっていた。


しかしそんな心配をする必要はなくなった。あいつは転勤になって、あたしの前からあっさり消えた。

連絡もめっきり減った。生活が変わって忙しいのだろうと思っていたけれど、あたしはふと気づいた。

あたしはもう必要がないのだ。


あたしには見える。

新しい職場で人なつっこい笑顔を振りまいて、女に声をかけるあいつの姿が。

情に厚そうな使えそうな女を本能的に見極めているあいつの姿が。

 

そしてその女に嫉妬するあたしがいる。

立場が逆転している。

頼っているのはあたしだ。