ウリ坊

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「今日さぁ 私 アンキョでチコを見たんよ」

おふくろが おやじに報告をして間もなく

 

 

「今日は 俺が下の道を車で走っていたら

チコが横を 一緒に走っているんさ」

 

 

「エー?」

 

 

「車を止めて チコちゃん! って声をかけたら

チコも止まって こっちを見たんだ」

 

 

「それって お父さんのことがわかったっていうことだね」

「そんな方まで 行くようになったんだねぇ」

 

 

「だけど いつも 一人ぼっちでいるんだよな」

 

 

「そうだね 見るときはいつも 一人ぼっちなんだよね」

 

 

 

 

 

 

この頃のオレは けっこう遠出をするんだ。

外の世界は 未知にあふれている。

 

 

オレは 一人で冒険をすることがたまらなく好きなんだ。

おやじが昼ご飯を食べに帰ってくる時間を見計らって

 

 

オレも家に戻って ごはんを食べると

再び 外の世界に出かけて行く。

 

 

外から帰って来た オレの足や体を拭きながら

おふくろが聞く。

 

 

 

 

 

 

「チコちゃん どこに行ってきたん?」

「ウリちゃんに 行きあわなかった?」

 

 

「ウリちゃん」 って ウリ坊のこと。

ウリ坊 ってのは イノシシの子どものこと。

 

 

おやじが 幾日か前に言ったんだ。

「アンキョで ウリ坊を見たぞ」  ってな。

 

だから おふくろは 当然

オレが ウリ坊と遭遇しているもの と考えたんだな。

 

 

最近 カモシカを見なくなったなぁ

って話していたら 今度はウリ坊の話題。

 

 

(これは もうだいぶ前に庭に現れたカモシカ)

 

 

そんな話から間もなく おふくろが家の中にいたら

外で ガサガサと 落ち葉がこすれる音がした。

 

 

おふくろは オレが庭で何かやっているのかと 

外をのぞいてみると なんと やつがいたんだ。

 

 

 

 

 

 

やつが ウリ坊。

オレの半分くらいしか 体積がない。

 

 

おそらく 体重は もっと少ないかもしれない。

大人のイノシシと違って 体毛がフワフワしている。

 

 

野生のイノシシが 人家にこんなに近づくものなのか・・

おふくろ 今日の昼ごはんの時は オレの足を拭きながら

 

 

「チコちゃん ウリちゃんに行きあった?」

「ウリちゃんをいじめちゃ ダメだよ」

 

 

オレは 平和主義だから 争いごとはしないもの。

だから 近所の仲間たちとも 争いはしたことがない。

 

 

じっと 離れた場所から 皆を観察しているだけだ。

基本 一人でいる。

 

 

 

 

 

 

それに こんなまっさらな命 いじめろ って言われたとしても 

いじめることなどできっこない。

 

 

 

 

 

 

なんて 愛らしいんだ?

やつの兄弟は 他に2頭 いや2匹っていうのかな?

 

 

全部で3匹が 「ブォ ブォ」 って言いながら

家の周りで遊んでいた。

 

 

やつらは あと数か月で大人になって

猟の人たちに 狙われる運命になる。

 

 

すでに 猟が解禁になったそうだ。

やつらは このあと間もなく カメラを向けたおふくろに気づいて

 

 

土手の方に 走って行った。

おふくろは 急いで その後を追うつもりでいたら

 

 

ウリ坊のすぐ横で おふくろには見えなかったけれど

どうやら 親らしき 太い声が聞こえた。

 

 

「ブオッ ブー ブオッ!!」

ってな。

 

 

さすがのおふくろも その声にはたじろいで

心臓が ドキッとなった。

 

 

”うっかり ウリ坊を追いかけて行ったら

えらい目にあうだろうなぁ・・”

 

 

その後のウリ坊を 観察したかったのだけど

おふくろは そこでやめて 家に入ったんだ。

 

 

ほんの数日前に こんな足跡を見たばかりだもの。

 

 

 

 

 

 

目の前の庭を ほじくり回してある。

大人のイノシシのしわざ。

 

 

くわばら くわばら・・・

なぁ。

 

 

最後に 幼い魂や弱い動物たちが

痛めつけられない世の中になりますように・・・

 

 

弱いものを傷つけることで 自分を保たなければならない

人間たちの心が 癒される世の中になりますように・・・

 

 

心から 祈る。