~ 一生に一度の愛 ~ 

 

 

 

 

 

ここはシャスタイン王国、北欧のある小さな国。

登場人物:メイド・リサ、ボーイ・エリアス(庭師・シモン)

               執事、国王・カーキュレ・サラ・シャスタイン 俗称カーク

               国王の子:クレト

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 広々と美しい緑が眩しい中に、空色を映し出す湖が広がる。

北欧の秘境とも揶揄されるこの国は、シャスタイン王国という。

厳しい冬が過ぎて、花の香が舞う季節となった。

王国を統治する国王が暮らすのは、国旗がはためく城。

城は湖畔から離れた森の中に、凛とその存在を誇る。

城に従事している庭師、シモンは汗を流しながら池の苔を払っていた。

小道を散策する小さな男の子と、その母親が歩いて来る。

シモンは、その話し声を聴いて仕事の手を止め立ち上がった。

汗と泥で汚れてしまっている顔を、軍手を履いた手で拭う。

そして、軍手を帽子を脱ぎ捨て駆け寄ったのだった。

会いたくて堪らなくて、月を見上げては願った瞬間。

「リサ!」彼女に届くようにと、声を張り上げた。

お互いの視線が交差する。

リサと呼ばれ、目の前に現れた男が誰なのか気がついたようだ。

 

「エリアスっ?!」

「リサ、ああ、会いたかった……っ」

「なぜ、どうして?!」

「君に会うために、名を変え庭師となって城に潜り込んだんだ。君はあの頃のまま……綺麗だ」

 

エリアスは薄汚れた指先で、リサの頬に触れた。

 

 

 

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エリアスは、シモンと名乗り城の庭師として最近雇われたばかりだった。

名を変えただけで、正体を知られることなく城へ入り込めたのは幸いだった。

会いたいと願ったリサに再会し、その日からというものの二人は逢瀬を重ねた。

ひと目を忍んで時を共にしたのは、庭道具を保管する小屋だった。

 

「エリアス……愛してる」

「……国王は、君をどんな風に抱くんだい?」

「そんなこと、訊かないで……」

「俺とどっちが巧い?」

 

嫉妬にはらんだ熱を宿した瞳で見つめる。

答を待つのでもなく、リサの柔らかな唇に唇をはわせる。

リサは国王を夫に持つ、王妃の身分。

罪悪感を負いつつも、この密やかな時間に酔っていく……。

 

 

 

 

 

―――  5年前

 

夏の陽射しが肌を刺すかのように照らした、ある日。

王子であったカーキュレ・サラ・シャスタインが即位し、王位を継承した。

前国王が急死してしまった為だ。

王妃との夫婦仲も良く、国中から憧れられていた前国王の急死。

亡くなったときには、国中が哀しみに包まれていたほどだ。

それまでは病に患ったこともないほどに、健やかな毎日を送っていた前国王。

大病を患いこの世を去ったことで、あらゆる噂が流れた。

 

王子が国王の座に即位したいがために殺めたのでは?

浪費家の女王と揉めて事故死したのでは?

恨みを持つ何者かが毒を盛ったのでは……?

などと、城だけにとどまらず国のあちらこちらでもちきりであった。

前国王に一番近しい立場にあった執事は、独自に犯人探しを始める。

口にするもの、目撃情報、メイドたちに尋ね回った。

すると、頻繁に離れにある書庫に訪れていたことが判った。

書庫番をしていたメイドに、前国王の様子を訊き出そうと出向くことにした。

インクの匂いが充満した部屋は、電灯の明かりを抑えて薄暗い。

 

「お前の名は?」

「……リサと言います」

「リサ、国王が頻繁に訪れていたというのは確かか?」

「……、はい……いらしていました」

 

リサの表情は、気立ての良さがにじみ出て美しい。

灯されている電灯が、目鼻立ちもくっきりと浮かび上がらせている。

執事との間に、言い知れぬムードが生まれた。

リサには、男の独占欲をかきたてるような色気があったのだ。

執事は生唾をゴクリと飲むと、リサは妖艶に微笑んだ。

いつも冷静に対処ができる執事でさえ、引き込まれそうになる。

首をブルッと振ると、忌まわしい感情を振り払った。

落ち着きを取り戻し、リサの姿を上から下へまじまじと眺める。

線の細い、女らしい丸みを帯びた体が印象的だ……。

突如、リサがふらりと倒れ込んだ。

話を聞くと、どうやら体調が良くないらしい。

 

「それほどまでに悪いのなら、休暇を取ったらいい」

「……いえ、病気ではないので」

「病気ではない?どういうことだ?」

「あの、つわりが酷いんです」

「つわり?!懐妊しているのか……

よもや、国王の子ではあるまいな?!」

 

リサは否定もせず、ただ黙って俯いている。

人目にさらされない空間で、国王と何があったかは憶測の域を出ない。

 

「お腹の子どもは、私の子。必ず生みます」

「まさか、国王に限ってっ……噂が本当だったとは……!」

「……」

「お前、このことで国王と言い争いになったんじゃないか?」

「いえ!国王は!国王はきちんとご自身の子として育ててくださると!」

「ならば証拠を見せろ!」

「……っ」

「そうであろう、子の処遇で言い争い、国王の命を奪ったのはお前だな!」

「違いますっ」

「いいや、嘘を言えっ、お前の罪は重い。牢に放り込んでやる!」

 

別棟に連れて行かれたリサは、石畳の牢へ閉じ込められてしまう。

押し込められ、膝から転んで小さく悲鳴をあげた。

鎖錠をかけられる音があたりに響き、リサは絶望を感じた。

階段を下りてゆく足音が消えて、静寂に支配される。

「私は何もしていないのに……!」

悔しさと悲しみで、怒りがこみ上げて来る。

牢を見渡すと、片隅に質素な寝床が用意されていた。

お腹をかばうように、ひんやりとした布団に身を沈ませ夜を明かすのだった。

リサが国王殺害の罪で囚えられたことは、翌日には城中に知れ渡ることになる。

 

エリアスも例外ではなかった。

恋人、リサが国王を……そんなことがあるはずがない。

メイドとボーイという立場が同じで、親しくなるのは必然であった。

仕事が終わると、決まってエリアスがリサの元を訪れる。

淑やかで、控えめで、自分だけを愛していると言っていた。

「無実の罪を着せられているに違いない……」

確信を得ているエリアスは、真犯人を突き止めると決意する。

一番怪しいと考えたのは、国王の嫡男であり即位したばかりのカーキュレ・サラ・シャスタイン、カーク国王だ。

ボーイという立場を使って、カーク国王の部屋へ忍び込んだ。

清掃用具を操りカモフラージュしながら、部屋中を調べ回る。

窓辺に設置された飾り棚には、即位の証、王冠が置かれていた。

宝石が散りばめられたそれは、エリアスの目を奪った。

すぐに、忍び込んだ目的を思い出す。

我に戻ったエリアスは、再び部屋を探索した。

証拠となる”物”は、すぐ目に入る場所にはないだろう……。

考えられる場所を全て見ていったが、カーク国王の部屋からは何も出なかった。

次に未亡人となった王妃の部屋へも、潜入を成功させた。

同じように清掃用具を片手に、部屋中を調べる。

クローゼットから机の引き出し、枕の下……。

そして、装飾の美しい鏡台の引き出しを開けた。

化粧品と思われる小瓶が並び、その奥に暗緑色をした小瓶を見つけた。

スポイト式のその蓋を開けてみると、無色透明の液体が半分ほど入っている。

「これは毒じゃないのか……」これが毒なのかどうなのか、確かめる必要がある。

国王の命を奪ったのが毒のせいで、これが毒なのだとしたら……。

エリアスはその可能性に気づき、恐れ、身震いをした。

「なんと恐ろしいことか、事もあろうに王妃が犯人かもしれないとは!」

何に対しての怒りか、恋人が罪を負わされていることへの悔しさか。

国中から慕われてやまない国王が、裏切られ命を奪われた事実へか。

その小瓶を握りしめ、瞳を閉じると何とも言われぬ感情を押し殺して部屋を出た。

 

毒か否かを確かめるため、何かの命を犠牲にすることはたとえ正義のためでも許されることではない。

それでも、愛する恋人リサを救うためにはと、城の裏手にある森に入った。

木漏れ日を浴びてひっそりと可憐に咲く野花を摘む。

キッチンにあった空き瓶を持ち出していたエリアスは、野花を瓶の中へ落とした。

そして王妃の部屋から持ち去った小瓶の液体を、一滴……。

白い花びらの上へ垂らしていった。

「……間違いない、これは毒だ」

 

 

 

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夕刻、エリアスは王妃の部屋にいた。

優雅に椅子に腰掛けていた王妃の前に、例の瓶を並べる。

部屋の清掃中に見つけたと、突きつけてやった。

 

「……私の部屋から出てきたという証拠でも?」

「このような高価な瓶、使用人たちには到底入手できないものだ」

「っ!だからと言って国王に毒を盛ったとは言えないでしょう。何より国王は病死だわ」

「前日までお元気で、国民に笑顔で挨拶されていた国王が病気だったと言うのですか」

「何が言いたいのかしら、何が目的?」

「……牢に無実の罪で囚われているリサを開放してくれ」

「リサ……ああ、あの書庫番ね」

「ああ、そうだ。一刻も早く出してくれさえすればこの件は誰にも言わない」

「あなた、エリアス、と言ったわね。もしかしてリサは恋人?」

「だったらどうだと?」

「あの女……国王の相手をしていたのよ。とっくに愛情が冷めた私は見て見ぬふりをしていたけれどね」

「それはどういうことだ?!相手って、何の?!」

「チェスの相手だとでも?馬鹿ね、男女の秘め事よ」

「っ!そんな、あるわけないっ、彼女は俺の俺だけの……っ」

 

思いもよらないリサの裏切りを告げられ、混乱するエリアス。

それから後は、王妃の話が異次元から送られているかのような錯覚に陥る。

それでもリサの無実が確かなこと、牢から開放すると王妃は約束した。

国王の命を奪ったのが王妃だという真実と引き換えに……。

 

翌朝、王妃は別棟にある牢へ足を運んだ。

牢番に鍵を開けさせると、人払いをしリサに向き合う。

リサは突然の王妃の訪問に狼狽え、精一杯の敬意を払った。

「あなたの罪は免れました」王妃が確かに、はっきりとそう言ったのを聞く。

安堵してその場に崩れ、顔を両手で覆い声をあげて涙を流した。

その姿を見た王妃はリサの手をそっと取ると、静かに告げた。

 

「エリアスがあなたを助けてくれと、私のところへ来たわ」

「本当に……?!」

「二人で、城を出ていきなさい」

「え……」

「カークが国王となった今、前国王と関わりのあるあなた達は部外者でしかないの」

「…………王妃、私のお腹には国王の血を引く子が宿っています」

 

王妃の目を真っ直ぐに見つめ、確かな口調で偽りのない言葉を言った。

国王が頻繁に書庫へ行き、そこの娘を我が物にしていると気がついてはいた。

王族の血を受け継ぐ可能性を否定できない子を、城外へ出して良いものか。

究極の決断を迫られてしまう。

王妃は瞳を閉じ、沈黙の中で考えた。

罪深い自分……追い打ちをかけるかのような新しい命の存在。

これ以上罪を重ねることは、王妃の良心に反するもの……。

 

 

牢から出されたリサは、後継者の母となるかもしれない体だ。

王妃の手配から、使用人用の住まいから城の中にある一室を与えられた。

その話を聞きつけたエリアスが、リサの元へやってきたのは数日後になってからだった。

どうしても確かめなければならないことがあった。

真実の、唯一の愛だと信じていたリサが裏切っていたという王妃の話。

幸い、リサの部屋は人があまり来ない場所にある。

エリアスは、ドアをノックした。

すぐに返事がして、快く迎え入れられる。

 

「エリアス、よく来てくれたわ」

「……リサ」

「あなたにお礼が言いたくて、でもここから出られなくて困ってたの」

「お礼って、無実の罪を暴いたことかい」

「そうよ、私が罪を犯してないって王妃に言ってくれたって聞いたわ」

「罪は犯してはいなかったようだね……」

「罪は、って……どうしたの?何かあったの?」

「君のお腹に赤ん坊がいるっていうじゃないかっ!それも国王のっ」

「……ええ、そうね……確かに、私のお腹には新しい命が宿っているわ……」

「裏切っていたんだな、信じられない」

「っこの子は、エリアス、あなたのっ……」

「……っ、まさか、俺の子だとでも?」

「……噂があるのは知ってる、でも信じて、お願いっ私の話を聞いて!」

「リサ……分かった」

「国王は、書庫に来る時はいつもお疲れだったの。少しでも力になれたらと……」

「それで親しくなったというのか?」

「肩を揉んで差し上げたり、お話を聞いていただけよ……」

「そうか、ごめん……君が裏切るはずないって分かってたはずなのに」

「いいの、私が愛してるのはあなただけ」

 

窓辺からオレンジの夕陽が差し、二人をあたたかい空気がつつむ。

リサの手をすくい取り、指先にキスをした。

嬉しそうに微笑むリサ。

彼女の瞳が潤んでいるのを見て、一瞬でも疑ってしまったことを悔やむのだった。

 

 

 

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翌年の春、産声が城内に設けられた分娩室で響いた。

リサが男の子を出産したのだ。

 

「リサ!よく頑張ってくれたね」

「はい、カーク様……赤ちゃんは……?」

「隣の部屋で眠っているよ、お前もゆっくりと休むがいい」

「ありがとう、……でも、その前に赤ちゃんに名前を」

「私たちの初めての子だ、良い名前をプレゼントするよ」

「嬉しい、カーク様が付けてくれるなら赤ちゃんも喜びます」

 

カークにとってリサは、母親が嫁候補に連れて来た娘だ。

出会ってすぐに、そこはかとない雰囲気にのめり込んでしまった。

口づけをすれば蜜のように甘く、たどたどしい態度に独占欲をかきたてられた。

そう、リサの虜となった3人目の男。

二人が結ばれることに、異を唱えるものもいない。

エリアスは王妃の手によって、城から追放されたのだ。

それから穏やかに時は流れ、幸せな生活が続く。

庭師シモンが城に現れるまでは……。

 

 

 

 

 

「腕のいい庭師が来たそうだよ、ほら見てごらん」

「本当に……お庭の木々の美しいこと」

「クレトと散歩に行ってみたらどうだい、私も執務を終わらせて追いかけるよ」

「お父様も、来る?」

「ああ、先にお母様と行っておいで。お父様の代わりに守るんだよ」

 

四歳に成長したクレトは、利発で可愛らしい顔立ちをしている。

リサの手を引くと、大きな扉を開けて楽しげに出かけてゆく。

カークはそんな二人の様子を見届けると、机の上に積まれた書類に目を通し始めた。

 

庭の小道を歩いて行くと、クレトが蝶を見つけて駆け出してしまう。

「クレト、気をつけて」リサの声は透き通るようにこだましていく。

その声は、池の苔の掃除をしているシモンに届いた。

 

 

………

……

 

 

「エリアスっ?!」

「リサ、ああ、会いたかった……っ」

「なぜ、どうして?!」

「君に会うために、名を変え庭師となって城に潜り込んだ。君はあの頃のまま……綺麗だ」

 

エリアスは薄汚れた指先で、リサの頬に触れた。

 

「エリアス……」

「あれから五年、君のことだけを想い続けていたよ」

「さ、触らないで……っ」

「っ、ごめんよ、汚してしまうね」

「子どもがいるの……夕刻、もう一度ここへ来るわ」

「庭道具を保管する小屋、あそこで待ってる」

 

リサは蝶に夢中になっているクレトを呼ぶと、城の方へ走っていく。

愛しい人の後ろ姿を、熱い眼差しで見つめ見送った……。

名前を変えてまで城に潜り込んだのは、リサを取り戻すためだ。

五年前、王妃の思惑により城を追い出されてしまった。

毒薬を持っていたことを知っているのはエリアスだけ。

王妃にとって、エリアスは邪魔でしかなかったのだ。

後にカーク国王が婚姻の儀を行うと知り、驚愕したのは相手が誰かということだ。

まさか、リサが王妃として城に残るとは考えてもいなかった。

きっと言いくるめられたに違いない。

可哀想なリサ……必ず助け出すと誓ったのだった。

 

夕刻、約束通りにリサが現れると、エリアスはきつく抱きしめた。

思いの丈をぶつける。

「今すぐここを出て、二人で幸せになろう……」

触れたくても叶わなかった、リサの肌に唇を寄せ囁く。

太ももから腰のラインに手をはわせ、背中のホックに指をかける。

 

「私は……城を出ることはできないっ」

 

非情な言葉に、エリアスの手は止まる。

城を出ることができないなら、ここで幸せになろうと言った。

そう言うであろうと想定して、庭師になったのだ。

庭師であれば住み込みで働ける……城の外で会える。

血の滲むような努力をして、最高の技術を身につけたのだ。

再会できた今、リサを失うなど耐え難いものであり一生自分を許せないであろう。

乱れたドレスを整え、リサは小屋を後にした。

毎週木曜にカーク国王が城を留守にする、そう言い残して。

木曜までの時間が惜しい……きっと必ず、リサはここへ来る。

 

エリアスは与えられたロッジへ戻り、シャワーを浴びた。

配給された硬いパンを夕食にして、ベッドに転がる。

リサの肌の感触が残る手のひらを見つめ、キスをした。

再会し触れ合うことが叶った喜びに、心満たされて深い眠りに落ちてゆく。

 

 

 

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半年後のある朝。

鳥のさえずりに起こされたエリアス。

ドアをノックする音がすると「朝食持って来たわよ」と、

給仕係のメイドが食事を運んで来た。

「ありがとう、モニカ」素っ気ない彼女は、食事を置くとさっさと帰ってゆく。

自分に全く関心を持たない様子に、笑えるくらいだが本当に助かると感じていた。

リサとの逢瀬も、今では小屋ではなくロッジになっていた。

今日は木曜日。カーク国王が留守にする日だ。

そう思うと気持ちが浮き立って仕方がない。

最近、クレトもエリアスに懷き始めているし毎日が楽しいものになっている。

一日の仕事も、楽しみがあるとあっという間に過ぎていった。

この日、ランチを終えたリサとクレトは庭に出ていた。

離れたところから二人の様子を目にし、エリアスがそばへ駆け寄る。

 

「シモン!遊ぼうー!」

「何して遊ぶかな?」

「鬼ごっこしよーよ!」

「ふふ、クレト、転ばないようにするのよ」

「はーい!」

 

まるで家族のようなやりとり。

三人の親しげな様子は、とうにカーク国王の耳にも入っていた……。

自分の留守の間、愛する妻と子の様子を知りたいのは男なら誰でもそうであろう。

致し方のないことだ。

この日、外出を取りやめ気が付かれないように木陰から見張っていたのだ。

リサはシャスタイン王国の王妃である……。

また王子の母であり、汚れた行いは到底容認できようもない。

いつもなら深夜に帰城するところ、この日は早い帰城を装い馬車を門前につけさせた。

リサ、クレト、そしてシモンの前に、カーク国王が立ちはだかる。

 

「お帰りなさい、あなた」

「おかえりー、お父様!」

 

クレトが無邪気にカーク国王に抱きつく。

片手でクレトを抱き、もう一方の手をリサへ向けて伸ばした。

視線は厳しくシモンへ向けられ、敵を見るかのよう……。

カーク国王は、自分を睨みつけたままリサへの愛撫を続ける。

ゴクリと喉を鳴らし、全身で恐れを感じた。

バレてしまっているっ?!

このままでは、城から再び追い出されてしまう。

「俺は、これで失礼します……」

音にならない声で言い残し、その場を去った。

小屋まで小走りで向かう。

途中、足が絡まって転んでしまいそうだった。

その日の夜は、ロッジに誰か訪ねて来やしないかとビクビクしていた。

国王が怒りに任せて、ここへ来るのではないかと……。

 

朝まで一睡もできず、エリアスは疲れ果ててしまった。

一日何も手につかないまま、夜を迎え……そしてまた朝になる。

そうして過ごして、木曜になってもリサは二度と会いに来ることはなかった。

懐いていたクレト……俺の息子。

深い愛情を消し去ることなど、簡単にはいかない。

リサの髪、瞳、唇……そして肌の柔らかさ。

体中にしみついて、思い出さえ愛しい……。

たとえ二度と君を抱きしめることが叶わないとしても。

俺が丹念に育てた木々を、芝生を、池を見て、君が感じてくれる。

君への真っ直ぐな愛を、感じてくれるだろう。

同じ敷地の中で過ごしていることが、俺の生きる糧となるのさ……。

愛しいリサ、君の幸せを祈ってる。

瞼を伏せると、いつでも君に会える……。

遠いこのロッジから、君の微笑みを抱きしめて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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完全オリジナルです。

エブリスタにも投稿しています。

 

リサ……悪女です~

国王とリサは、果たして男女の仲だったのか?

クレトは誰との子なのでしょう。

 

 

お祝い、遅れてごめんなさい。

リクは二次かオリジナル、イラスト……

すっごく考えました。

 

また一年、よろしくね(*´∀`*)

 

 

 

 

 

 

結姫