おすすめ本 3 「不思議な少年」 | 気になる映画とドラマノート

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岩波文庫
マーク・トゥエイン「不思議な少年」

マーク・トゥエインといえば、「トム・ソーヤーの冒険」が有名です。(とは言っても、私は「トム・ソーヤーの冒険」は、途中半端に読んでいるのですが。
童話とか少年少女文学は、子供のうちに読んでおいたほうがいいですよね。)

「不思議な少年」はマーク・トゥエインの死後六年目に出版されたそうです。内容も、とても不思議な内容です。

 SFの醍醐味は「驚きの感覚」だとは言われますが、小説の醍醐味のひとつにも、不思議感覚があるのかもしれません。


 主人公の少年はある日、「不思議な少年」と出会うのですが、その少年は明らかに最初から、超人的なふるまいをするので、少年は圧倒されると同時に強い魅力を感じるのです。

 「真新しいきちんとした服を着ており、なかなかの美少年であるうえに、まことに顔も感じがよく、声もよくて快い。気さくで上品で屈託がない。

 (つまり、これくらい人間ばなれ、少年らしくない少年もないわけで、実はサタンだったとわかります。)

 この作品が書かれたのは1890年頃ですから、画家のゴッホが生きていたし、日本なら明治20年とか、そういった頃なので、アメリカなら、キリスト教の考えは、いまよりよほど常識だったのではないでしょうか。

 で、そういう社会的背景に書かれたのに、おどろくべき部分があります。

 「とにかく僕はいかなくちゃならん。もう逢うことはないだろう」とサタンが言うと、話者である少年は、
「そう、この世ではね、でもあの世でまた会えるだろう?」と言います。

 おもしろいのはそこからの展開で

 「あの世なんてそんなものはないよ」

 という不思議なことをサタンはいいます。

 そしてもっと読者が驚くのは、これを聞いた少年の気持ちを、作者がなんと書いているかということです。

 「あるいはそうかもしれない」と書いてます。
一抹の疑念はあるが、と。そして、そのことについてもさまざま確認するように会話がなされます。

 これは1890代に出版された小説だとするとものすごいうがった内容だと思います。

 昭和初期になると芥川龍之介は「河童」のなかで、(お産の時に、おまえはこの世に生まれたいか?と生まれる直前の子供に聞いてからお産をする)河童の世界を描いていますが、それより何十年か前にマーク・トゥエインは神のない人間の世界観をキリスト教の社会の中で暮らしながら、文学に描いていたんだな、と思いました。