一夏。

初めて彼の存在がある夏は、並みならぬ早さで過ぎ去っていってしまいました。

そう、夏のあの爽やかな風が吹くようにそっと、そして一瞬で。

残るのは、はがゆく思わず苦笑してしまいたくなる思い出。

しかし、だからこそ、あの夏が愛おしく、そして二度と来る事のない夏だと悟るのです。



学校が夏休みに入って、あっという間に私の日本語補修クラスもお盆休みに突入しました。

お盆で忙しくなる前に、彼が時間を作って学校へ来たあの日から、お盆にかけて、

一波乱起きるなんて。

誰が予期したでしょうか。



まぁ、それは後々お伝えするとして、

その事件の予兆であるかの様に現われた一人の女の子。

名前は(はな)ちゃん。



お盆休みに入る前日、補修クラスを終えてやっと自分にも夏休みが来ると、

すっきりと晴れ晴れし、まるで生徒に戻ったかのようにワクワクとした気持ちで帰りのバスに乗った。

まだ時間帯がお昼、そして夏休みという事もあって、

バスには結構人が乗っていた。

中には観光客と見られる人達も。



定期を見せて、

(普段は使わないが職員割引で安いので買ってある)

後ろから二番目の窓際の席へと座る。

車内のクーラーの冷たさに心地よく感じるが、にじむ汗がまだ止まらない。



バスがゆっくり出発した。

いつも通る街並みが、車内から見るとクーラーのせいで、

暑さとは無関係のように感じられた。

けれど自分の汗がひくと、今度は窓を通って外気の熱さがじりじりと感じられた。


バスは乗客の多さのため、各停でストップしていった。



途中、のお寺につづく脇道が見える。

自然と目がいってしまう。

彼は忙しいんだろうか・・・。



ほんの少し見える彼のお寺の屋根を見ながら、

改めて、この街にも夏のにぎわいを感じた。

行き交う寺巡りをしている観光客達、夏の強い日差しに光る寺の屋根、街に生い茂る緑。

そしてこの街独特の透き通る空気と涼しさ。


そんな風景をぼんやりとバスから眺めていると、

今度はすぐに家の前のバス亭にもう着いてしまった。



降りると、一気にまたむっとした暑さに包まれた。

その暑さに少し疲れを感じ、早く家に入ろうと重い足で石段を上がると、

小さな小柄な尼僧の後姿が玄関につづく石畳の途中に見えた。

その前にはちゃんがいる。




私に気付いたちゃんが、


おかえり。


と一言。そして、なんだかうろたえているように見えた。




はは~ん・・・。




私は変な期待が胸に膨らんだ。

わざとちょっと大きい声で、



「ただいま~。暑いなー今日は。」



とおどけて返した。

この時の私は不適な笑みをちゃんに投げかけていたに違いない。




すると小柄な尼僧が


こ、こんにちはっ!



とこっちもなんだか焦って、

凄い勢いでお辞儀して挨拶をしてきた。

近くでみると、目がクリっとしていて子顔でとても可愛らしい。

坊主のせいか、目が引き立っていてとても印象的だった。

そして、えんじ色ぽいサムイが彼女の肌の白さと、とても合っていて女の子らしく感じた。


ふと(この子が今流行りのファッションをしたらモテるだろうなぁ・・・)と頭に浮かんだ。



こういう時こそ私もちょっと大人ぶってみたくなって、

上品に、



こんにちは。



なんて返してみる。

そして、



亮ちゃんこんなとこじゃ熱いから、家に入ってもらったら?



と私。心の中でナイスっ!と自分を褒める。

が、しかしちゃんはそれに反してそっけなかった。



いいよ。華ちゃんもう帰るから。あ、華ちゃん。こっちゆうちゃん。ほらさっき話した親戚の。



は、はじめまして!あ、・・・あの、それじゃ私、し、失礼します!それじゃっ!



小さな身体を振って、また凄い勢いの小走りであっという間に走り去ってしまった。

こっちが転ばないか心配になるほどに。




何で帰しちゃうのよぉ!?ねぇ、今のって亮ちゃんが好きな子??



違うね。あんな小さいの全然タイプじゃない。あれはこう兄の熱烈なファン。

っていうより本気だねありゃ。

今までこう兄ファンには色んな事聞かれたり、頼まれたりするけど、あいつはそんなのと比にならないくらいぞっこん。




え・・・。




ちゃんは家に入ろうと歩きながらつづけた。




ったくさ、自分じゃ何にもしないくせに、やたらと俺にはしつこくこう兄の事聞くんだよ。

にしたってさ、よくこんな忙しい時もうちに来るもんだよ。感心しちゃうね。

こっちだって忙しいっつーの。




汗もふっとぶほど、驚いてしまった。




何?ゆうちゃん家入んないの??




この子が一騒動起こしてくれようとは、この時誰が思っただろう・・・。













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かなりOp.13を書いてから時間が経ってしまいました。

もしこのブログを楽しみにいていてくれた方が一人でもいて下さったら嬉しい限りです。

今日からまた自分のペースで再開していきます。

どうぞ、これからも宜しくお願いします。

私は窓を閉めながら、そして彼に背を向けたまま言った。

こう兄ー、適当に座って。

彼がソファに座る音がする。私はクーラーの風量を強くした。

クーラーをつけたばかりの部屋は、生ぬるい風が部屋の中をまわっていた。

私も彼の前のソファに座った。

またしても、食べかけの袋に入ったカツサンドが私の目に入る。

今度はカフェオレもプリンも。

まー、もうすっぴんを見られているし、それを思えばね・・・。

お盆近いし、こう兄っちも今忙しい?

そうだね、今日逃すと当分時間作れない感じかな。

彼の落ち着いた声。そして鋭いけどキレイな目。

坊主も似合ってるし、正面からまじまじ見ると色々分析したくなってしまう。

それほどうまく整っているのだ。

ゆうちゃん、気にしないで食べて。」笑顔で言ってくれた。

私もわたしで、「じゃあ」なんて言って、ガサガサと袋からカツサンドをまた出した。

今思えばこういう時、普通なら遠慮するのだろうが、良いか悪いか私は相手に気を使う事が出来ない時がある。

いや、絶対悪いよね、これは。

アメリカに住むという事は、アメリカの文化に慣れなくてはいけなくて、あっちで暮らすには遠慮なんてしていられない。

それが段々となくなっていって・・・日本人に大切な『遠慮』という言葉が薄れてしまった。

けれど何よりもこの時はまだ彼の事をそういう風に"意識"していなかったのだろう。

5分ほどすると、クーラーもきいて汗も引いた。

すっごい亮ちゃんと仲良いんですね。昨日の話とか気になっちゃって。」カフェ・オレを飲みながら聞いてみた。

あ~」彼は私が昨日の事を言っているのだとすぐわかったらしく、歯を見せて笑い始めた。

そうだね、歳離れてるけど俺のこと慕ってくれてるよ。あれで亮って結構人懐っこいしさ。・・・まー色々と亮もあるみたいだよ。

色々・・・。気になる。

亮ちゃんが色々かぁ。

俺からしたらゆうちゃんに話したっていいと思うんだけどねー。・・・きっと親戚っていうのもあるだろうけど亮とゆうちゃんってなんか似てるしさ。

彼がゆうちゃんって呼ぶとちょっとドキっとする。

この歳になってちゃん付けで呼んでくれる人もそうそういないし。

アハハ似てます??けど確かにあれで結構かわいがられるタイプかも。

亮ちゃんは結構ズバズバと言いたい事言うタイプだけど、嫌味がない。

言葉もわりかし丁寧な感じするし、お寺で育ったっていう説明しずらい品がある。

そうそう。あれで結構ね。」優しい目。

こんな場面、近所の尼層に見られたら一気に私は悪者になりそうだなぁ。

なんて一瞬変な事を考えてしまった。

気になるでしょ?亮の色々。」笑顔のまま彼の目が光りだした。

うん、すっごい!

思わず、勢いあまってカフェオレをドンっとテーブルの上に置いた。

彼は落ち着いたままつづけた。

詳しい事は言えないんだけど、亮さ好きな子がいるんだよ。

ちょっとビックリしてしまったけど、私まで笑顔になっった。

あ~、だからこう兄に相談してたんだ。

うん、まー他にもまだあるんだけどさ。けど今はそれに一番悩んでるっぽいよ。

ふ~ん、なるほど。帰ったら亮ちゃんを呼び出すしかないな。

と瞬時に悟った。

こう兄はその相手知ってる?めちゃくちゃ気になる!

うーん、結構かわいい子だったよ。この学校の子で・・・って後は亮から聞いて。なんだか後で亮に怒られそうだな。

そんな事を言いつつも優しさが言葉にこもっていた。

彼の目がそっと時計にいった。

そろそろ行ってみるよ。

彼は横に置いていたファイルを持ってすっと立ち上がった。そして彼の背の高さをまた実感する。

私も立ってドアまで見送る。

彼がドアを開けるとモワっとまた生暖かい空気が入ってきた。

彼は私のほうへ向きを変えて

ゆうちゃん、ありがとう。

真っ直ぐ私を見て言った。

優しく温かい彼のたたずまいに、本当に時が止まったと思った。

いえいえ。いつでもよって下さい。

返事の代わりにニコっと少し微笑むと彼は廊下を歩いていった。

ドアを閉めて、ほんのり彼の匂いが残っている部屋へまた入ると、

その時初めて彼と密室にいた事に気づいた。

汗も引いたカフェオレをまた一口飲む。

なんだか急にやる気が湧いてきて、

よ~し!」と勢い良く伸びをして、プリンに取り掛かるために、残りのカツサンドを急いで食べ始めた。

------------------つづく-----------------------

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彼は歩きながら開いているドアの向こうに私を発見したが、

急に止まる事はできず私の部屋の前を一度通り過ぎて、ドアの前へ戻ってきた。



私はとっさにミュールを履いた。

しっとりミュールの底が足の裏にくっついた。


そしておもむろに立ち上がってドアの近くへ駆け寄った。



今授業が終わったとこで・・・っ。



よくわからないけど思わずこんな言葉が出てしまった。




ここゆうちゃんの部屋?」彼はじんわり汗をかいていたが、線香の香りがかすかに彼から漂ってきた。

彼の目線は部屋の中にいっている。


うん、けど一人じゃ広すぎで。」きっと部屋の説明はいらない。見れば私には広すぎるこの部屋は一目瞭然である。




私も女としては背は高いほうだけれど、それ以上に高い彼を少し見上げる。

彼の嫌じゃない威圧感。

すごく自然に空気と一体感のある重みは、いつも会う度に自分の心がキレイになるような気がする。




こう兄が昨日帰ったのわかんなかったなぁ。寝ちゃってて。」彼の目線が私に戻って、目が合った。


あれからすぐ帰ったよ。」 いつもの彼の優しい微笑み。


ごめん、今何時かわかる?


えーっと、11時40分。」彼も私の腕時計を覗き込んだ。彼との距離がすこし近くなった。


なんだ、急いで来たけどまだだ。12時からT教授と約束してあるんだけど・・・。




前亮ちゃんから聞いたけど、こう兄は自分の趣味でT教授に色々教えてもらっているらしい。

だから少し時間が空いた時や、お寺がわりかし暇な時に時間を作ってはこうやって学校へ来ている。

といってもそれは亮ちゃんから見ると、凄く勉強熱心で思想へ強い興味を示しているこう兄の姿だった。




あと20分もあるね。あ・・・、じゃあ、よかったら」と言って私は身体の向きを横にして部屋を見えるような形にした。


時間まで休んでって下さい。」言い終わると、自分の食べかけのカツサンドが目に入ってきた。




あちゃぁ・・・テーブルの上・・・。



彼にもそれが見えたのか、「でも、昼だったんじゃない?」と真っ直ぐ私の顔を見てきた。




それでもよければ・・・。


なんだか恥ずかしくて目をそらしてしまった。

食べかけのカツサンドにカフェオレにプリン。

カフェオレの下には小さな水たまりができていた。



じゃあ、時間までちょっと休ませてもらおうかな。



彼が動くとお線香の匂いもふわっと動く。

私は急いでテーブルに駆け寄って食べかけのカツサンドを袋に戻した。


そしてふと気づく。そうだ、クーラー。




ごめんね、今クーラーつけるね!


あ、じゃあ。



といって彼はドアを閉めにいってくれた。

その後、彼は時間まで私の部屋で過ごす事となった。




--------------------つづく-----------------------






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昨日はいつの間にか寝てしまった。

彼がいつ帰ったのかもわからないくらい。

もちろん目覚ましもかけてなく、

案の定というか何というか・・・そう。寝坊してしまった。


おばちゃんの一言で目が覚めて、そこからは猛スピード。

いくらお寺の朝が早いとはいえ、授業の準備は朝だけでは無理で。。。



朝食を食べ終えてバタバタ廊下を行き来していると亮ちゃんとぶつかりそうになった。



あ~どいてどいて!!」思わず叫んだ。


朝から何やってんだよ汗早く学校行きなよ。


亮ちゃんはこう見えて、朝は毎日ちゃんと起きる。

修行の身っていうのもあるけど、きっと小さい頃からの習慣になってるのかな。




そういえば、昨日こう兄いつ帰ったの?全然わかんなかったなぁ。


うーん、9時頃じゃない。




って事は私は9時前には寝ちゃったんだ・・・。




そかそか。じゃね亮ちゃん!




この日ばかりはバスで学校へ行った。

自分の部屋へは寄らず、そのまま教室へ直行すると、ちらほら生徒たちの空席が見えた。

時間になると全員揃い、無事授業を始めいつも通り終わる事ができた。



授業が終わって11:00。

そこからは私のランチタイムが始まる。

夏休みで学食は閉まってるので、購買へ。

(時には出前っていう日もあったり外へ食べに行く事も)



夏休みともあって構内は閑散としている。

ちらほら生徒も見かけるけど、

静かで生暖かい空気がいっそう時間が止まっている様な感覚にさせる。



購買へ行くといつも通りちょっと年配のおじちゃんがいる。

今日はラジオをかけながら、レジの前で座っていた。

ラジオの音が購買の中で響き渡っている。



夏休み中は生徒を気にせず好きなものを買えるからいい。

色気のない物だって平気で買えちゃうんだから。



私がカツサンドとパックのカフェ・オレをレジに持っていくとおじちゃんが話しかけてきた。



いつもご苦労さんだね。先生はこの歌知ってる?


紛れもなく美空ひばりの川の流れのようにだった。



知ってますよ~。美空ひばりの『川の流れのように』でしょ?


おっ!正解!んじゃおまけあげなきゃね。



わざわざ商品が陳列してあるほうへ行って、プリンを持ってきてくれた。



はいよ。


うわ~!ありがとうございます!!


いいのいいの。んじゃ全部で350円ね。



お金を払うとおじちゃんはにっこりと笑いながら川の流れのようにを唄い始めた。

私はその声と共に購買を後にした。



自分の部屋へ行き鍵を開けるとモワっと熱気が私をおそった。

カツサンドとカフェ・オレ、プリンを机の上に置くと扉を開けたまま、窓を開けた。


夏の暑い空気だけれど、それでも風があるとこもっていた空気とは全然違う。

新鮮な夏の匂いが部屋をスーッと通る。



ひとまず空気の喚起もかねて開けたままにして、椅子に座った。



一人じゃ大きい部屋。

だって自分用のデスクの他に、来客用のソファとテーブルが置いてある。

私の前に使ってた人がどんな大物だったかを物語っているように。

その他にも大きな本棚にテレビまで・・・。

ひょっとしたらここで一人暮らしできるかも、なんて思ってしまう。



カフェ・オレが汗をかいてきたので、ソファの方へ移ってまずは飲み始めた。

そしてカツサンドを食べ始めた。



ドアを開けたままでも誰一人として通らない。

本当に夏休み中は教師という自分を意識しなくてすむ時間が多いのでリラックスできる。



ミュールを脱いで裸足でソファの上に足を持ってきたって何ともない。

というかカツサンド自体大口で食べたってこぼしたって大丈夫。



これが普段の日だとこうだといかない。

生徒の目というのは以外に鋭く恐いのだ。

そもそもアメリカとかと違って、強い尊敬とか生徒と先生との間にくっきりした線引きがされてる日本ではちょっとした事もその関係を壊しかねない。



カツサンドが半分くらいになった頃廊下を歩く足音が聞こえた。

だんだん音が近づいて来る。



結構速い足音。



ドアを閉めようかと、ふと頭によぎったが、めんどうくさくてやめた。

でもこんな人の少ない夏休み中に私の部屋の近くを通る人は気になる。



カツサンドを持ったまま開いているドアを振り返って見つめていた。



足音がすぐ近くなった。

開いているドアの中をもちろんその足音の人は見た。


私と目があった。




あっ・・・




あきらかに坊主頭の昨日も見た顔。




彼だった。




--------------つづく---------------






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亮ちゃんの部屋へ入ると笑いながら彼は部屋のまんなか辺りに

あぐらをかいて座っていた。

この日の彼は、いつも外で見かける時とは違って、柔らかさを感じた。

プライベートのせいかな・・・。


亮ちゃんの部屋へ入ると私はクーラーのひんやりした空気に一気につつまれた。


麦茶とお菓子をのせたお盆を彼の前辺りに置いて、

それを囲む様に亮ちゃんと私も座った。



麦茶に手を一番最初につけたのは亮ちゃん。

つづいて、


どうぞ。


と私が彼に勧めた。

彼はほんのり笑顔で、


ありがとう、いただきます


と言って飲み始めた。


初めのうちは、自分自身がすっぴんで、

どうも真っ直ぐ彼の顔を見れなかったけど、

麦茶を飲んでる隙に、顔を上げて彼の顔を見てみた。



亮ちゃんと彼が揃うと、かなわない。

というのも二人とも顔が整いすぎてる。。。

正反対の顔つきの二人。

純日本人顔の切れ長の目の彼に、目が大きくてキレイな顔の亮ちゃん。

そして・・・風呂上りで眉毛のない私。


がっくし。。。


しかも私が入ったせいで、空気が変わって会話が無くちょっときまづい。。。

ここは、途中から入った私が何か言わなきゃ・・・


・・・・・・


あ!そうだ!この前はありがとうございました!


二人ともへ?っていう顔で私を見た。


教えてもらったおかげで生徒の質問に答えれました!


あ~。いえいえ。」彼はくすくす笑って答えた。


何?何の話?」亮ちゃんはまだ不思議そうな顔。




つづけて、「ゆうちゃんておもしろいよね。


また彼は私の事を"ゆうちゃん"って呼んだ。



あ~眉毛ないからね。


仕方ないでしょー!お風呂上りだから眉毛なんて書いてらんないのむかっ


もうちょっとさー、こう兄いるんだから色気とかだしなよ。



うーん。

この時の私はまだ彼の事を好印象としか感じていなかった。



いいよいいよ。気を使われないほうが助かるよ。

だって。

こう兄が逆にゆうちゃんに気を使ってくれてんだよ。


彼はまた笑い出した。

私は亮ちゃんに返す言葉がなく、亮ちゃんはニヤニヤ笑っていた。


・・・っ、二人はさっきまで何の話してたの?

あ~・・・


今度は彼がニヤニヤ笑い始め、亮ちゃんのほうをチラっと見た。


ゆうちゃんには関係ない話!

そう・・・。

いいじゃん話たって。


絶対ダメだって!ほら早く麦茶飲んで明日の支度でもしなよっ!


彼は笑って言いたがって、それを亮ちゃんは必死で止めていた。

私はというと、なんだか亮ちゃんが出て行けと無言で言ってる様な気がして・・・



そうだ!明日の支度したく!」自分のグラスを持って立ち上がった。


そうだよ~。早くいきなよ。俺はこう兄に話したい事があるの!

はいはい。それじゃあ、ごゆっくり~。



バタっと亮ちゃんの部屋のふすまを閉め、

自分の部屋へ戻った。


-----------------つづく--------------------







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前にも話してきましたが、彼の容姿はひと際人を惹きつけるものがありました。

けれど、私がもっと注目したのは・・・彼の声でした。


ほどよく低く、落ち着いていて、

その声は彼の一言一言に力を与え、

そしてその力は私の心に響いたのです。


彼の私の名前を呼ぶ声・・・。

今でも目を閉じると彼の私を呼ぶ声が心に響きます。


と同時に初めて私の名前を呼んでくれた日が浮かびます。





-----前回からのつづき-------


翌日。私は仕事もなく朝からお寺の手伝いをした。

宿坊を利用している人たちの朝食、後片付けに掃除。

お昼頃には泊まっていた人たちが帰っていき、

また新しい人たちが。



亮ちゃんおじちゃんについてるから、

わたしとおばちゃんだけでは到底てんてこまい。

するとお昼過ぎに、忙しくなると手伝いに来てくれる、

"みっちゃん"って呼ばれてるおばちゃんくらいの歳の人が助っ人に来てくれて、

不慣れな私よりも数倍も戦力になった。



もちろん、お寺を利用するのは宿坊の人たちだけではなく、

法事や供養など様々。

その合間のお茶やちょっとした話なんかも

亮ちゃんを初め、おばちゃんや"みっちゃん"、私の役目で、

いくら助っ人が来てくれたからといって、

忙しさには変わりがなかった。



あっとい間に夜になって、"みっちゃん"が来てくれたおかげで、

私は早めに上がらせてもらえる事になった。

もちろん明日は仕事があるっていうのもあったんだけど。



昨日と同様、お風呂に先に入らせてもらって、

また居間で扇風機に当たって寝転んでいた。






玄関のほうで声がした。





・・・・・・誰かでるでしょ。





まだ声がしてる。



あぁーー・・・っむかっ


仕方ない。めんどくさいけど私がでるか。




はい、はーい。むかっ




廊下を通って玄関へ行くと・・・・・・





彼だった。



いつも通りサムイを着ていてもわかる、

厚い身体のライン、

額の上の傷、少し鋭い目にスッと通った鼻、

いつみても涼しげで整った顔だった。





と瞬時にお風呂へ入った事を後悔した。

うわーっ。最悪あせる

髪はおだんごで、Tシャツに部屋着のストライプのズボン。

まさにお風呂上り丸出し。

何よりもスッピン・・・!!!!!




こんばんは。亮いる?


あ・・・、ちょっと待って下さいっ。



そうだった!

昨日彼が来るって言ってた!!



慌てて走って亮ちゃんを呼びに行った。



あー!今行く!!



亮ちゃんは玄関へ向かって、

彼にまた会う事なく私はまた居間へ戻った。


そしてドテっと寝転んだ。





すると今度は、


何~?こうちゃん来たの?


おばちゃんが来た。


うん、今・・・。


それを聞くとまた素早く戻って行ってしまった。

また目を閉じた。





ゆうちゃん、これ亮の部屋に持っていってくれない?


お盆に麦茶を3杯とお茶菓子を持ってまた現れた。


ゆうちゃんの分も一緒だからね~。


・・・はーい。




また重たい身体を起こして、

亮ちゃんの部屋へ向かった。




・・・眉毛くらいかこうかな・・・?

っま、いっか。





亮ちゃんの部屋の前で亮ちゃんを呼んだ。



亮ちゃーーん。


ふすまがさっと開いた。



何?


これ。お茶。


ありがと。・・・けど何で3杯あんの?


あたしの分!


え!?何!?一緒に飲むの??


そんなわけないでしょー!すっぴんだし。


てかそんなのもう遅いし。



彼の笑い声がきこえた。

そして、



いーじゃん。一緒に。


え~・・・。


彼の声も聞こえた。




笑いながらちょっと可愛く彼はつづけた。


ゆうちゃんと話してみたいし。


ゆうちゃん・・・??






初めて彼に呼ばれた瞬間だった。





・・・入んなよ。


えっ、いいって!本当すっぴんだから!


だから、そんなのもう遅いってっ!



また亮ちゃんの後ろで彼の笑い声が聞こえた。



・・・じゃあ。


やっぱ入るんだ。


こ、コイツ・・・・・・。





亮ちゃんの部屋へ入ると笑いながら彼は部屋のまんなか辺りに

あぐらをかいて座っていた。




---------------------つづく----------------------














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から亮ちゃんへの伝言を預かって家へ帰ると

世間では夏休みに入って宿坊のお客さんがどっと増えたため

その夕食の準備でおばちゃんや亮ちゃんは慌しく動き回っていた。


もちろん私もすぐおばちゃんの手伝いにまわった。



そこからはもう凄い勢いで時間が過ぎ、

気づくとお風呂に先に入らせてもらった後

誰もいない居間で扇風機にあたりながら寝転んでいた。



どっと疲れた重たい身体はしばらく動かす事ができず、

そのまま天井を見て何も考えずにいた。




するとふと今日、彼に会った事を思い出した。




あ~あの時、ファイル忘れたの見られたのは痛かったなぁ・・・




彼の横顔が浮かんだ。


















うわっ!!


亮ちゃんの声で目が覚めた。

と同時に足に痛みが。



ごめんっ!



どうやら私はうたた寝してしまっていたらしい。

しかも亮ちゃんは私の足につまづいて麦茶を畳にばらまいていた。



あ~・・・


急いで亮ちゃんはテーブルの上にあった台ふきで畳を拭いて、

私もそれにつづいてティッシュで畳を拭くのを手伝った。



あ・・・



そうだ。伝言を伝えなきゃ!



亮ちゃん、明日そっちに行くってさ。



は?何?夢のつづき?

思わず出た自分の唐突の話しと亮ちゃんの突っ込みに吹き出してしまった。




アハハ、違う違う。そう伝えてっていわれたの。


誰に?


えーっと、・・・・こう兄。


今度は亮ちゃんが吹き出した。




なんかさー、ゆうちゃんがこう兄って呼ぶの変じゃない!?


え?そう?じゃあ何て呼べばいい?


それはよくわかんないけど、こう兄と歳近いしさー。


ちょっとぉ・・・言っといてわかんないの!?





じゃあ・・・興道さん??


それじゃーキモいっしょー!!


コイツ・・・。





な~に?こうちゃんがどーしたの~??楽しそうね~!


お風呂上りのおばちゃんが突如表れた。

そして加わった。


おかんと一緒でこうちゃんでいーじゃん。


いやいや。そんなまだ話した事もないし。


あ、なになに?こうちゃんの呼び方?


うん。あ、そうだおかん、明日こう兄来るって。


・・・・・・。

そういう事だったの!?

うちに来るってことだったのかぁ・・・。






そう~。今こうちゃんちも忙しいだろうにね~。


ところでゆうちゃんいつ会った?こう兄に。


今日学校の帰り。こう兄っち近くでだけど?


やっぱ変じゃね!?違う呼び方のがいいって!


ちょっと~。まだその話してたの??





こう様ってのはどう??


私も亮ちゃんもさっきよりも吹き出して笑ってしまった。





アハハ、何だよ~。昔の殿様かよ~!?


アハハ、でもさ案外あってない?モテるんでしょ??




その後も彼の呼び方について色々3人で大笑いしたけど、

結局何も決まらず、

話しているうちに私はもう彼が明日来るという事を忘れてしまっていた。


---------------つづく------------------









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そして私もまた身体を元の方向へ戻すと・・・・・・・・




彼が私の事を待っていた。




"待っていた"というよりも、

店員さんが私を呼び止める声で

振り向いたら私だったといった感じ。



彼は午後の初夏の日差しを真っ直ぐに浴びて立っていた。


おでこの上にある傷、

少し鋭いその目、

スッとのびる鼻筋、

広い肩、

夏用の灰色のサムイ姿、

その時、少しあなたが眩しく見えた。



そして、風景の中に溶け込んでしまったかの様に、

彼の姿は一枚の絵のようだった。




少し急いで彼に追いつくと、

彼は軽く会釈した。



暑いですね。



彼の涼しげな顔にはうっすら汗があった。



暑いですよね~。



私たちは歩き出した。



もう学校には慣れた?


うーん、ぼちぼちですね。夏休み中も行かなくっちゃならなくって。



横に並ぶ彼の姿は前より大きく感じた。



それは大変ですね。


仕事なんで仕方ないですね~。でも色々覚えれて逆に助かってます。


反対側の道を歩いて来た一人の尼層が私たちに向かって会釈した。

彼も軽くその人にむかって軽く頭を下げていた。



彼は真っ直ぐ前を見たまま、


僕のお寺そこを曲がってすぐの所なんです。


あ、そういば・・・。

亮ちゃんが案内してくれた時に教えてくれたのを思い出した。


あ、じゃあ・・・。また。


仕事頑張って下さい。


ありがとうございます。


彼は私の顔を真っ直ぐ見た。

少し鋭い目。




彼の目を見ると吸い込まれそうになるのをこの瞬間覚えた。





それじゃあ。


また軽くお辞儀して道を曲がっていった。


ふ~っ。

なんだか思ったよりも、ほんの彼と歩いた5分くらいに

自分が緊張していた事に気づいた。

そして、私はまた家へ向かって歩き始めた。





すると、走って来る足音が。






待って!



彼だった。



亮に伝えてほしい事があって。明日そっちに行くって伝えて下さい。


彼のちょっと慌てた姿に笑顔になってしまった。



わかりました。


・・・・・・・・。


それじゃあ。



彼も微笑んで、また戻っていった。

短い会話だったけれど、彼と話すとどこか心がふわっと浮く感じがした。

そして慌てて亮への伝言のために戻ってきた事が

なんだか嬉しかった。



---------------------------つづく----------------------------









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彼はまるで心地よい風の様に私の心へと自然に入ってきました。

それはいつから吹いていたのか気づかないほどに。



あれから・・・

彼と初めて間近で話した日から数日後、

そう私が仕事を始めてから約一ヵ月後、

大学は完璧に夏休みへと入りました。


ですが私の担当は例外で夏休み中も学校へかりだされていました。

というのも日本語の補修を必要とする真面目な留学生が多いこと、

9月から新しく入る留学生の書類整理や、その子たちからの質問のメールでの返信など、

(これって私の仕事じゃないのに・・・)

で夏休み中も学校へ通いました。


唯一の救いは午前の涼しいうちにクラスを持てた事です。

しかも週二日だけ。



今思えば、その週二日間たちが私と彼の距離を縮める大きな手助けとなりました。




夏休みが始まって間もない頃、その補修クラスを終えての帰り道。

たまにはのんびりしながら帰ろうと、

前から気になっていた和風雑貨のお店へ立ち寄った。


そのお店は家と学校の中間点くらいにあり、

(家から学校までは歩いて20分ほど)

あまり大きくはないけれど、シンプルで黒を中心としたモダンな陶器や家具が店の外から覗く事ができた。


暖簾をくぐって店内に入ると、

思っていたよりも広いスペースが広がり、

木の良い香りがした。



いらっしゃいませ。ごゆっくりしていって下さい。



私より少し上くらいの歳の女性が中から出てきて笑顔で挨拶した。



何分くらいだろう。

店内をゆっくり回った後、一番目についた木製の写真たてを手に取った。


よし!買っちゃおう!


お店の入り口にあるレジへ行こうとした時、

お店の前を通り過ぎる見覚えある姿が目に留まった。




彼だった。




あっ、と思ったけれど、特に急ぐ事もなく会計を済ませお店を出た。



すると前のほうに彼の姿が。

微妙な距離。

追いついて話しかけようか、それともこのまま知らない事にして歩くか。

少し考えながらそのまま歩き続けた時、



お客さーん!!!!



後ろから大きな声が。

さっと振り向くとさっきのお店の店員さんだった。



これ、忘れ物です。お客様のじゃないですか?


確かに私の大きなファイルだった。

会計のときにレジ横に置いて忘れてきてしまったみたい。。。


私も苦笑いになって、


あっ、すみません。。。私のです。


よかった~。追いついて。また来て下さいね~。


わざわざ有難うございました。


い~え~。それじゃあ。


店員さんは小走りでお店へと戻っていった。

そして私もまた身体を元の方向へ戻すと・・・・・・・・




彼が私の事を待っていた。






-------------つづく------------------------









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