鎌倉の江ノ電極楽寺駅から稲村ヶ崎小学校を通って山あいの里道を行くと、それはある。通称「お化けトンネル」。現在どうなっているかや、そのいわれなどは知らない。
40年以上前、トンネルは子供たちのかっこうの探検洞窟だった。洞窟内は、むき出しの岩が不気味に迫り、横穴が無数にはりめぐらされている。いつしか、小学校内で知らない生徒はいない、そんな心霊スポットだ。
ある日、小学生20~30人でこの洞窟を探検した。なんでこんな大人数になったかと言えば、それは怖いもの見たさと、一人では怖すぎるからだ。高学年から低学年まで、女子もいたと思う。皆、不安げな顔で洞窟の入り口に集まった。
リーダー格の上級生がすばやくメンバーをいくつかのグループに分ける。当時低学年だった私らのグループは入り口付近での見張り役だ。何かあれば中のメンバーに知らせる役である。もっとも何かあるとすれば中の方だが。
いよいよグループが一つずつ洞窟の暗やみに消えていく。待つ側は不安で落ち着かずに入り口の中に思いを馳せる。静けさが漂う。どのくらい時間がたっただろうか。突然、洞窟の中から悲鳴が。中から仲間たちがはきだされてきた。いったい何があったのか?
出てくる一人ひとりに声をかけるが、皆、とりつかれたような顔で一目散に洞窟から離れようと走り去っていく。とうとうこの日は何があったのか聞くことができなかった。いや、その翌日も、さらにそのまた翌日も皆あの日のことを話そうとしなかった。
ただしばらくしてどこからともなく妙な噂が小学校内を飛び交った。「あのお化けトンネルの中で白衣を着た女性の幽霊がいる」と。