筆者は14年前に水彩画を描き始めましたが、例にもれず、
最初は、風景スケッチ画から入りました。その後、静物や
人物画などに範囲を広げたり、心情風景画などをトライした
りもしましたが、風景画が一番自分に合っていると思う
ようになってきました。
世の中には、一見、何が描かれているのか分からない
いわゆる抽象画なるものもあり、画家の個性や創造性とメッ
セージが明白に表現された作品の展覧会が続々と開催されて
います。
現に、今、東京都美術館で開かれているジョルジョ・デ・
キリコ(1888-1978)展では、自画像、肖像画から抽象画
まで多くの作品が展示されており、大人気になっております。
中でも、彼の代名詞と言われる形而上絵画の数々はダリ
やルネの作品とは一線を画する簡便かつ独特の表現で世界が
描写されています。一見脈略のないモチーフの配置と歪んだ
遠近感、幻想的な雰囲気などによって、目の前にある日常や
非日常を哲学的に表現しているとも言えます。
さて、自分の絵に戻って考えると、素人の趣味の世界の話
とはいえ、それなりに悩み、次は何を描くかなどと熟考する
という苦労、いや、楽しみがあります。
7月初頭に開催された地元、横浜青葉区主催のあおば美術
公募展への応募作品に関しては、かつてないほど悩んだ末に、
結局、半抽象風景画の2作品で応募すると決めました。
モチーフの写真①(奥入瀬渓流))と写真②(八甲田の
ブナ林)と完成した作品 ③(奥入瀬のイメージ)と
④(八甲田ブナ林のイメージ)を添付しました。
①写真:奥入瀬渓流 (2023年10月)
②写真:八甲田のブナ林 (2023年10月)
③水彩画:奥入瀬 (F-6号)
④水彩画:八甲田ブナ林 (P-20号)
この公募展の作品審査会が7月3日に行われた結果、
入選したのは上の④一点のみであり、③は残念ながら落選
となりました。理由を展示会場の講評会で敢えて審査員
(美大教授)に尋ねたところ、形が単純化され、色彩も余計
なものをそぎ落としていて悪くはないが、見る人に訴える
インパクトに欠けるとの指摘を受けました。
そもそも自分にとって初めての描き方に挑戦したわけでは
ないので、悔しいとは思わず、具象そのものである景色を
抽象化する難しさを悟ったまででした。
具象画の作業を考えると、目の前に見えるものをほぼその
まま描けば済み、時間を掛ければより精密に描くことも出来
ます。そこに、技術を駆使して心情を絡ませれば、なんとか
絵になります。
一方、抽象画は、対象物の形はあってなきもので、デフォ
ルメや彩色も全く自由であり、作者次第となります。テーマ
を決め、それに関して延々と思考を重ね、時には哲学的思考
に嵌りながら形を創って描き出し、完成するまでには実に多
くの時間を要します。
現に、自分もたかが、上掲の④の形と色を決めるのに
2か月も悩み続けるという経験をしました。
一見誰にも描けそうに見える抽象画が溢れていますが、
これからは、その制作過程に込められた作者の苦悩や思考まで
感じ取りながら鑑賞していこうという気になっています。
(7月7日 atom 石川 記)