今日、3月8日は国際女性デー(国際婦人デー)である。国際女性デーは、女性の地位向上と差別撤廃をめざす国際的な連帯の日だ。はじまりは、1908年のニューヨークで発生した縫製労働者のストライキだと伝えられている。1923年に第一回国際婦人デーが開催され、戦後は、1975年に国連が「国際婦人年」として制定し、77年に国連総会で正式に承認された。
20年ほど前のことである。当時勤めていた職場の先輩からの粋なプレゼント。小箱を開けて思わず歓声が出る。風呂敷のような生地に、『青鞜』のあの表紙絵が染色されていた。『青鞜』は黄色地だったが、これは深い青緑だ。風呂敷にしてしまっては絵が隠れてしまうので、そのまま自室の壁に掛けてきた。表紙絵は、長沼智恵子(後に高村智恵子)が描いたと聞いていたが、今日はとくに目に沁み入るような気がする。
日本の女性解放運動史を振りかえるとき、『青鞜』が頭に浮かぶ。『青鞜』は、1911年(明治44年)9月に、日本で初めて刊行された女性文学誌である。当時25歳の平塚らいてうや岡本かの子、神近市子を中心に、歌人の与謝野晶子や小説家の田村俊子も加わり、30名ほどの女性作家の手で創刊された。のちに伊藤野枝が引き継ぎ、足かけ6年の活動期間であった。平塚らいてうの、「元始、女性は太陽であった」という序文の言葉が有名である。
「男の子には玉を抱かせ。女の子には瓦を抱かせ」
これは、山川菊枝の著書『武家の女性』のなかの言葉である。男には「指導者としての能力と責任感」を、女には「犠牲と服従の精神」を、それぞれ養い育てよという意味だ。明治維新で封建社会から近代国家への脱皮をめざすが、家父長制度という女性へのシバリはその後も続いたので、「新しい女」への逆風は強かったに違いない。
「青鞜」の言葉は、「一八世紀のイギリスで起こった知性と教養を誇示する新しい女性のグループが、フォーマルな黒いストッキングではなくブルーストッキングをユニフォームのようにしてお揃いで穿いていたことに由来する」(『ちくま評伝シリーズ市川房枝』筑摩書房より)。この話を知ったとき、20世紀の終わりに流行した女子学生の白いルーズソックスを思い出した。ストッキングやソックスにこだわりがあるのは、昔も今も変わらないようである。これより「Blue-stocking」には、知的な女性の意味が付与された。
明治末期から大正にかけての女性たちの活躍や運動は、関東大震災の混乱やその後の戦時下で封じられてしまう。先頭で牽引してきた女性活動家も、言論統制をおこなう大政翼賛会系の婦人組織に組み込まれ、銃後を支えてきた。そのときの苦悩から、市川房枝は戦後、「平和なくして、平等なし」「平等なくして、平和なし」というスローガンを掲げて婦人参政権運動の先頭に立ったという。そして、1946年(昭和21年)4月、戦後初の衆議院議員総選挙が行われ、79名の女性が立候補し、約1,380万人の女性が投票し、39名の女性国会議員が誕生した。
わたしを名付けないで
娘という名 妻という名
重々しい母という名でしつらえた座に
座りきりにさせないでください
新川和江の詩「わたしを束ねないで」の一部
1960年代からの高度経済成長期の女性解放運動は二つの翼で羽ばたいていた。一つは、アメリカ発祥のウーマンリブ運動であり、自由と性の解放を掲げて日本にも波及した。もう一つは、結婚・出産退職制度を跳ね返しながら働き続けて法整備をめざした女性達である。二つの翼は、高く跳ね上がっては抑さえられ、抑えられては跳ね上がり、羽ばたき続けてきた。
以来、欧米と比べれば、緩慢な歩みではあるが、少しずつ法的な整備がなされてきた。同時代を生きてきて、育児休職制度が導入されたときは、職場の女性達と喜びを分かち合った思い出がある。近年では、パワーハラスメントやセクシャルハラスメントへの対処も均等法の中で事業主の義務とされている。
制定年 |
おもな法制度 |
内 容 |
1945年 (S20) |
女性参政権 |
女性が選挙権・被選挙権を得る。 (男性の普通選挙権は1925年(大正14年)) |
1947年 (S22) |
日本国憲法 |
第14条で、法の下の平等、第24条で、婚姻の成立が両性の合意のみとされる。 |
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民法改正 |
家制度が廃止され、家督相続がなくなり、法定相続人に均等相続される。 |
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教育基本法 |
教育の機会均等と男女共学を定める。 |
1985年 (S60) |
男女雇用機会均等法 |
企業に男女雇用の機会均等を義務付ける。 |
1991年 (H3) |
育児・介護休業法 |
労働者が仕事と育児や介護を両立できる環境の整備として成立し、以降今日まで休業期間延長や取得状況公表義務など見直し整備が続いている。 |
1999年 (H11) |
男女共同参画社会 基本法 |
政府や地方自治体に、男女平等や格差是正の観点から政策立案・実施の促進を定める。 |
ミモザ……女性解放運動の象徴とされている。
歴史を振りかえれば、どの時代のどの女性の活躍や運動も愛おしく、価値あるものである。女性内部の階層的な対立や思想的な論争もあったが、無駄なものはひとつもない。そして、現代では、その願いが「ジェンダー平等」というスローガンに集結されている。2015年、国連で採択されたSDGs(持続可能な開発目標)の「目標5」として「ジェンダー平等を実現しよう」がある。2030年に向けた世界共通の目標である。
民主主義とは、固定化されたものではなく、たゆみない運動である。気を許せばいつでも逆戻りすることを、私たちは歴史の証人として証言することができる。まずは、いま女性が到達した地平を堅持することが大事である。そして、新たな地平を切り開くであろう次世代の女性たちにエールを贈りたい。
Kiyomi