悪戯好きはお互い様。
そっちも楽しんでるんだから
あたしもからかって笑う。
しちゃいけないことをしたら
もちろんダメだけど
スリルを楽しむじゃれ合いは
目を瞑ってもいいんじゃない?
雨の日は寒いから嫌い。
休みの日に傘を差して歩くのは
情緒があっていいものだけど
仕事の日に降られるんなら
当たり前に不機嫌全開。
寒い!
濡れる!
湿る!
怒られたらどうすんだよ!
苛々がピークに達しても
気持ちの熱は雨に消されるのがオチ。
寒くて寒くて震えて縮こまって
帰って来て手を擦って
上司が出してくれた正義の味方、
ストーブ目指して一目散に突撃。
………あったかい……
あー………しあわせぇ………
これでホットココアかホットミルクでもあれば
間違いなく幸せの極みなんだけど
職場内は飲食厳禁。
当たり前です。
いいことはそんなに続きません。
しばらくあったかさに酔いながら
つらつら昼休みのひと時に
眠りの旅に飛び立とうとして
ふっ、と
目の前で止まる気配。
ゆるく目を開けてみると
同じようにストーブにかざす
オレより少しおっきい真っ赤な手。
………?
ふっと感じた既視感に
視線を上にすると
―――お疲れ様。寒いね。
既視感は当たり前。
………おかえんなさい…?
………そう、ですね……。
今はあったかいですけど……
この気配も
この匂いも
この手も
貴方だからに決まってた。
時々手を擦りながら
今日の仕事はどうだったね、とか
どこどこでこんなことがあった、とか
明日も雨みたいだね、とか
つらつら幸せのあたたかさの近くで
優しい甘さの傍で
取り留めもない普通の会話をしながら
どうしようもない幸せを感じてた。
仕事が終わって
とりあえずひと息つこうかな、って
甘い甘いホットカフェオレを買う。
体の中からじんわり。
甘さとあったかさが行き渡る。
………やっぱりホットの方がよかったよな………
少し前。
帰る直前に置いてきた小さい差し入れ。
ホットを置いても冷めるし
好きな銘柄はアイスだから
………しょうがない、よな……
誰かに言い訳しながら
置いてきたブラックのアイスコーヒー。
………うん、だってなぁ………
―――何が『だって』?
………あ、れ?
目の前にはさっき置いてきたブラック。
と、
………お早いお帰りで。
おかげさまで?
さっき雨の中に出てったはずの
悪戯っちい顔の貴方。
これ、ありがとね?
…まぁ、アイスですけど………
まぁ確かに、今はちょっと寒いかな…
…ぅ……じゃあ何かホット………
今飲んでるの、あったかいのでしょ?
………ええ、まぁ………甘いですよ?
(てか、もう口付けちゃってますけど…)
ん、ひと口ちょうだい?
――――――ぇ、あの、
―――甘っ…
………さっき言いましたけど。
待った待った。
何当たり前に飲んじゃってるんですか。
それ、オレの。
もう口付けちゃった、しかも甘いコーヒー…
いや、甘いってのは今関係ない。
他の人いるでしょ?!
何普通に飲んじゃってるんですか!!
心の叫びは一言も口からでない。
そんな一瞬の出来事。
ちゃんと言ったのに………
やっぱ買い直しましょうよ。
まったく………
表面は取り繕ってても
内心は酷い乱気流。
や、いいよ。
もう行かなきゃ、そろそろ時間だし。
………あ、ホントだ……
時計に気付いて少し慌てた
その時に
―――じゃ、代わりにもうひと口。
ふっ、とコップを奪い去って
またやらかしてる暴挙。
っ、だから―――っ!?
そのとき見せた
あの人の顔。
悪戯好きの
してやったぜ!って悪い顔。
二の句も告げないオレは
すべての言葉に代わって
ふっ、と
小さく笑ってみせた。
そしたらあの人の悪い顔は引っ込んで
優しく、笑った。
悪戯するならもちろん楽しく。
貴方がするならあたしも同罪。
愛もスリルも沢山詰まった
子どものようなそんな悪戯。
藤の下で眠る少女は
幸せな優しい夢を見ている。
眠る前に読んでた本は
ぱたん、と自然に閉じていた。
雨の日は嫌いだけど
貴方がいるなら寒ささえ愛しい。
『イメージはいつでも雨、後、晴れ』
いつか貴方と
虹を掴む夢を見ながら。