地面が揺れるなんて信じられないと言って顔を手で覆ったので表情はうかがい知れない。解るものか、この足のずっとしたに、海の底に感じられないくらい巨大な生き物が押したり引いたりして、圧迫され、元に戻ろうとちからを込めているなんてよく解るはずもない。しかし、私達の胸の奥の多様な感情が同じ様に活動しているから本当は総てよく解っていることなのだ。
突然爆発するのだって同じだ。複雑であったって、要因は明確に、人によってはくっきりとした輪郭を手で触れてなぞることもできるだろう。知っている人が、よく解る人が解らない人達に毎日の様に教えてくれている。
それでも計り知れないものを知るのは怖いことだ。ずっと奥のほうで鳴ってる音を自覚するのは情けないことだ。思う程に満たない時も、あの人たちとはぐれたことも、連絡がつかないことも私は想定していたはずなのに、想定なんて意味がない。準備も思う程効果を発揮しない。もう声が届かない。

しかし、人はおもっていた程やわじゃない。皮肉にも元にもどろうとするちからが巨大だからである。
大嫌いなあの人と大好きなあの人が仲良しだって、おもしろくない。
彼女は軽く、力を加減した様子で机を叩いた。
私はわたしの感情として面白くないだけでこの気持ちをどうすることもできないのよ、彼女はもう一度机を叩く。さっきより強く揺れた。
髪をかきあげたらシャンプーの匂いと彼女の匂いが混ざって、けしていい香りとはいえない匂いが空間を包み込んだ。髪は乱暴にされたのでばさばさ散って一本、芯の固そうな茶色いのが机に落ちていった。目で追うと、気づいた彼女がさっと手で払う。もったいない、心の中でそうおもった。
彼女が他の誰かをこんなにおもっていらついているのに、私まで机を叩くわけにはいかなかった。
「大嫌いなあの人のこと、ほんとにあの人は好きで仲良しやってるのかしら」
「するとなに、あの人はその人のことが実はそんなに好きじゃないって?」
私の言葉は彼女を傷付けやしないだろうか、それでも私は言った、言っておいた。案の定眉をひそめて可愛らしい顔が歪む。わたしが今日初めて彼女の肯定を辞めたからだろう。
「そうかもしれないし、違うかもしれないわ。だって」
指を組み合わせた右の人差し指の爪が左の人差し指を引っ掻いた。
「あの人性格悪いもの。一緒にいてもつまらないもの」
だめ、余裕がなくなってきて、次に思いつく限り言葉を並べても彼女の拳をもう一度この堅い机にぶつけてしまいそうで、私はしばらく黙るしかなかった。沈黙の沈黙、押し黙って視線は彼女その長い指に、額のほうで痛い視線には気づかぬふりでいる。
「あんた、どう思うの、あの人のこと」
彼女の指に力が込められて指先が白く変色している。彼女の緊張と私の緊張は汗の匂いを滲ませて二人の間にながれていた。好きな人の前では正直にって?その正直が好きなひとを傷付けるってわかっていても?自分の誠意が優位なの?彼女の繊細すぎる心が優位なの?
「 あの人は、みんなでいて私が浮いているのに気がついて話をふってくれるような人、誰にでも優しい。本心を見せないようなところは、あるけれど 」
正解なんかどうでもいい、吉と出るか凶とでるか、いやそんなことじゃない。これは私が私のために言ってしまった私のための言葉だわ。彼女のことなんか考えやしなかった。ああ私はまたしても、後悔は滲む汗といっしょにながれてしまったから、これでようやく彼女の目が見れる。

「分け隔てがない人なんて嫌いよ。皆に平等にって、そんなの誰のことも好きってことじゃない。誰のことも特別好きじゃないのよ。どうでもいい数人と居るからあんたのことも目に入るのよ。私のこともそうよ、そのくせ私の誕生日とか、好きなものとか、好きな色とか好きな人とか覚えてるのよ。私はあの人のこと何一つ知らないのに」
「だから嫌い?」
「ずっと言ってるわ、嫌いだって。」


彼女はぶっきらぼうにトイレ、と言って両手で机を叩いて立ち上がる。気だるい後ろを見つめながら反芻した。
誰のことも好きじゃない、かぁ…そんな考え方あるんだ。


大嫌いなあの人と、大好きなあの人が仲良し…そりゃあ面白くないわね、私は一人でほくそ笑んだ。

どうしてわかってくれないのって、君が何も話してくれないからじゃないか。知らない情報を教えられもせずに察してくれって?愛しているなら可能だろうって?
確かにぼくは君を愛している。しかし、残念ながら、君はぼくの全てではないんだ。
仕事や生活や身内のこと、友人や付き合いや社会奉仕活動があって、君が居る。
ぼくがいくら君を愛おしく思っても、ぼくの全てが君になったり、君の全てがぼくであったりするようなことはあってはならないんだ。どうして付き合ったかって?
凛とした瞳が美しかったし髪の毛のつやつやしたところ、細身のスタイルが好みだったし嫌いじゃなかったからね、君のこと。


そしてなぜだがぼくは人生ではじめて平手をくらって、振られた