初めて会ったときの彼は

とてもとても苦しそうに笑っていて

ああ、こいつも人生苦労してるんだなって

心の中で仲間がいることに安堵した。



次は―――、お降りの方はバスが完全に停まるまで―――

中学2年生、秋。
来年の高校受験に向けて、着々と準備を進めている...はずだったのに、なぜ私はこんなところにいるのだろう。


「絢ちゃん...?」

「そうです、けど...」

誰、この人。
上下ジャージ(しかも着古してる)で、声は若いけどいくつか見当もつかない。

「君のおばあちゃんにお世話になっている者です。
ユキさんから家まで案内してほしいって頼まれまして...」

「お世話になっている...?」

「詳しい事情は家に向かいながらお話ししますね。
車あっちにあるんですけど...」

荷物もちますね、と言われる前に荷物を持ったこの人は、一体何者なのか。

「あ、俺 初瀬 柊大(ハセ シュウタ)っていいます。」

「山名 絢未(ヤマナ アヤミ)です...」

一応の自己紹介をして車に乗り込むと、彼はスムーズに運転を始めた。

「絢未、海行くぞ。」

もはや妄想じゃないのかと考えてしまうぐらい頭の中に流れる声。
もう聞きたくなんかないのに、思い出したくもないのに、全てを一からやり直すって決めたのに。

「絢ちゃん...?」

「―――っ、ごめんなさい車停めてください。」

戸惑いながらも停まった車から降り、深く、深く呼吸をする。

「ごめんね、体調悪いの気付かなくて――」

「っ、やめて!」

肩に触れかけた手が寸前で止まる。
落ち着くんだ、私。波瀬さんは関係ない。

「ごめんなさい、人に触れられるのが苦手で...

「いや、僕も距離が近かったよね。
...車、乗れる?」

無言で首を振る私をみて、波瀬さんは車に乗り込む。
正直、二人だけで乗っているのも辛かった。

「絢ちゃん、おばあちゃんの家まで道はわかる?
荷物だけ乗せておくからさ、ゆっくり歩いておいでよ。」

「え...」

「顔色、落ち着くのに時間かかるだろ?
ユキさんにはうまくいっておくから。」

そう笑っている波瀬さんに、呼吸が少し落ち着いた気がした。




空気が
「澄んでるなぁ...

軽くのびをすると、からだのいらないモノが抜け出ていくような気がした。

ここで頑張ろう。
そう決めたのは私。
応援してくれるおばあちゃんのために。

「...見ない顔だな?」

突然の声に、私は叫ぶ以外の何もできなかった。