これまでのあらすじ

　ラパス(La Paz)からは国道1号線でずっと一本道（まぁそれまでの道もそうだったが）。しばらくすると軍隊の検問があり、奴ら普通に機関銃を持っている。そして2、300kmも走るとハイウェイは真っ直ぐになる。飽き飽きするほど真っすぐだ。道は内陸になり、空にでも続いているんじゃないだろうか、この先に何かがあるのか、と疑問を抱きたくなるくらい真っ直ぐの一本道。両脇にはサボテン、サボテン、そしてサボテン。お前ら、どうしてこんなところに生きる？と突っ込みたくなる。しかし思えばこんな景色にいつか憧れていた。途中から国道1号線から分かれて56号に入る。エヒド・インスルヘンテス(Cuidad Insurgent)周辺からは道も少し悪くなっていく。

さらに進み、大地は裸になる。
赤い土までも顔を出すようになる。そして大きな峡谷に差し掛かり、カーブを経て谷底に降りると、ついに最後の分かれ道だ。

その先の道は、その時の俺にとって信じがたい悪路だった。

スペアタイヤのない俺たちにオフロードを軽快に駆け抜ける余裕はなかった。ゆっくりと、しかし目的地を信じて確実に進んだ。２、３時間ほど25km/hくらいで走っていると、ついに海が見える。大地の果てに海が見えた。もう近い。パラダイスが近付いているのだ。そして少し経つと、なんと道路が綺麗に舗装されている。そんな場所だとは思っていなかった。

　やがて、俺たちはたどり着いた。長い長い道のりを経て、ついに幻のスコーピオン・ベイに。手つかずの大地に囲まれたその緩やかな湾は、あの映像で見た芸術のようなライトの波が、ゆっくりと、何百メートルにも渡って割れていた。

スコーピオン・ベイはキャンプ場のようになっていて、コテージもあればパラーパと言う小屋もある。俺たちはパラーパを借りてアジトとすることにした。

そして、あの波に乗ってみる。しかしサイズがない。他のサーファーに聞くと、「週末にはスウェルが来るよ、多分ね。」と口を揃える。ここは左から順番に、1番から6番までブレイクポイントがあり、坂口憲二が入っていた300mライディングができるのは2番。3番以降はわりとシャローなリーフになっている。ベイの端から端までは、歩ける距離ではないが見ていると全て同じスウェルが波となって大地にぶつかっている。うっすらとショルダーが見え、その延長線上には2番の湾へ向かううねりが見えているのだ。翌日俺たちは全てのポイントを見ながら4番で海に入ることにした。

トロトロでサイズはセットで胸くらい。
割れ方は早めであったが久々に納得のいくサーフィンを楽しんだ。時間が経つとタイドは下がり、生々しい岩が顔を出す。エントリーしたルートも陸になっていた。

　スコーピオン・ベイにはロングボーダーしかいない。その後もサイズは全体的に上がらず、むしろリーフエリアでも入れる波が来なくなった。同じコンディションならばわざわざリスクの高いリーフに入る意味も無く、「とりあえず」という時は2番で入った。俺たちがショートボードでセットを待ち、無理やりなアクションにチャレンジしていると、多くのサーファーがロングボードを貸してくれると親切にも言ってきてくれる。

気持ちはありがたいが、俺はすべて断った。
スコーピオン・ベイには老人しかいない。若いショートボーダーは一人もいない。この土地には何もない。町まで行けば食料もガソリンも買えるが、波がなければ、その日はそれまでだ。日が暮れたら寝るしかない。また朝になって波がなければその日はビールを飲んで、本を読んで。。。週末を待つ俺たちは地の果てで堕落し始めていた。要は退屈だったのだ。
　波に乗るのは好きだけど、俺はただ板に立って、波の力に身を委ねるっていう感じではない。そんな偉そうなこと言えるほどのスキルはまだ持ってないけど、これまでのサーフィン環境とのギャップを感じたのは確かだった。2年前は板が勝手に進むだけで心底感動していた。板の上に棒立ちするだけで最高に気持ちよかった。それから少しばかり成長した俺は、言うなれば、自然に身を任せるんじゃなくて自然を制する、波の上で板を操ることに喜びを見出すようになっていた。300mのロングライドより1回のリッピング。それが今の俺のサーフィン。

　そして、待っていた週末は来なかった。土曜日の朝になってもサイズが上がらない。日曜になれば上がるのか？また最高にカッコいい堕落した1日を過ごして？俺たちはどちらからともなく言った。
「次の海へ行こうか・・・。」

　俺たちに寄り掛かるものはなかった。数々のトラブルや感動を経てここまで辿り着いた。いつか写真で見た美しい波がそこにはあった。しかしパラダイスは長く続かない。いつだってそうだ。生活はただ繰り返すだけでなく発展を目指すから朝はめでたい。俺たちは南へ向かうことにした。

PART3へ

蠍湾 ~Baja California PART2~