先日、私物を片付けていた時に38年前の旅日記を発見しました。
読んでみたらそれなりに面白いと思ったので、今回1~2週間程度のペースでこの日記を書き起こしてみようと思います。誤字脱字をのぞいて可能な限り原文に忠実に書き、補足の説明が必要な時は脚注を入れます。
イラストや落書きは鉛筆書きでかなりかすれてしまったので、こちらはペン入れをしてから載せる予定です。
それでは、まずこの旅の背景を説明しますね。
19歳になったばかりの私は、小さな飛行場に就職した姉と二人で東京の実家を出て埼玉で暮らしていました。
姉は日中は飛行機の整備士として働き、週末や晩の集会や奉仕にも普通に参加していました。私はまだバプテスマを受けたばかりで、JWとしてもまだ初心者。単発のアルバイトをしながら愛車のスーパーカブに乗って宗教活動をこなしていました。
当時は歳の近い「もっちゃん」というニックネームの姉妹と意気投合し、毎日一緒に奉仕に励んでいました。一応自分の意志でこの活動を行なっているつもりではいましたが私は宗教二世だったため、どちらかと言うと他の生き方を知らずに仕方なくやってる感が強かったです。
集会は面倒だしつまらないし、家の人に嫌がられる宣教活動なんて本当にやりたく無かった。でも「霊性が低い」というレッテルを張られて会衆の人たちに白い目で見られるのも怖かったのです。
そんな時、朝のTVで子供の頃大好きだった「ガンバの冒険」というアニメの再放送が始まりました。
出典: 東京ムービー『ガンバの冒険』
最初は、へ~懐かしい位の軽い気持ちで眺めていましたがもう第一話でドはまりしてしまったのです。現実逃避もあったのかもしれませんが、魅力的なキャラとテンポの良いストーリー展開に明らかに子供の頃よりもがっつりとはまってしまいました。この放送を最後まで見たら絶対に奉仕に遅刻ですし、間もなくもっちゃんが私を迎えに訪ねて来ます。
私は心を決めました。
もっちゃんには悪いけどこれはもう、
居留守しか無いでしょ?
私は素早くカーテンを閉め、イヤホンを耳に刺し、息をひそめました。
コンコンコン・・・
アパートのドアを叩く音。もっちゃんです。
「プー子ちゃあん…プー子ちゃん?」
私を呼ぶ声。
そりゃあそうでしょ。
カブは家の前に停めっ放しだし、JWお得意の「電気メーターチェック」をすれば在宅なのは一目瞭然です。
それでも、この貴重なひと時をアニメ鑑賞に捧げると決意した私は、
早くあきらめて~
と念じる事しかできませんでした。
自分で書いててドン引きです。
やがて外は静かになり、もっちゃんは一人で奉仕場所に向かったようです。
さて、無事に(?)第一話を見終えた私は思案しました。
始まったばかりのこの再放送。まだまだ続きますが一話だって見逃したくありません。でも、必ず野外奉仕の開始時間と被ってしまう...
よし決めた。
この時間にバイトがある、という事にしよう。
でも一体何のバイト?もっとも怪しまれない…
そうだ!姉の飛行場で事務のバイト!
以前にちょっとだけ伝票整理を手伝った事があるので、割と信ぴょう性がある!
おっけーおっけー。
ただ、今日の件に関しては別の言い訳が必要だ。だってもっちゃんとの約束をすっぽかしたのだから。考えてみれば19の娘が、擬人化されたドブネズミが活躍するアニメ見たさに居留守を使って約束を破るなんて、常識無いにもほどがある!
と、頭では分かっているのだがこれも仕方が無いと言える。
だってこの宗教活動、マジで魅力ゼロなんだもん。
そんな訳で、私がひねり出した苦し紛れの言い訳は、
腹を下してトイレにこもり、ノックは聞こえていたけど出られなかった、というそれはそれで恥ずかしい理由だったのです。
その後の数週間、私の頭の中はガンバの冒険で一杯でした。
図書館で原作を借り、賭博師のイカサマというキャラに恋をし、ビデオデッキが無いのでカセットに音声を録音して繰り返し聴きました。
当時の言い回しだと、ほとんどビョーキという状態です。
そして迎えた最終回。
ガンバの冒険が終わってしまい、私の心にはぽっかりと穴が開いてしまいました。
これからまた毎日、何の気晴らしも無いままエホバの証人として野外奉仕と集会オンリーの毎日...考えるだけで気が狂いそうです。
季節は夏の終わり、私は奉仕の帰り道の国道を走っていました。
この道を真っすぐ進むと群馬県、と道路標識に書いてあります。群馬県の先はどこだろう?ずっと、ずーっと先まで進むとやがては北海道にたどり着くのだろうか?
この原付バイクで?
私は最初に目に入った書店にカブを停めると、「東北」と「北海道」のロードマップを購入しました。そして仕事から戻った姉に自分の計画を興奮気味に話しました。
へぇ~面白そう!いいね!
姉はあっさりと賛成してくれて、会衆の人たちにもプー子は旅に出たって伝えて置くからと約束してくれました。
そして思い立った翌日、私はカブに荷物を積むと北に向かって出発したのでした。
続く
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岡田斗司夫氏も絶賛する「ガンバの冒険」↓