子どもの私が初めて神様に出会った場所はヤップ島でした。
妹がまだ生まれていなかったので3歳くらいだったでしょうか。
家族でパラオ島とヤップ島を訪れていた時です。
記憶はぼんやりとしていますが、所々鮮やかに覚えています。
私と姉は海岸に無数に落ちている白い枝珊瑚を頭に当て、
バンビになったつもりで穏やかな浅い海で遊んでいました。
上半身裸で腰ミノを着けた島の人達は、海岸近くの木陰に並ぶように座って芭蕉やヤシの葉でカゴなどを編んでおり、私たちと目が合うと白い歯を見せて笑い、大きく手を振ってくれました。
母は島の人たちの様子を熱心にスケッチしていました。
その日は島の長老に会いに行くことになっていました。
長老とは何なのかを尋ねると、とても偉い人だと言われました。
とても偉いという事は神様なのかと聞くと、そうだ神様だという答えでした。
神様に会いに行く!
私はこれから神様に会いに行くんだ!
案内してくれた島の若者は腰ミノではなく、膝までのズボンとTシャツを身に着けていました。
ジャングルを抜け、明るい野原に出ると錆びた日本の戦闘機が転がっていました。
昔ここで戦争があったらしいです。
野原が終わるところ、ジャングルとの境目に神様の家がありました。
迎えに出てくれた神様は長ズボンとポロシャツを身に着けた、優しそうな男性でした。
ポカンと口を開けて見上げている私に笑い掛け、神様は大きなホラ貝を見せてくれました。
私の頭よりも大きな巻き貝でした。
「ぶぉ~ぼぉ~~」
神様は楽器のように貝の先端を吹き、汽笛のような大きな音を出してから、
私にそのホラ貝を差し出しました。
私も真似をして音を出そうとしましたが、スカッスカッと空気が通り抜ける音しか出せません。
神様はやっぱり人間とは違う、不思議な力を持っているんだなと感心しました。
両親と神様がお話をしている間、私と姉は裏の庭で遊んでいました。
私たちの身長よりもずっと高い、大きな石の硬貨がたくさん並んでいました。
温かい石の表面に生えた湿った苔の匂いと感触を今でも良く覚えています。
島を去る時、滑走路で昼寝をしていた黒豚の親子を職員がヤシの枝で追い払いました。
プロペラ機が旋回している間、私は小さな窓に張り付いてあの広い野原を探しました。
神様の住む家を空からもう一度確認したかったのです。
残念ながら神様の家を見付ける事はできませんでしたが、
白い水鳥が何羽か浮かぶ小さな湖がジャングルの中にあるのを発見しました。
いつかまたこの島に戻って来たら、
必ずあの湖を訪れて、そしてもう一度神様に会いに行こうと心に誓いました。