
岡山大学の松木武彦先生による『列島創世記』。 2007年に小学館から刊行が開始された「全集日本の歴史」の第1巻となる本書は、考古学の一分野である認知考古学の考えを大きく取り入れており注目を集めました。 冒頭、「はじめに」では3つの指針が示されています。 1.歴史科学の再生をめざし、その1つの軸として認知考古学の成果を取り入れる。 2.地球の環境変動が歴史に与えた影響を積極的に評価する。 3.「日本」という枠組みを固定的に連続したものとして捉えない。 わたしは発売後すぐに購入。 日本列島を西へ東へ北へ南へ、一遺跡から列島そして東アジアへと飛翔する、そのスケールが大きく躍動感のある視点に圧倒されました。また、たんに発掘調査の成果を並べるのではなく、認知考古学の手法を用いて、それを残した人々の心に迫っています。 まさに21世紀のあたらしい通史の登場だと感じました。 この本で非常に印象的な言葉が1つあります。 それは「心の科学」 その言葉が初めて登場する14ページの14行目には、 「心の科学」(認知科学) と書かれており、「心の科学」とは認知科学のことだと分かります。 認知科学とは、 「感情・欲望・神・迷信などを含むヒトの心の現象」の科学的な分析から「数百万年もの進化がつくったヒトの心の普遍的特質の理解をもとにヒトの行動を説明しようとする」学問であると書かれています。 この「心の科学」という言葉、本書には何箇所も登場しています。気になってもう一度読み返してみると、計11回使用されていました。 この本のキーワードであることが読者に深く印象付けられます。 で、この「心の科学」という言葉。 さいきん書店で再び目にしました。 それが、 森山徹さんの『ダンゴムシに心はあるのか』 副題に「新しい心の科学」とあります。 著者の森山さんは、信州大学で助教をされている方で、専攻は比較認知科学、動物心理学。 本書の主題は、大脳などない単純な(?)生物であるダンゴムシに、はたして心が存在するのかという非常に刺激的なもの。 いくつもの行動実験を通じて、未知の状況下におかれたダンゴムシが、通常とは異なる予想外の行動を選択する個体あがることを明らかにし、ダンゴムシの「心」「知能」にせまっています。 この本の面白いところは、まず最初に「心」とは何なのか定義することから出発している点。 森山さんによると、心とは、「ある行動を発現させるとき、余計な行動の発現を自律的に抑制=潜在させる、隠れた活動部位」と示されています。詳細は本をご覧下さい。さまざまな例を挙げて説明しています。 そして心の科学とは、「未知の状況において、その観察対象が立ち止まってしまわないように、予想外の行動を発現させる」心の働きを、「実験的に確認する実践的学問」と説明されています。 上記の2冊を読んで私が面白いなと思ったのは、認知科学に影響を受けた2人の研究者が、まったく異なる学問分野で、同じ「心の科学」という言葉を違う意味で使用している事。 意味が違うのは分野が異なるのだからあたりまえですが、『列島創世記』では「心の科学」とは「認知科学」の単なる言い換えであるのに対して、『ダンゴムシに心はあるのか』では「隠れた活動部位」である心の働きを実験的に確認する学問と明確に示されている点で、とても対照的です。 『列島創世記』もそうですが、認知考古学関連の入門書などを開いても、「心」という言葉がけっこう多く使われています。しかし『ダンゴムシに心はあるのか』のように、「心」とは何なのか定義しているのを目にしたことがありません。 認知考古学でいう「心」って、何なのでしょう。 【参考文献】 松木武彦 2007 『全集日本の歴史 第1巻 列島創世記』 小学館 森山徹 2011 『ダンゴムシに心はあるのか』 PHPサイエンス・ワールド新書