北朝鮮の軍事情勢をウオッチしよう

北朝鮮の軍事情勢をウオッチしよう

主に北朝鮮の軍事情勢や装備などを考察・解説するブログです。

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1 はじめに

北朝鮮は今までに弾道弾を中心に開発を進めてきましたが、ここ10年で通常兵器についても現代化を推進しています。現代化の中心は陸軍用装備が中心となっていますが、海軍も例外ではありません。

ただし、海軍についてはSLBM潜水艦の開発のみが注目され、水上艦艇については情報が皆無だったり、誤っているものが多く見受けられます。

そこで、このブログ上で独自に解説することにしました。

 

このシリーズでは、近年に北朝鮮が建造・配備した水上艦艇群について簡単に説明していく予定です。皆さんが現代北朝鮮海軍への関心を持つ・高めるきっかけとなれば幸いです。

※イラストの無断使用は禁止であり、使用が確認された場合は使用料金を請求します。

 

 

2 概要

  1. 全長:77メートル
  2. 全幅:9メートル
  3. 排水量(推定):1000㌧~1500㌧の間
  4. 武装:手動式100ミリまたは85ミリ砲×1(1番艦)か自動式76ミリ砲(2番艦)、AK-230改 30ミリ多銃身機関砲×2、

    近距離対空ミサイルシステム×1、14.5ミリ多銃身機関砲×2、金星-3型艦対艦ミサイル(4連装)×2、533ミリ魚雷発射管(2連装?)×2、RBU-1200対潜ロケット弾発射機×4

  5. 電子兵装:362型対空・対水上レーダー×1、(フルノ製と思しきものを含む)対水上または航海用レーダー×2、MR-104「ドラム・ティルト」FCSレーダー(主にAK-230用)×2、6連装チャフ発射機×4~6

  6. 建造数:2隻

  7. 建造場所:羅津造船所(日本海側)、南浦造船所(黄海側)

  8. 1番艦の建造期間:2011年頃から2017年前半まで

  9. 2番艦の建造期間:2012年から2018年1月まで

  10. 1番艦の現況:運用中(2017~、東海艦隊楽園基地)

  11. 2番艦の現況:ほぼ完成(海軍への引き渡し待ち?)

※今回の解説する場所の位置関係

 

 

3 解説と沿革

 

アムノク級は北朝鮮海軍の将来を担う新型艦であり、初めてその存在がはっきりと確認されたのは2016年11月になってからでした

この艦はそれ以前から建造中の姿が衛星画像で確認されていましたが、しばらくは後日に紹介するトゥマン級コルベット(下の画像)とともに当初は南浦(ナンポ)級と呼称されていました(注:トゥマン級と同型艦と混同されていた)。 

 

 

アムノク級自体は2011年10月に羅先で初めて建造中の船体が撮影されていました(下の画像)。しかし、その直後に撮影された画像ではその姿が見えず、代わりにほぼ場所にトゥマン級が停泊している姿が確認されたため、著者を含めたウォッチャーから「これはトゥマン級のベースになった旧式艦のスクラップ船体では?」と推測されてしまいました。結果的にそれが誤っていたのは前述のとおりですが、それまでは誰も気づかなかったわけです(これは北朝鮮海軍を観察する者が極めて少ないことを象徴している)。  

 

 

南浦造船所では建造当初からその姿が撮影されていました(下の画像)。その特徴から、著者はこれが明らかにトゥマン級とは異なる新型艦であることを推測していました。この推測は正しかったものの、一般的に2016年11月まで、アムノク級は南浦で1隻だけ存在するものと思われていたことは事実です。

 

 

一見すると、アムノク級のデザインはアメリカのアーレイ・バーク級駆逐艦やミャンマー海軍のチャンシッター級フリゲート似たステルス製を意識したデザインに見えますが、よく見ると北朝鮮らしい垢抜けた部分も見ることができます(艦橋の一部や窓の形状)。

また、マスト上のトラス状の構造物やステルス性を意識していない兵装が多く装備されているため、実際にレーダー反射断面積が低減する効果があるのか疑問が生じます。船体やマストなどがトゥマン級と共通しているように見えますが、よく見ると異なる点も多くあります(マスト上部など)。

 

アムノク級はトゥマン級と同じく羅先(1番艦)と南浦(2番艦)で各1隻が建造され、前者は2017年夏には東海艦隊司令部がある楽園郡の基地に配備されています。

下の画像の1枚目は2017年7月7日で2枚目は同月14日に撮影されたものです。7月14日以降はアムノク級と思しき艦影は見えなくなったので、この撮影期間の間に出港したものと思われます。

 

 

同年8月の時点で楽園基地にアムノク級らしき艦影が停泊している様子を確認することができます(下の画像)。

 

 

これだけでは分かりませんが、後日に撮影された画像でこの船がアムノク級であることが確認されました(下の画像)。

その停泊位置はかつて東海艦隊旗艦であるナジン級フリゲート(531番艦)の定位置であったため、同艦が東海艦隊の旗艦となった可能性があります(注:ナジン級は2016年初夏以降に羅先へ移動したまま)。

 

 

2番艦は2018年1月頃に進水しており、一見するとほぼ完成しているように見えますが、未だに海軍基地へ移動していません(下の画像:2020年12月24日撮影)。

 

 

 

4 武装の補足的解説

 

アムノク級1番艦は2010年代後半に就役した最新鋭の主力艦ですが、その主砲(下の画像と同型の砲)が約70年前の旧式という点に驚かされます。これについては、

  1. 制裁で高性能の艦載砲を入手・整備することが不可能となった
  2. 国産可能だが、性能や価格的問題で導入を断念した

などの理由が推測されますが、2番艦は(海上自衛隊も装備している)イタリアのオットー・メララ製自動式76ミリ砲そのものかコピーを搭載しているため、いくらかは状況が改善したようです。

 

76ミリ砲の管制についてですが、通常は専用のFCSレーダーがあるべき艦橋上にAK-230用のMR-104が搭載されています。AK-230の数やこのレーダーの位置からすると、主砲の管制用に改良された可能性があります。一見すると無理がありそうですが、北朝鮮と親しいミャンマー海軍のコルベットが一時的に同じ組み合わせで登場した時期があるため、その可能性は決してゼロではないでしょう。(MR-104の後継であるMR-123がAK-176 自動式76ミリ砲のFCSレーダーである点もこの推測を補強します)。

 

 

対空ミサイルは携帯式対空ミサイル(SA-16など)の6連装発射機が1門ありますが、これだけで米艦軍機に対応するのは酷でしょう(下の画像はヘサム級高速ミサイル艇に装備されたもの)。

 

 

対艦巡航ミサイルはロシア製Kh-35を国産化した金星-3を装備しています。北朝鮮の艦艇としては珍しく西側の艦船のようにミサイルを真横に向けて配置しています。

 

アムノク級の最大の特徴は金星-3を艦橋後部にあるMR-104レーダー塔の内部に格納している点にあります。発射時には塔の左右側面ドアが横にずれてそこからミサイルが発射される仕組みとなっているようです(下の画像)。

 

 

ただし、2番艦は設計が変更されてMR-104レーダー塔が無蓋式となり、ミサイルの架台がむき出しに配置されています(その関係でMR-104の位置が少しずれました)。

衛星画像からも架台の存在を確認することができます(下の画像)。

 

 

ミサイルの架台の形状はノンオ級高速ミサイル艇やナジン級フリゲートに装備されたもの8下の画像)と同じように見えます。

 

 

RBU-1200対潜ロケット弾発射器やAK-230改 30ミリ多銃身機関砲、14.5ミリ多銃身機関銃については知名度が高いため、ここでは割愛します。

 

アムノク級は現用艦としては久しぶりに魚雷発射管を最初から装備したことが注目されます。これはステルス性を意識したためか、船体後部に上手く格納されています。

近年の北朝鮮は水上大型艦に再び魚雷発射管を装備し始めています

が、対潜戦に力をいれているのか、それともシクヴァルのような高速魚雷など旧式の性能を上回るものを得たのかは不明です。

 

 

電子兵装の補足的解説

アムノク級には対空・対水上レーダーとして中国製362型が装備されていますが、2012年にはノンオ級高速ミサイル艇に装備されていることが確認されているため、その完成時期である00年代前半には北朝鮮が入手したいた可能性があります。

 

対艦巡航ミサイルのFCSレーダーですが、362やMR-104にその機能が含まれているか、対水上・航海用レーダーを改良してその機能を持たせた可能性(注:イランやキューバが同種の装備を保有しています)がありますが、現時点でははっきりとしません。

 

 

結論

この船は北朝鮮が現代的なスタイルの艦艇の建造が可能であることを証明したものになりますが、建造期間・数や搭載している装備が北朝鮮が抱える問題を示唆しています。

また、武装は既存の高速ミサイル艇とあまり変化がないため、わざわざ「大型艦」を建造する必要性があるのか疑問が生じます。

もちろん、新型である以上は性能は既存の艦船と比較すると段違いのため、今後の動向に注視していく必要があるでしょう(この船の存在が南北の戦力差に全く影響しないことを考慮する必要がある)。