監督:城定秀夫
原作:藪博昌
兵庫県立東播磨高校演劇部
脚本:奥村徹也
出演:小野莉奈、平井亜門、西本まりん、中村守里
2020年 公開
元々は、第63回全国高等学校演劇大会 最優秀賞を取った戯曲。
関東大会までいったものの、演劇部の公演ができなかった、安田あずは。
公演できない原因になってしまった、田宮ひかる。
エース投手に勝てないと悟り、辞めてしまった元野球部投手、藤野富士夫。
先日の模試で初めて2位に下がってしまった、宮下恵。
この4人が勝てないと分かっている野球部の試合、それも甲子園を見る話。
まず、この映画において特筆するべき点は、野球の試合を一切、映さないということ。
つまり試合展開は登場人物の台詞、ウグイス嬢のアナウンスなどでしか分からない。
更に、カメラは基本的にアルプススタンド、応援席の方を向くことしかできない。
個人的には、これは良いと思う。
なぜならば、野球の試合展開は登場人物の感情を動かすためにあるのであり、汗水流して必死に強豪校に喰らいつく野球部の話では無いからだ。
また、観客に映像の外を感じさせることができる。
しかし、この制約を破っている1カットがある。
安田みずほと藤野富士夫の会話のシーンの中にある1カットだ。
今までグループショットが中心に撮っていた映画が、急に背中を映す。
このカット内の台詞、「しょうがない」という安田みずほの台詞。
この映画の場面場面に散りばめられた「しょうがない」という台詞。
これがこの映画のテーマに直結しているのである。
また、この映画はほとんど寄った画が無い。
代わりにグループショットの画が多い。
グループショットということは台詞を話す登場人物以外も映るということだ。
自分は、話している登場人物よりも、聞いている登場人物のリアクションが大事だと言われてきた。
この映画を見ているとその意味がよく分かる。
ある登場人物の言葉が、別の登場人物の感情を動かす。
それが特に伝わってくるのが終盤の田宮ひかるが応援するところだ。
その前に安田あずはが教師の厚木修平に対して応援を否定する。
「もう無理なんかしたってしょうがない」
確かに野球の試合は0-4で負けている。相手は強豪校。勝てるわけがない。
このカット内で、田宮ひかるは下を向いている。
そこから何か思い立ったようにふっと立ち上がる。
一人が熱を持つと他に移る。
この移る際のリアクションを見ていると、ああ、なるほどと感じる。
これがリアクションが大事と言われる訳だと。
全体として会話劇ながら、テンポが良く飽き飽きせず見ていられる面白い映画だった。