第189回国会 法務委員会 第14号
平成二十七年五月二十八日(木曜日)
   午前十時開会
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   委員の異動

 五月二十六日
    辞任         補欠選任
     羽田雄一郎君     足立 信也君
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  出席者は左のとおり。

    委員長         魚住裕一郎君
    理 事
                熊谷  大君
                三宅 伸吾君
                有田 芳生君
                真山 勇一君
    委 員
                猪口 邦子君
                鶴保 庸介君
                牧野たかお君
                溝手 顕正君
                柳本 卓治君
                足立 信也君
                江田 五月君
                小川 敏夫君
                矢倉 克夫君
                仁比 聡平君
                田中  茂君
                谷  亮子君
   事務局側
       常任委員会専門
       員        櫟原 利明君
   参考人
       中央大学法科大
       学院教授     小木曽 綾君
       関東交通犯罪遺
       族の会代表    小沢 樹里君
       自由法曹団司法
       問題委員会事務
       局長
       日本弁護士連合
       会人権擁護委員
       会再審部会部会
       長        泉澤  章君
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  本日の会議に付した案件

裁判員の参加する刑事裁判に関する法律の一部
 を改正する法律案(内閣提出、衆議院送付)
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委員長(魚住裕一郎君) ただいまから法務委員会を開会いたします。

 委員の異動について御報告いたします。
 去る二十六日、羽田雄一郎君が委員を辞任され、その補欠として足立信也君が選任されました。
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委員長(魚住裕一郎君) 裁判員の参加する刑事裁判に関する法律の一部を改正する法律案を議題といたします。

 本日は、本案の審査のため、三人の参考人から御意見を伺います。
 本日御出席いただいております参考人は、中央大学法科大学院教授小木曽綾君、関東交通犯罪遺族の会代表小沢樹里さん及び自由法曹団司法問題委員会事務局長・日本弁護士連合会人権擁護委員会再審部会部会長泉澤章君でございます。
 この際、参考人の方々に一言御挨拶を申し上げます。
 本日は、御多用のところ本委員会に御出席いただきまして、誠にありがとうございます。
 参考人の皆様方から忌憚のない御意見を賜り、今後の審査の参考にいたしたいと存じますので、どうぞよろしくお願い申し上げます。
 議事の進め方について申し上げます。
 まず、小木曽参考人、小沢参考人、泉澤参考人の順に、お一人十五分程度で御意見をお述べいただきまして、その後、各委員からの質疑にお答えいただきたいと存じます。
 なお、意見の陳述、質疑及び答弁のいずれも着席のままで結構でございますが、御発言の際は、その都度、委員長の許可を得ることとなっております。また、各委員の質疑時間が限られておりますので、御答弁は簡潔にお願いいたします。
 それでは、小木曽参考人からお願いをいたします。小木曽参考人。
参考人(小木曽綾君) おはようございます。中央大学の小木曽と申します。
 法科大学院で刑事訴訟法を担当しておりますほか、本法案に係る法制審議会の部会で委員を務めておりました。この法案に賛成の立場から意見を申し上げます。
 法案には第一から第四までございますが、その一は、著しく長期又は多数回にわたる事件を裁判員対象事件から除外するというものであります。
 裁判員制度の理念は、法の一条に、国民の裁判への参加が司法に対する国民の理解の増進とその信頼の向上に資すると説明されております。したがって、これは、裁判を受ける被告人の権利とか参加する国民の権利というわけではなくて、刑事裁判についての国民の理解と信頼の向上に資するということがその目的ということでありますので、仮に余りに国民の負担が重くなるということが想定された場合、なりわいを犠牲にしてでも裁判への理解と信頼を確保するために裁判員として務めを果たせというわけにはいかないだろう、それを強いれば、かえって国民の司法制度への信頼を損なうおそれがあるのではないかというのがこの提案を支える理由であると理解しております。
 また、仮に裁判員がいなくなってしまいますと、次の裁判員を選任する間、裁判手続が停止することになりまして、これは被告人の迅速な裁判を受ける権利を侵しかねません。法案は、憲法及び裁判員制度の理念と矛盾しないものと思います。
 次に、その対象をどのように定めているかということですが、一つは、裁判手続が始まる前に、審判に要すると見込まれる期間が著しく長期にわたる、又は公判期日等が著しく多数にわたることを回避できない、そのときに、他事件の選任、解任の状況や、その事件での選任手続の経過等を考慮して決める、又は、裁判が始まってから後で同様の事情がある場合にこれを除外するということになっておりまして、対象事件が具体的に定められてはおりません。
 そうすると、本来裁判員裁判であるべきものが、平たく言いますと、裁判員裁判面倒だから裁判官裁判にしてしまおうと、そのような運用がされるのではないかということが懸念されましたり、あるいは、裁判所としてもどのくらいであれば著しく長期と言えるのかという基準がないので判断に困るという意見があろうかと思います。
 では、この制度を設けるとして、除外事件を設けるとして、その期間や回数を明確に区切ることができるか、又は、そうすることがいいかということであります。
 これについては、例えば、あくまで例えばですけれども、百日を超える場合というふうに定めたとして、その場合に百一日との違いはどこにあるのかとか、また、百日超えであっても裁判員が十分に確保できるという見込みがあるのにやらないのかといった疑問が生ずることになるでしょう。
 大まかにこれを定めるといっても同じことだろうと思います。期間や回数を区切ってしまいますと柔軟な対応ができないおそれがありますので、個別の判断に委ねることとし、ただし、その事件を担当する裁判官が面倒だからやめようということのないように、別の裁判官の合議体でこれを決することとして、その際には当事者や事件の経過についてよく知っているその事件を担当する裁判所の裁判長の意見を聴くという手続的な障壁を設けて、さらに、決定については即時抗告という不服申立ての制度があるということであります。
 また、実際の運用としては、審理計画を立ててみたら、当初から一年、二年掛かるということが分かるようなものであれば選任手続に入らずに除外するということかもしれませんけれども、そうでないものについては、選任手続に入ってみたら困難だということになって、そうした事例がそうあるとは思えませんが、積み重なることで著しく長期、多数の基準ができ上がっていくことが期待されるのだと思います。
 したがいまして、基準が明確でないということで恣意的な運用がされるのではないかという懸念がありますけれども、しかし、それに応えるような制度になっていると考えます。
 さらに、これまで裁判員の職務従事期間が百三十二日、百十三日といったような事案でも裁判員裁判ができているのだから、除外事件を設ける立法事実がないのではないかという指摘もありそうですけれども、これは、やってみたら裁判員が足りなかったということになったときには既に遅いのでありまして、既に、たしか四日間の審理が予定されていた事件で、ある裁判員がインフルエンザでしたか病気で解任されまして、そのため審理が延期されて、ほかの裁判員も辞退したという事案があったと記憶しております。
 法案が想定していますのは元々長い事件ですから、証人の数も証拠の数も多い。既に行われた証拠調べの結果を新たに選任された裁判員に知ってもらう手続を入れて更に裁判を続けますと、その分裁判が延びます。その結果、さきに申しましたように、被告人は裁判制度の都合で待たされることになります。また、裁判員の負担も増大することになるでしょう。これは言わば転ばぬ先のつえでありまして、これまでそのような事案がないということは反対の理由にはならないものと思います。
 以上が、第一の点についてでございます。
 法案の第二、第三については、特に申し上げることはございません。当然の措置であろうと考えます。
 第四は、裁判員選任手続での被害者特定事項の取扱いであります。
 裁判では、犯罪の被害に遭った人々に関する様々な情報、プライバシーが明らかにされることがあります。これが流布されることによって被害に遭われた方が被る二次被害は大変なものがありますので、刑事訴訟法には被害者特定事項の秘匿制度、裁判員には守秘義務も課されていますけれども、これは裁判員候補者には現在のところ及んでおりません。
 実務的には相当な工夫をして、選任手続で被害者特定事項が伝わらないようにしているとのことではありますけれども、被害に遭われた方にとってはこれは大変な関心事でありまして、念には念を入れて、候補者であっても知り得た被害者特定事項は明らかにしてはならないこととして、ただし、候補者であるという地位に鑑みて、その義務があることのみ法に定め、罰則までは置かないというバランスを取ることを図ったもので、適切な方策であると考えます。
 頂戴しました時間に若干余裕がございますので、第一の点について補足させていただいてよろしいでしょうか。
 当事者の請求又は職権である事件を除外事件とすると国民が裁判に参加する機会を奪うのではないか、除外事件を決める手続に国民の意見を聞く段階を設けるべきではないかという御意見があろうかと思います。
 これについては、まず形式的に、憲法及び法律には裁判員となる国民の権利ないしその機会を保障するという定めはありませんので、裁判員法の立法趣旨は、再三申しますように、国民が裁判に参加する権利を実現するためというものではないと解されます。
 そしてまた、より本質的には、裁判員となることがもし権利であるとしますと、これを放棄することもできるはずでありまして、そうすると、国民には裁判員となることを辞退する自由も認められることになるのではないかと思います。しかし、法は辞退事由を限定し、さらに、罰則をもってこれに対処しております。ということは、この制度は国民に裁判員になる権利を保障したものではないと解することになります。
 一条が言いますように、国民の参加によって刑事司法への理解と信頼を促進するという政策的な目的を実現するためのものでありますから、したがって、それがかえって国民に負担を課すというものであれば除外事件を設けることができる、このように解されます。
 以上です。
委員長(魚住裕一郎君) ありがとうございました。
 次に、小沢参考人にお願いいたします。小沢参考人。
参考人(小沢樹里君) 本日はよろしくお願いいたします。
 私は、関東交通犯罪遺族の会(あいの会)の代表、それから全国犯罪被害者の会(あすの会)の会員の小沢樹里と申します。私は、裁判員裁判について被害者遺族が感じたことと題しまして、ここの場でお話をさせていただきます。
 私は、交通犯罪によって義理の両親を亡くした被害者遺族です。義理の双子の弟や妹もこの事件で重傷を負いました。妹は、顔面に複雑骨折し、前歯を十二本も折り、表情が事件前と大きく変わってしまいました。弟は、排尿、排せつ障害になりました。また、妹と弟は共に高次脳機能障害となるなど、七年以上たった今でも大きな後遺障害に苦しんでおります。私は、事件後、夫とともに弟、妹の二人を引き取り、一緒に暮らし、面倒を見ております。
 事件の概要ですが、二〇〇八年二月十七日、家族四人が乗った車が埼玉県熊谷市の路上で事件に巻き込まれました。加害者の運転手が飲酒し泥酔状態の末、連続カーブ、時速四十キロの道路を百から百二十キロで走行し、コントロールを失い、反対車線に走っていた二台の車に衝突いたしました。そのうちの一台が私の義理の弟が運転していた車で、妹と両親が同乗しておりました。両親は即死でした。
 加害者側の運転手は、既に危険運転致死傷罪により十六年の実刑判決が確定し、服役中です。また、酒を飲ませた飲食店店主も、道交法の酒類提供罪で懲役二年、執行猶予五年、有罪判決を受けました。そして、同乗者二人は、さいたま地裁で危険運転致死傷の幇助罪として裁判員裁判を受け、懲役二年の実刑判決が下りました。
 裁判員裁判に関与した内容についてですが、被害者参加人として、夫、弟妹と私の四人が参加いたしました。当初、私、小沢樹里が長男の嫁であり血族ではないので被害者参加ができないとの誤解がありましたが、姻族の直系親族であっても参加ができるという確認が取れ、私も参加人として裁判参加ができました。
 証人として、事故当事者の弟妹二人と私の夫、計三人が証言台に立ちました。被害者の意見陳述は、弟妹の二人と私の三人が行いました。犯罪事実については、私が被告人両名に直接質問をいたしました。被害者としての論告求刑も、委託していた弁護士だけではなく、夫が直接行いました。ちなみに、情状事実についても被告人両名に被害者が直接質問しようと思いましたが、後で述べますように、全く納得のいかない形で、訴訟指揮で認められることができませんでした。
 裁判員裁判でよかった点をお話しさせていただきます。
 私たちは、四人の被告人に対して三つの裁判を経験してきました。危険運転致死傷罪での運転手に対する裁判、道交法の被害者がいないとされた飲食店店主に対する酒類提供罪の裁判、そして同乗者二人に対する危険運転致死傷幇助罪での裁判です。この罪名での裁判員裁判の起訴は全国初でした。
 最初の二つの裁判とは異なり、三つ目の裁判だけが被害者参加、そして裁判員裁判が始まって以降の起訴でしたので裁判員裁判となりました。私たちが危険運転致死傷罪の共同正犯で二人を告訴しなければ、道路交通法の同乗罪として裁かれ、裁判員裁判になることはなかったでしょう。また、道交法は被害者なき犯罪として扱われますから、私たちも被害者参加人となることはできなかったことと思います。
 この三つ目の裁判員裁判が最初の従来の裁判二つとはっきり違ったのは、裁判が大変に分かりやすかったということです。裁判員に理解ができるように進行したため、突然遺族となった私たちにとっても最初の二つの裁判に比べて十分に理解ができました。
 また、私たちは、法律論よりも、事件に関係した人の日常、当日の行動、それが聞きたかったのです。裁判員も私たちと同じ感覚で、普通の疑問を被告人にしていただきました。例えば、同乗者同士であるA被告人と事件当日に一緒に飲んでいたB被告人に対して、裁判員は補充質問で、以前A被告人から暴行を受けたことがあると言っていましたけど、何回ありますかと聞きました。B被告人は一回だけですと答え、裁判員はどういう暴行でしたかと更に聞き、B被告人は拳で背中を何回もたたかれましたと答えたのです。このように、会社内の役職上は横並びであっても、実際の被告人二人には上下関係があったことを的確に裁判員が浮き彫りにしてくれました。
 さらに、情状立証に入ろうとしたとき、裁判長は法廷に入ってくると、本日の予定を変更します、裁判員らの強い要望により更に罪体について審理を続けます、ついては証拠請求されていない証拠のうち、B被告人の検察での供述調書を職権で採用したいと考えておりますと宣言したのです。裁判員が強く要望してくれたおかげで、公判前整理手続で検察官が諦めかけた証拠を裁判所によって改めて証拠採用してもらうことができました。これこそが市民感覚の意義と感じました。
 また、次にですが、被害者参加制度を利用した裁判員裁判において問題となった又は問題と思われたことについてお話をさせていただきます。
 私たちの裁判では、せっかく被害者参加人となって被告人質問をする準備をしていたんですが、情状質問については、被告人が、無罪を主張する以上、情状については包括的黙秘権を行使すると主張したために、裁判所が検察官や私たちの発問自体認めてくれませんでした。私たちが委託した被害者参加弁護士が、黙秘権は黙っている権利であり、相手側の発問自体を制限するものではないと強く裁判所に異議を述べ、少なくとも発問をすることは認めてほしいと求めました。ですが、結局、異議は認められませんでした。私たち被害者は、事件以来ずっと被告人に聞きたいと思っていた情状について質問することさえできませんでした。被告人に聞きたいことがあるから被害者参加制度を利用して法廷に立とうと決めたのに、裁判官の制度への無理解からそれを無視されました。
 私たちの疑問を法廷で聞いてもらえなかったことについては、被害者側の問題だけにはとどまりません。私たちの裁判を担当した裁判員にとっても大きな問題となって残ってしまったように思うのです。私たちの疑問が明確にならない状況があったのですから、裁判員にも事実の真相をしっかり理解してもらえなかったんではないかと今でも思っております。
 先ほど述べたよかった点と関連しますが、裁判を通して、裁判員が聞きたかったことと私たち遺族が聞きたいことはとても近いように感じました。その一方で、被害者が聞きたいということは法律の専門家が聞きたいこととは視点が違います。事件の真相を追求するとしても、どんな点が知りたかったのか、何を知りたかったのかについては、職業裁判官に比べて、同じ一般市民である被害者と裁判員の方が同じことを考えているように感じました。
 職業裁判官だけで判断するのではなく、一般市民の感覚を取り入れることが裁判員裁判をつくった理由だったと思います。被害者遺族と裁判員の疑問や意見が似ているのですから、被害者が刑事裁判への参加制度を利用して、自らの質問を生の声で伝えてしっかり法廷で明らかにすることは、裁判員が市民感覚を生かした判断をするためにも必要不可欠だったと思います。
 これも先ほど述べたことと関連いたしますが、私たちの裁判では、公判前整理手続で除外された被告人の供述調書が、被害者の気持ちを理解したと思われる裁判員の強い要望によって、裁判所の職権で復活し、採用をされました。
 裁判員の負担を考慮し、審理をスムーズにするための公判整理手続だったはずが、その手続で証拠を絞り過ぎてしまったために裁判所が新たにまた職権採用しなければ裁判員の判断に支障が出るようでは、全く意味がありません。裁判員の負担ばかり考慮する今の裁判所の運用では、被害者の立場からすると、真相を十分に解明できず、不満が強く残ります。
 なお、現在、公判前整理手続では被害者が立ち会うことも意見を言うこともできませんが、もしこの手続に被害者側弁護士だけでも参加することができれば、私たち被害者の意向を酌んでもらい、証拠の絞り過ぎに歯止めが掛けられ、結果的に裁判員の理解を助けることになるのではないかと思っております。
 証拠については、重傷を負った妹の事故前、事故後の顔写真を証拠採用してもらえませんでした。お手元に資料があると思いますが、見ていただき、御確認していただきたいと思います。裁判員に見てもらうことができませんでしたので、まだ二十代の妹の顔がどんな被害を受けたのか、写真を見れば一目瞭然だったと思います。それを見ていただけたら、事件がいかに悲惨だったということが分かってもらえたのに、証拠採用は強く反対されました。
 ここでも裁判員の精神的負担への行き過ぎた配慮のため、過剰に証拠が厳選されてしまったことは強く疑問を感じました。事件を判断する人たちは、証拠から目を背けるのではなく、きちんと事実に向き合って判断をしていただきたいと思います。
 最近は、御遺体の写真であれば、何の議論もないまま裁判長が一方的に証拠として採用することを却下していると多くの被害者遺族から聞いております。一見むごい写真でも、むごさに至る前に加害者が犯罪行為をやめようとしなかったという強固な犯意の証拠になるのになどと、遺族の不満はとても高まっているそうです。再審請求しようとしていた死刑囚の妻が、三人の被害者の写真を取り寄せて、見て驚き、もう再審には関わるのはやめて離婚したという話も先日のシンポで伺いました。その奥様は、真実を写真で知ったからこそ考えが変わったのではないかと思います。
 犯罪被害者基本法には、被害者にはその尊厳が尊重される権利があるとうたわれており、犯罪被害者等基本計画では、刑事司法は、公の秩序維持とともに、犯罪被害者のためにもあると定められています。裁判員裁判でも、被害者を尊重し、被害者の従来あった姿そのままを見てもらい、本当の被害の現状を知ってもらいたいと思います。
 また、裁判員と比べて、被害者の立場で考えさせられたことについてお話しさせていただきます。
 私たち被害者は、通常の生活をやりくりして遠方から裁判に参加しているのですが、その横で、裁判員だけが受けられるサービスがあることに私たちは気付きました。保育や介護サービス、決まった回数の心理カウンセリング、電話相談についてです。
 裁判員が数日間の裁判に関わることでカウンセリングが必要になるくらい精神的負担が生じる場合があるのも十分分かります。それは、被害者又は遺族にとっても同様です。また、保育や介護については、殺人や交通事犯も含め、常時必要不可欠なことです。介護を担わなければならない遺族が裁判所に通うことができない現状を御存じでしょうか。ですから、被害者も裁判員同様、最低限、保育、介護、カウンセリングを受けられるようにしていただきたいと思います。裁判員への負担を軽減するだけではなく、被害者の負担も軽減をしていただきたいと思います。
 最後になりましたが、裁判員裁判で裁かれる事件は、より罪の重いものだと聞いております。それだけに、被害者や遺族には、事件の記憶を呼び起こすことはとても大きな悲しみ、苦しみを伴います。しかし、それでも真実が知りたいのです。だから、裁判に挑むという苦渋の決断をしているということを裁判員の皆様にはまず知っていただきたいです。特に、遺族は、亡くなった家族のために、自分自身を犠牲にしてでも真実を知りたいと思います。
 裁判員裁判の制度が今後より多く活用され、被害者の命の重みと人を裁く重みが多くの人に伝わり、社会の多くの人が犯罪を犯してはいけないと思ってもらえるように運用されていくことを切に望んでおります。