検査室に移動するため、次男を乗せたストレッチャーが処置室を出て来た。



長男と一緒にストレッチャーに寄り添った。



ストレッチャーはエレベーターに乗せられた。



急いで私たちも乗り込む。

看護師が
「この子…いつも今頃の時間がお昼寝の時間ですか?」



私は、妙な質問だな?っと思った。



とりあえず
「いいえ…。」
っと答えると看護師は



「こんこんと~良く寝ているので… ・・・」



私は、ヤバい!

[これが、昏睡状態っていうやつだ!]
と思った。



ストレッチャーはエレベーターから検査室へ移動して行った。



長男と一緒にまた黙って、長椅子に腰を降ろした。



しぃ~んと静まりかえり、やはり廊下は暗く



誰1人いない。



私は公園で義兄から借りた携帯を取り出した。



病院病院内は携帯かけちゃダメな事は知っている。



でも主人に連絡しなくちゃ…。



携帯をすると
「すぐ向かう。」
っという返事だった。



良かった…。
主人が来ると長男も私も安心する。



続けて、主人の実家に携帯をした。



心の中で電話番号を繰り返した…。



短縮を使い慣れると、本来の電話番号を忘れてしまうから困ったものだ!



さっきの主人の携帯さえ、息子に確認しながらかけた。[ガーン]



携帯は姑が出た。
普段から超!ソプラノ系で電話する姑の声が、尚一層かん高く聴こえる。



「まぁ!なんという事でしょう!!」



こちらに来るとの返事だった。



続けて、会津の実家に携帯した。
実兄が出た。



「皆で無事を祈っている」と言っていた。



携帯をあの時とっさに義兄から借りておいて助かった。


長男の鼻水のティッシュどころかがま口財布さえ持たずに家を飛び出した。



まさか、救急車に乗って病院総合病院直行なんて…。



人生初の一大事だダウン



公衆電話する10円すら持っていなかった。



どれくらいの時計待っただろうか!?



誰1人、通過もしない真っ暗な病院の廊下で



母と息子…無言で座っていた。



どうやって墜ちたか…?とか
堕ちた瞬間を見たか…?とか



息子に聞いてみる事すら思いもつかず…



頭の中が真っ白とはこの事だ!




長男と次男は、とても仲良しだ。

(23才と19才になる現在まで)



一度も…。

一切…。



ケンカも言い争いも、ゲームや食べ物の奪いあいも…



パーのかかる事は



な・ん・に・もしないで育った。



私は体力がないので


子どもを怒鳴りつけたり、ケンカの仲裁に入る事すら


疲れる身体だったので有難かった。



そうじゃなかったら、私の身体では

男の子2人も育て上げられなかった。




「ゆうたんニコニコ。つっくんニコニコ。」
っと兄の行く所は必ずついてあしく弟と



どこに行くにも連れてあしいて寄り添って遊ぶ兄弟。




町内会の神社の祭りのお神輿を追いかけてあしいて


終にあしけなくなった3つ位の弟を1年生位の兄が


おぶって神輿についてあしいていた…



っと近所のお婆さんから聞いた事があった。




一部始終を見ていた9歳の息子は

どれ程ショックだっただろうか…。



長い静寂と沈黙の時が流れ



次男を乗せたストレッチャーは今度は集中治療室に移動した。



私たちは集中治療室の隣に位置する畳の部屋に入るよう指示された。



入る時、次男のくつを渡された。



ビニール袋も何も無い。



仕方がないから


私たちと並べて座敷の前の靴脱ぎ場に置いた。




大人のパーのひらに軽く乗るサイズの

小さくて、オレンジ色であしの上に、白の飾りのポケモンが付いているくつだった。



その時は尚更小さく見えた。



「ポツン」
っと置かれた小さなくつ




集中治療室というテレビドラマの世界でしか耳にしない所に連れて行かれた。



オレンジ色のポケモンのくつ


次男が履いて帰れるかどうか!?



なんて事は全く頭をよぎらなかった。



ただ、一足のくつがやたら小さく…



もの哀しく見えた。




つづくダウン



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