無題に限りなく近い日記
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I've nothing to do.1.5

「ああ、ATフィールドが有る限り、通常兵器は役に立たんよ」
「ATフィールドを抜きにしても、勝てるようには見えんがね」
 ネルフ司令、碇ゲンドウと、副司令、冬月コウゾウの会話である。


「避難確認くらいしてから攻撃しろよなぁ!」
 シンジはホームから線路に飛び下りると、転落者が逃げ込むための穴蔵に体を丸めて爆風をやり過ごした。
「線路伝いに逃げるしかないか」


「碇君」
 上からの声に振り仰ぐゲンドウである。
「先程、旧箱根鉄道の線路上を避難中の学生を発見、保護したそうだ、君のご子息だと名乗っているそうだが?」
 ゲンドウはピクリと反応を示した。
「本部への移送を願います」
「わかった」
「……碇」
 苦々しく吐き捨てる。
「わかっている、葛城一尉を呼び戻せ!」


 ──第三新東京市、ネルフ本部、ゲート前。
 ジェットヘリの風に顔をしかめながら、金髪の女性が出迎えた。
「あなたが、碇シンジ君!?」
「あなたは!」
「赤木リツコ、行きましょう!」
 二人が叫んでいたのは、ヘリのローターの起こす風が、非常にうるさかったからである。
「はぁ、やっと落ち着きましたよ」
「そう?」
 本部内に入ると、突然静かになった、それは背後で閉じたシャッターが厚くて、雑音を遮ってくれたからである。
「結構恐かったですよ」
「そう、そうね、ところでシンジ君?」
「はい」
「IDカード、貰ってない?」
 シンジは肩をすくめて、白々しく答えた。
「どっかに行っちゃいました」
「そう……、まあ良いわ、読む?、ここのことが書いてあるけど」
 シンジは差し出されたパンフを断った。
「良いです、知りたくもないから」
「冷めてるのね」
「そうじゃなくて……、どうして呼び出されたかもわからないのに」
「気になる?」
「当たり前じゃないですか、父さんはもう、僕のことなんてすっかり忘れてると思ってましたから」
 シンジはエレベーターに乗り込んでから、会話の続きに入った。
「これから、父さんの所に行くんですよね?」
 不安なのかとリツコは思った。
「お父さんが、苦手?」
 シンジは答えなかった。
「苦手なのね……」
 そっと盗み見てギョッとする。
 口元に浮かべている笑み、それは寒気を走らせる、冷ややかなものを感じさせた。


「使徒、それはATフィールドと呼ばれる一種のバリアを持つ知的生命体だと思われるわ、NN爆弾を知ってる?、国連軍は最後の手段としてそれを使用したようだけど……」
 不安に思い、表情を曇らせる。
「でも……、街は?」
「大丈夫よ、住民はシェルターに逃げてるはずだから」
「僕は迷ってましたけど」
 返事がない。
「いい加減ですね、結構」
「時間も余裕もないのよ、着いたわ」
 それで許されると思っているのだろうかと考えたが、シンジは無駄かなと諦めた。
 ゴムボートに乗って案内されたのは、黄色いプールの奥にある作業場だった。
 灯が燈る、目の前にあったのは……
「汎用人型決戦兵器、人造人間エヴァンゲリオン」
「人、人間なんですか?」
「良く来たな」
 声に上方を振り仰ぐ。
「父さん?」
 ふっと久しぶりに見る父は笑みを浮かべていた。
「出撃」
「出撃?」
「シンジ君、あなたが乗るのよ?」
 言い諭す言葉に溜め息を吐く。
「父さん」
「なんだ」
「頼むから、話す時は単語で済ませるのやめてくれない?、よくわかんないよ」
 妙に呆れた物言いをする。
「これに乗って、さっきのと戦えっていうんだね?」
「そうだ」
「無理だとは思わないの?」
「お前にしかできないことだからな」
 仕方なく翻訳を頼もうとしたのだが、邪魔された。
「待って下さい!」
 慌てたように、第三者が駆け込んで来た、赤いスタッフジャンパーを着た女性、どこかでうろついていたらしい葛城ミサトである。
「本気ですか!?、綾波レイでさえシンクロには七ヶ月かかったんですよ、今来たばかりの彼には無理です!」
「座っていればいい、それ以上は望まん」
「しかし!」
「葛城一尉!、今は使徒撃退が最優先事項よ」
 リツコが割って入ったのは、ミサトの言葉から指揮に影響が出ると判断してのことだった、このような状況下での、上司の正気を疑うような発言は、してはならないことである。
 だがミサトには、そんなところにまで考えを至らせることはできなかった。
 酷く常識的な言葉を返す。
「とても作戦課としては了承できません、訓練も受けてない素人には無理だわ!」
 感情論に走るミサトにリツコは憤った。
「いま使徒に勝てる可能性が有るのはエヴァだけよ、それとも他に方法があるの!?、さ、シンジ君」
 シンジは二人を無視してゲンドウを見上げたままだった。
「お前がやらなければ、人類全てが死滅することになる」
「大袈裟な……」
「乗るなら早く乗れ、乗らぬならここでは不要な人間だ、帰れ!」
 シンジは薄く笑った。
 低くくぐもった笑いを洩らした。
「ま、拗ねられても困る……、乗ってあげるよ」
 少年は不敵な笑みを、巨大な仮面へと向けた。
「どうなっても、知らないけどね」
 初号機が脅えたように見えたのは目の錯覚だろうか?
 その十分後。
 確かに誰もが想像もできなかったような事態が発生し、到底後悔の一言では片付けられないような状況へと陥ってしまったのであった。


 ──そして、今。
 人工の森の中、温かな日の光を浴びながら、少年は、木の枝の上。
 疲れた体を癒すかのように、穏やかな眠りの中に落ちていた。