理学療法ジャーナル Vol.52 No.4
はじめに)
膝OAの理学療法において、大腿四頭筋の筋力トレーニングとして、大腿四頭筋セッティングやSLR練習などが求められることが多い。近年では膝OAの膝関節内反変形が前額面における変形の特徴であることから、大腿四頭筋の筋力に加えて、前額面の運動に関与する股関節外転筋群の筋力に着目する報告も散見する。
しかし、臨床症状やメカニカルストレスとの関連や、筋力トレーニングによって得られる効果について明確な報告はほとんどない。そこで保存療法における筋力トレーニングの意義と限界について述べる。
変形性膝関節症における筋力)
1.大腿四頭筋
大腿四頭筋の筋力低下は膝OA患者でみられる代表的な身体機能の特徴である。しかし、膝OAの重症度が低い患者は、対照群と比較して、大腿四頭筋の筋力に差がないとの報告や、膝OAの重症度が高い患者は、膝OAの重症度が低い患者と比較して大腿四頭筋の筋力が有意に低いとの報告から、膝OA患者の大腿四頭筋の筋力低下は膝OAの重症度が要因の一つとして考えられる。
2.股関節外転筋群
膝OA患者は、大腿四頭筋の筋力低下に加えて、股関節外転筋群の筋力が健常者と比較して低下していると報告されている。
変形性膝関節症における筋力トレーニングと効果)
OARSIのガイドラインでは、症候性の膝OA患者に対する疼痛緩和および身体機能を改善するための適切な運動療法は、理学療法士による評価と指示・助言のもとに実施されることが有益であり、膝OA患者に対する定期的な筋力トレーニングの継続が奨励されている。AAOSのガイドラインでは、大腿四頭筋の筋力トレーニングが推奨されている。また、日本理学療法士協会の膝OAのガイドラインでは、筋力トレーニングは推奨グレードA・エビデンスレベル1と高い推奨基準となっている。
1.膝OA患者における筋力トレーニングとメカニカルストレス
膝感s熱は、内側コンパートメントと外側コンパートメントに分かれ、それぞれのコンパートメントで荷重分配が行われている。膝OAは、歩行時に膝関節の内側コンパートメントへの過度なメカニカルストレスが膝OAの進行のリスク要因となる。歩行時に内側コンパートメントに生じるこのメカニカルストレスを反映する指標として、外部膝関節内転モーメント(KAM)がある。
KAMは、歩行立脚初期の床反力ベクトルの大きさと、膝関節中心から床反力ベクトルまでの垂線の長さであるレバーアーム長の積によって決定される。KAMは、歩行立脚期に2つのピークがあり、歩行立脚初期に出現する第1ピーク、歩行立脚後期に出現する第2ピークが認められ、立脚期全体の積分であるKAMの力積が一歩ごとのメカニカルストレスの総量である。KAMの第1ピークは、膝OAの進行リスクと関連していると報告されている。
この歩行立脚期のKAMの第1ピークが出現する時期に外部膝関節屈曲モーメントが作用し、膝関節が屈曲するが、筋活動としては大腿四頭筋の遠心性収縮が生じる。これにより膝関節には、荷重時の衝撃を吸収する働きが生まれる。また、この時期に前額面では股関節内転運動が起こるとともに、股関節外転筋群の遠心性収縮が生じており、膝関節には、腸脛靭帯が股関節外転筋群の活動を通して外側支持機構による膝関節の側方安定化に寄与している。そのため、KAMの第1ピークが出現する歩行の立脚初期では、大腿四頭筋と股関節外転筋群の働きは力学的に重要な役割を担う。次に、これらの大腿四頭筋や股関節外転筋群の筋力トレーニングと膝関節のメカニカルストレスに関する報告を紹介する。
1)大腿四頭筋
Limらによれば、大腿四頭筋の筋力と歩行時のKAMの最大値との間に有意な相関関係は認められなかった。さらに、膝OA患者は12週間の大腿四頭筋の筋力トレーニングを行ってもKAMの値に有意な変化はなく、膝関節のX線所見においても膝関節内反アライメントとの関連はなかったと報告されている。また、Foroughiらも、膝OA患者の6カ月間の大腿四頭筋の筋力トレーニングは、KAMの値に有意な変化を与えなかったことを示している。移乗のことから、膝OA患者の大腿四頭筋の筋力トレーニング、KAMの軽減には有効ではないことが明らかである。
2)股関節外転筋群
Kesnらは、膝OA患者の股関節外転筋群の筋力とKAMの大きさに関連はないものの、KAMの力積とは関連が認められたと報告した。
Bennellらは、股関節外転筋群の筋力トレーニングとKAMの変化に関し、膝OA患者を対象とした12週間の股関節外転筋群の筋力トレーニングによって、KAMに有意な変化はなかったと報告している。同様にSLEDらは、8週間で行った。筋力は有意に改善したがKAMに有意な変化はなかったと報告している。以上のことから、股関節外転筋群の筋力トレーニングのKAMを軽減する運動療法として有効性は乏しいと考えられる。
2.変形性膝関節症における筋力トレーニングと臨床症状
これまで述べたように、膝OA患者の大腿四頭筋と股関節外転筋群の筋力トレーニングは、いずれも歩行時のメカニカルストレス軽減のためには有効ではないことが示されている。膝OA患者の主な臨床症状は、歩行、立ち上がり、階段昇降などの動作時痛、関節可動域制限、膝関節の腫脹の3つで、病期とともに進行し、日常生活活動やQOLに大きく影響する。
山田は、膝OAの保存療法の重要な目的として、①疼痛を起こしている組織の同定、病態の評価、それに対する理学療法(対症療法的理学療法)と、➁その原因となっているメカニカルストレス軽減のための理学療法(原因療法的理学療法)を挙げている。このことは、膝関節に加わるメカニカルストレスを軽減するための理学療法に加えて、膝OAの臨床症状を改善し日常生活活動の能力を向上するための理学療法が重要であることを意味している。