Unlimited Road Runner

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心に闇を持つ独りの人間の日記

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  「いくら叫んでも誰も来ないからねーははは~」


 叫び続ける私に看護士が浴びせた言葉でした。

 私には、この真っ暗な部屋から抜け出さなくてはならない大事な理由がありました。

 私には成し遂げなくてはならない夢があったのです。


 私は鍵の無い白い扉を何度も何度も殴りました。

 何度も何度も体当たりしました。

 決して開くことのない頑丈な扉・・・


 <壊してやる、絶対に壊してやる>


 そのときの私は、外の人間から見れば、ただの気ちがいだったのかもしれません。

 けれど、私はどうしても出たかったのです。


 何時間も、明くる日も私は扉を叩きました。

 

 その時でした。今まで決して開くことのなかった扉が ギギギー と重い音をたて

 開いたのです。

 

 「吉田さん、お食事で・・」


 私はその瞬間、もの凄い勢いで部屋から飛び出しました。


 <出るんだ。絶対にここから出るんだ。>

 

 目の前には7人くらいでしょうか 看護士たちが私を捕まえる’準備’を

 していました。私は’それら’の方に向かって走りました。

 <絶対に出る>その気持ちで真っ向からぶつかっていきました。

 看護士たちが7人がかりで私を取り押さえようとしました。

 

 私は”威嚇”を試みました。

 看護士の一人に拳を放ちました。

 もちろん最初から当てる気持ちのない”威嚇”です。


 「おいっ、こいつを抑えろ!」


 殴られそうになったリーダー各の看護士がそう言うと、

 後ろから”大男”のような看護士が私の首を絞めました。

 他の看護士が私を取り押さえ、”大男”の腕の力は徐々に増していきました。


 <息ができない・・・苦しい・・・>


 手を叩いても”大男”は止めません。

 完全に落とす気で”大男”は首を絞めます。

 

 首を絞められながら、看護士達に担がれ、そのまま”監禁室”に私は

 投げられました。


   ガシャン


 今度は、絶望的な音でした。

 何事もなかったように事務処理を終えた靴の音は消えていきました。


 真っ赤な痕の残った喉は咳をし続けていました。

 絶望を感じた手は震えていました。

 

 そのまま私は疲れきり、眠ってしまいました・・・


 時が止まった世界・・・

 目が覚めると外から光が射していました。

 陽の光ではなく、陰の光です。


 僅かな隙間から見えるその光を見て、

 私は涙を流しました。

 ”私のことと外のこと”を唯一知る月を見て

 私は泣き続けました。


 しかし、月は教えてはくれませんでした。

 この真っ暗な世界の外では、もっと非情な出来事が

 起こっていたのでした・・・


 


 頑丈な鉄の扉と爪の引っかき傷が残る厚い木造の部屋・・・

 便器と布団しかないこの部屋で、私は呆然としていました。

 真っ白な扉をどれだけ叩いても、誰も来ませんでした。

 家族の名前を叫んでも、親友達の名前を叫んでも、誰も助けに来てはくれませんでした。


 後ほど知ることになったこの部屋は、隔離室と呼ばれる部屋であり、

 精神病院の閉鎖病棟のずっと奥にある監視カメラのついた部屋です。

 


 「君は病気です。今からすぐに入院してもらいます。」



 自宅から救急隊員に連れられ、辿り着いた病院で、院長が発した最初の言葉です。

 後ろには4,5名でしょうか?看護士がならび、何かの準備をしていました・・

 入院なんてしたくなかったし、自分自身、病気などと思っていなかった私は

 看護士達を掻き分けて家へと帰ろうとしました。

 しかし、看護士達に私は無理やり担がれ、鎮静剤を打たれ、”隔離室”に放り投げられた

 のです。

 


 ガシャン


 扉が閉まる重低音が聞こえました。

 そこは真っ暗な世界・・・

 今まで感じたこともないような絶望感・・・

 私は扉を叩き続けました。

 鎮静剤で効き始めても私は叩き続けました。

 泣きながら叫び続けました・・・


 それでも、誰も来なかったのです・・・

 


 私は声を枯らしました。疲れきって床に倒れました。

 

 <これはきっと夢だ。朝目が覚めれば普段の生活に戻っている>


 意識が遠のく中で、私は親や仲間達のことを思い浮かべていました。


 その日私は夢を見ました・・・

 

 そこには思い浮かべていた通り親、仲間達が出てきました。

 

 <やっぱり病院なんて夢だったんだ!よかった!>


 ふと目が覚めました・・・

 

 

 私は独り誰もいない闇の中でただ呼吸をしていました・・・