私はいつもの様に男の前に出てテーブルを叩き凄みをきかせながら言った
「お客さん金無いってどうゆうことよ、困るんだよね払ってもらわないと」
普通の客ならたいていは前段でヤバイ店に来たことを理解するのだがこの男はまだ自分の置かれている状況を把握していない様子だった。
男の持ち物を全てテーブルの上に並べさせた。
その中にアイドルのブロマイドやCDがあった。
女達はそれを見て執拗なまでに男を揶揄していたが私も乗じてけなしまくった。
最後の持ち物がバッグから出てきた、障害者手帳だった。
私はしばらく言葉を発することが出来なかった。
たまに間違って暴力団の構成員や警察官が入店してくることがあったが私は怯むことなくマニュアルどおりに御代はきっちり払ってもらってきたしそれが自信にもなっていたから怖いものなしだったが今度ばかりは私の悪人の仮面が剥がれ落ちていった。
男は静岡のパン屋で時給300円で働いていて両親やパン屋の亭主からゆるしを得て始めて一人で東京に旅行に出来た23才の知的障害者だった。
養護学校を出てやっと見つけたバイト先で貯めた5万円をにぎりしめて出てきた初日の出来事であった。