【書の巨匠・鍾繇(しょうよう)とは?】
今日は、私が臨書した「鍾繇(しょうよう)」についてご紹介します。
鍾繇(151年~230年頃)は、中国三国時代の魏の政治家であり、書家としても歴史に名を残す人物です。三国志をご存知な方なら馴染みがあるかもしれませんね。楷書(かいしょ)の開祖と称され、「書聖」王羲之にも大きな影響を与えたといわれています。
鍾繇の書風は、一言で言えば「静かで、深い」です。無駄がなく、一本一本の線に重みがあります。とても素朴で飾り気がなく筆をペタっとおいて線を書き始めるようなところが多く、戦国時代の武将でありながら愛らしい線になっています。形もキリッとカッコいいというよりは少し丸みを帯びていてユーモアを感じます。
特に有名なのが「宣示表」「薦季直表」などの作品群。「表(ひょう)」とは当時の朝廷に提出する報告文書のことで、鍾繇はこれらの文章を手書きで何点も残しました。現存しているものは後世の摸本(もほん:写し)ではありますが、彼の書風の特徴を伝えています。
そして、何より興味深いのが「王羲之が鍾繇から学んだ」という事実です。
あの書聖、王羲之ですら、若い頃は鍾繇の書を徹底的に学び、筆遣いや骨格、リズム感を吸収していったと言われています。鍾繇の書には「楷書の原点」があるとされ、その技法や精神が、王羲之の「蘭亭序」をはじめとする数々の名作に受け継がれていきました。
私も今回、鍾繇の臨書をして改めて感じましたが…一見、淡々と見える字の中に、ものすごい緊張感と集中力が詰まっています。まだ楷書として定まっておらず、行書のような筆遣いが時々見受けられます。「どうやったら、この線が引けるんだろう?」と、何度も何度も筆先に意識を集中させながら書きました。
もし、これを読んでくださっている方が「次は何の臨書がいいかな?」と迷っているなら、ぜひ一度、鍾繇の作品をじっくり見てみてください。
時代を超えて、いまも変わらず私たちに「線の本質」を問いかけてくれます。