「…?出ないんですか?」
「一応、モニターで確認を…」
ドンドン!
「おおのさん、こんばんはー!ゆーりですー!」
「げっ…」
な、何時だと思ってんだよーーー!?
夜7時に5歳児の訪問!!
ある種ホラー展開だぞ!!!
「侑李くん?どうしたのこんな夜遅く?」
大野さんが心配そうに勝手にドアを開ける。(そりゃさ、開けざるを得ないんだけどさ)
そこには侑李が幼稚園の制服(私立だから制服なんだよ、言ってたっけ?あれ、言ってない?まぁそういうことにしといてくれ。←)で佇んでいて、大野さんに駆け寄りかけて、俺を見つけて露骨に嫌な顔をする。
「…サクライさん、いたんですか。」
うおい。
ここ俺ん家だぞこら。
居たら悪いのかよ!!
「ねぇ侑李くん、急にどうしたの?1人?」
「ようちえんおわったあとパパのしゅざいがこのちかくであって、そのまま大野さんに会いたくてパパときました!」
嬉しそうに大野さんの足に纏わりつく五歳児。
いや、俺住所教えてないよな?
部屋番号までドンピシャなわけで、和が言うわけねーし潤が説明できるとも思えないけど…
何でお前はさらっとここに辿りついた???
つーか、ん?パパ?
「あの…すみません、こんな夜分遅くに。」
おずおずと出てきたのは、なんつーか…きりっとした感じのイケメン。
「あ、どうもこんばんはぁ。」
大野さんがふにゃっと笑うと、侑李父がぽっと頬を染める。
ん?ん??
ん~~~~~~~??????
「LINEしたんですけどお忙しかったですよね…返事も待たずすみません、侑李がどうしてもって聞かなくて。」
「あ、ごめんなさいご飯作ってて!」
「和くんたちは…?」
「ああ…ふふ、今創作活動中です。」
首を傾げる男に、大野さんがクスクス笑う。
「あ…もしかして、櫻井さん…ですか?」
俺にようやく気付いた侑李父に聞かれ、「はい」と肯定する。
「ああよかった!やっとご挨拶出来て。お忙しい時間に突然申し訳ありません。
加藤と申します。いつも侑李が潤くんと和くんと仲良く遊ばせていただいてるみたいで。ありがとうございます。
男手一つで育ててるので気が回らない点も多いと思いますが、今後ともよろしくお願いします。」
加藤…さん、か。
そういや侑李の苗字知らなかったな。(つーか何も知らねぇ。厄介なガキってことしか。)
「あ、こちらこそ…俺も代理親やってるくらいなので、何かご迷惑おかけしてたら申し訳ありません。よろしくお願いします。」
「いえいえ、何も!本当に素敵なお友達が出来て侑李も幼稚園楽しそうです。ありがとうございます。」
加藤さんが人当たり良くにっこり笑う。
「取材って言うと…?」
「ああ…お恥ずかしながら、僕小説家でして。有名ではないんですけど、一応物書きなんです。」
「へえ、凄いですね!」
「いえいえ…シングルなんで人並みの生活保つのに必死です(笑)」
何か…案外普通のしっかりした人だな。
もっと侑李っぽい破天荒系かと思ってた。←侑李への偏見
加藤さん、ごめん。疑って。
無害だった。
ほんとごめん。
「あ、そうだ大野くん、配信された新しい釣りチャンネル観ました?」
お、大野くん?!
「観ました~~~~めっちゃ面白かった!オススメされて良かったです!あ~マグロが釣りたいなぁ。」
「船ないと無理ですもんね~。今度僕車出すんで、例の船長さん紹介してくださいよ!」
「んふふ、いいですよぉ。シゲくんのルアー見るの楽しみ!」
シ ゲ く ん?
………ダメだ。
これは…
害しかないっ!!!!!!
「サクライさん。」
侑李くいくいと俺の裾を引っ張る。
「な、なにかな…?」
引き攣った笑顔で侑李の目線までしゃがむ。
意識は釣りで盛り上がる二人に注ぎながら。
「センセンフコクしますね。」
「は…?」
せんせ…宣戦布告?
物騒だな5歳児?!
「大野さんは、ボクのパパになってもらいますから。」
はっ!???!!?
驚いて目を見開くと、侑李がにっこりと愛想よく笑う。
「和くんと潤くんばっかりずるいです。ボクだってカタオヤなんだから、大野さんに助けてもらいたいですもん。パパ、あんまり家事トクイじゃないし。
パパも大野さんととーっても気が合うみたいだし、モンダイないですよね!だってサクライさん達、ただの『ヤトイヌシ』と『カセイフ』さんなんだから!というわけで、これからヨロシクおねがいしますね!」
「なっ…………」
何も返せず呆然とした俺を尻目に、侑李は加藤さんの方へたたっと駆け寄る。
「パパ、いとしの大野さんとおはなしできてよかったね!おかおあかいよ?」
「こ、こら侑李!すみません、ほんとこいつ…」
「んふふ、いえいえ。おうち暑かったですかね?換気扇回したんですけどご飯作ったばっかだからな~…」
に、鈍い!!
あまりの鈍さに侑李ですら眉顰めてるよ大野さん!!
「い、いえ…ではまた。夕食時にすみませんでした。」
「大野さん!こんど釣りいきましょーね!!」
「んふふ、はーい!」
「櫻井さん、大野さん、失礼致しました。」
閉まる瞬間、侑李が優越感に浸ったような顔で俺を見たのは見間違いではないはず…
ガチャリと閉まったドアにすかさず鍵とチェーンをした。
前言撤回しよう…
よく考えたら、下には小栗がいて、幼稚園には侑李と加藤さん、そして小瀧…
スーパーの大学生に、監禁ヤローに近所の飯たかりにくる先輩……
俺…
すっっっっっっっっげーーーーーーーーー前途多難な恋をしてるんじゃ………?
「櫻井さん、ご飯にしましょう?」
大野さんが持ったままのジャケットを手にふわりと笑う。(忘れてたごめんなさい)
きゅーんと胸が情けなくも締め付けられる。
「…大野さん。」
「はい?」
「俺、絶対……諦めませんから。」
「え…?」
「…何でもありません。手洗ってきますね。」
あーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー神様。
童貞脱出とこの恋愛成就、どっちの方が可能性が高いでしょうか…。