僕に力を9 | 1年だけ先輩。(基本お山)

1年だけ先輩。(基本お山)

やま。いちご。そうぶせん。

理解した方だけしか読まないでください(笑)
ごにんに心奪われ続け、眠る身体も起き出す状態です。

脳内妄想を吐き出す場として利用しようかなと思ってます。
ご気分害されたらごめんなさい。
※主軸は21です!

※妄想のお話です。

くらーーーーーくなってきました。
ご自分の精神状態を考慮してお進み下さい。
まだ決定的なとこまでいかないです。














俺が10歳の時。


雅紀が生まれて、2年後。


母さんは死んだ。


珍しく本邸に行き、雅紀はベビーシッターに預け、父、母、俺の3人で出掛けていた時。


ブレーキとアクセルを間違えた車に、轢かれて吹っ飛んだ。


…父親を庇うようにして轢かれたのだ。



自分のことを一番に想ってくれない奴のために、母さんは。


俺と幼い雅紀を遺して


死んだ。



「…ばっかみてー。」


葬式とか一通り全部終わって。


海を見ながら、智の隣で呟いた。


「…どうして?」


智の声はいつだって穏やかだ。


まるで凪いだ海のよう。


ザザ…と足元で砂を絡めて戻っていく、優しい波によく似ている。


「…葬式の最後の方にミニスカートで葬式に来てた、あの髪の長いオンナ。真っ赤な口紅の。あれ、親父の愛人。」


智は、そっか、と呟く。


その声から感情は読み取れない。


「そんなクズみたいな男を守って死ぬとか。有り得ねーよなぁ。親父が救急車呼んでる時、母さん俺に何て言ったと思う?


『私は幸せだったわ。愛する人を守れたから。』つったんだよ。信じらんねぇ。


息子達を残してまで守る価値のある奴じゃねぇのに。…俺らには、愛してるなんて言ったことねぇのに…。」


悔しかった。


母の愛情が、ずっと一緒に過ごしている自分と雅紀よりも、離れて他の女に愛情注ぐ男に負けたのだと見せつけられた気がして。


『愛する人』というカテゴリーに、自分を入れてもらえなかったことも。


結局、母は俺らの為に離婚をせず我慢してたんじゃない。


俺らを理由に父を繋ぎ止めていたに過ぎなかったのだと、思い知った。


「そうかな。」


智はやっぱり、優しい声で地平線を見つめる。


智の横顔は、オレンジ色に染まっている。


「命を懸けてでも守りたい人が…死ぬって悟っても幸せだったって言える人がいる。それだけ愛する人がいるなんて、素敵なことだよ。


勿論、愛する人との子ども…翔くんと雅紀くんのことも。守れたって安心したんじゃないかな。」


「……死んでもいい、なんて…そんな愛情、ないだろ。好きなら、一緒にいたいって…普通思うだろ…。」


苦々しく呟くと、智は何かを思い出すようにゆっくりと口を開いた。


「…“ヤーアブルニー”…っていう言葉があるんだ。アラビア語なんだけど、直訳すると、『あなたが私を葬る』っていう意味で。


『その人なしでは生きられないから、いっそその人の前で死んでしまいたい』…っていう愛情の形のことなんだけど。ちょっと暗い気持ちだけどさ、それ程強い愛だったんじゃないかな。」


──死んでもいいって思えるような恋をしてみたい。


智の言ったセリフが脳裏を過った。


だけど、当時の俺はどうしても理解出来なかった。


理解するには、若過ぎた。


愛する人がいるなら、何がなんでも生き延びるべきだ。


俺は…相手の為にも、絶対死にたくない。


智といたい。


智とずっと一緒にいる為に…差し出せる命があるわけなんてない。


そうやって、自分の気持ちばかりを考えていて。


「…わかんねーよ…」


そう呟くと、「いつかきっと分かるよ」と、智の細い手が俺の頭を優しく撫でた。




母が死んでから、智の家に泊まることが多々あった。


智のおばさんもいつでも来てくれていいと言ってくれた。


と言うのも、智のおばさんは看護師で、夜勤が多かったから俺が夜一緒にいることで安心してたんだと思う。(因みに、智のおじさんは都内で働いていて別居生活をしていたらしかった。)


一方で俺も、幼児の雅紀は基本ばーちゃん家にいたし、父親はもちろん居ないし…


家政婦を除いて1人きりの別荘暮らしは寂しかったから、智の家によくお邪魔していた。


その時に智に聞いたのだ。


「これ、どうしたらいいの?」って。


幼さを武器にして、智に手でのやり方を間接的に教えてもらうことに成功した。


本当は…クラスのダチからの知識で知ってたんだけど。


純粋無垢に知らないふりをして、智の優しさにつけこんだ。


そうすれば、少しは意識してもらえるんじゃないかと思ったし


あわよくばその先も…って思ってたから。


だけど智は、結局一緒に扱 くまでしかしてくれなかった。(これも俺が無理矢理そういう流れにしたに過ぎない)


それに今思えば、万が一その気を起こしてくれていても、心臓の弱い智に不可のかかる行為は出来なかっただろう。



そもそも、智の気持ちは俺に向いていたのだろうか。


肝心な言葉は何一つ言われなかったし、俺も口に出来なかった。


『愛してる』


母から最期まで言われなかった言葉を智に望んでいる自分に気付いていた。


母性などの類ではなく、恋人としてのそれを欲していたことも。


だけど…その言葉が智を困らせる可能性があることは、幼いながらじゅうぶん分かっていた。


もし告白してフラれたら…智はきっと俺から距離を取って、俺という唯一の友人を失ってしまうことになる。


智はそういう人だと思ってたから、それだけは避けたかった。



智は俺の事をどう思ってたんだろう。


ただの近所の少年?


それとも、年の離れた弟?


あの日まで、キスひとつしてくれなかった智。



それなら、どうしてあの日



智は俺を庇って死んだんだろう──。



“ヤーアブルニー”。


あなたが…私を、葬る……。



その言葉が当てはまるように俺を愛してくれていたのかも分からないまま


俺が、智を──


愛する人を、葬ってしまった。


…永遠に…。