『潜入捜査』〈潜入捜査1〉 | 手当たり次第の本棚

『潜入捜査』〈潜入捜査1〉


日本の警察官は、潜入捜査と囮捜査が認められていないのだそうだ。
しかし、合衆国ではどちらも場面によって利用されるらしく、テレビドラマや小説を問わず、そういった状況が時々登場しているようだ。
そのせいというのでもないだろうが、本作は、なんとなく、日本の刑事物より、アメリカ製刑事ドラマに雰囲気が近いように思う。
まあ、違うといえば、射撃の達人ではなく、武術の達人というところだろうか。
また、シリーズ1作目にあたる本巻ではあまりクローズアップされていないが、キャラクターの背景にある、古代から連綿と続く「あるもの」が存在するというのも違いといえば、違い。

舞台は、ちょっとばかりレトロだ。
というのも、本作、初版が天山出版から出たのが1991年なんだね。
90年代といえば、今とは大きく違う。
ケータイはなくて、ポケベルの時代。
おそらく、公衆電話の数が最も多かった時代。
そのほとんどがテレカ対応で、公衆電話といっても、赤電話は姿を消しつつあった。
インターネットはなかった。
ごくごく一部の好き者(!)が、パソコン通信をやっていたくらい。
公衆電話といえば、ごくごく一部にISDN電話があったけれど、そこにモジュラジャックをさしこんだりしてると、奇異な目出見られる、そんな時代。

本作では、「環境犯罪」という言葉が出てくるが、今、かなりかる~く「エコ」と呼ばれる、そういう意識は芽生え始めたばかりだったかと思う。
今の再生紙は使用にさしたる不都合がないと思うんだけど、本巻では、「再生紙はミスフィードなどが多発するので、実はゴミがより多く出やすい」なんて話がちらりと出てくる。
思えば環境問題なども、この時代と今ではだいぶ違っているのかもしれない。

それでも、CS放送の専門チャンネルなどで、昔の刑事ドラマが繰り返し放送されてたりするのを見れば、そも、刑事ドラマというジャンルが最も隆盛したのだが、90年代くらいまでだったのかなあ、と感じる。
(但し、かの有名な『太陽にほえろ』や『西武警察』は、もうちょっと時代的に手前かな?)
そういった、テレビの人気シリーズの血脈をそれなりに受けつつ、全く新しい刑事ドラマをめざしたのがこのシリーズじゃないかと思っている。


潜入捜査 (実業之日本社文庫)/今野 敏
2011年2月15日初版(文庫新装版)
1991年5月初版(天山出版)『聖王獣拳伝』