『闇の中のオレンジ』 天沢退二郎の連作短編童話 | 手当たり次第の本棚

『闇の中のオレンジ』 天沢退二郎の連作短編童話

天沢退二郎の童話というか、ファンタジイは。
なにかこう、全貌が見渡せないというか、底が知れないというか、薄闇を一所懸命見通しているような、そんな印象があるんだよな。

これは、長編ではなくて、短編集なので、特にそういう印象が強くなる。
「え。これって何なの?」
と思うような、そんな光景がいきなり目の前に展開される。
異形のモノが、突然目の前に現れ、唐突に去ってしまう。

そうだなあ。
なんだか、切れ切れに、夢を見ているような気持ちにさせられるといってもいいな。

だから、はっきりとわかりやすいストーリーが好きな人には、ちょっとこの本は薦められないと思う。
ストーリーは曖昧模糊としていても良いから、不思議な光景を見たいという人には、絶対お勧めだ。

また、これは〈三つの魔法〉に出てきた話を補うものも、たくさんおさめられてる。たとえば、エルザがものいう泉を訪れ、闇の中に光るオレンジ色のものを見た話とか。
グーンの黒い釜が、どんな災厄をもたらしていたかとか。
京志の妹が、どんな風に消えてしまったのか、とか。
(そういえば、田久保京志が主人公の中編で、単行本未収録のものがあるそうだ。読みたいなあ)。

これらの短編は、どれも、日常生活の中で、いきなり世界が別の世界にスリップしたような、そんな異質さを味わわせてくれる。
ほんとに、ごくごく普通に暮らしていても。
実は、振り返ると闇が見えるかもしれない。
一歩踏み出すと、まったく見知らぬ世界に入り込んでいるのかもしれない。

光車よ、まわれ!
オレンジ党と黒い釜
魔の沼
オレンジ党、海へ

著者: 天沢 退二郎
タイトル: 闇の中のオレンジ  2005年1月復刊