『大アルベルトゥスの秘法』 中世の魔術思想 | 手当たり次第の本棚

『大アルベルトゥスの秘法』 中世の魔術思想


たとえばイギリスの怪奇小説。
あるいは「魔術」にある程度以上興味がある人。
または、『女神転生』 みたいなゲームにはまったことのある人。

以上の条件の、どれかひとつ以上を満たすならば、聞いた事があるだろう。
アルベルトゥス・マグヌス、という名前を!

知らない?
それは……モグリとゆーものですよ……フフフフ。

ま、ともかく、アルベルトゥス・マグヌスという人物は、ヨーロッパの魔術史を語る上で避けて通れない人物なのだ(笑)。
ただーし!
この本のタイトルが『アルベルトゥスの秘法』であり、
腰巻に「13世紀以来、最も普及した代表的魔術書」と書いてあるからと言って、

アブラカダブラなんたらかんたらのヤーッ!
悪魔うんたらかんたら現れいでよー!

……なんて呪文が、魔法円とか魔方陣つきで載っているというわけではない( ‥)/
中世魔術思想と言う方がいいんだけど、それよりも、むしろ、
「中世の科学はこんな風であった」
と考えた方が良いと思う。

ていうか、そもそもその時代は、科学と魔術の間に、差というものがなかったのだ(笑)。正しいものは、「教会が教える学問」であって、その教理からはずれるものは、悪いものだった。
するとどうなるかっていうと、キリスト教以前に発展したギリシアの哲学(これには、いろいろな自然科学や医学も含まれる)も「ダメ」になってしまうんだよね。で、かなりの文献が中世にはなくなってしまい(おそらく教会によって廃棄されてしまい)、逆にそういう事はタブー視しないイスラム圏で、翻訳・保存された文献が、そこから更にラテン語などに翻訳されてほそぼそと逆輸入された。
アルベルトゥス・マグヌスも、そういう事をした人だといえば、おおむね当たりだと思う。彼の著作は、かなりの部分、イスラム圏で保存された文献をもとに、ギリシア哲学から得た知識によって書かれたものだったりするのだ(笑)。

現代科学を教育された者の目から見ると、
「をいをいをいをい? んなわけないだろ?」
と言いたくなるようなことごとが、たくさんあるのだけれども、現代科学とは立脚点が違ってたりするし、善し悪しは別として、当時は、科学と呪術と哲学的思想が、それぞれ別のものでありながら、渾然としていた。
いわば、そういう「余分」なものを廃する以前の科学が、どのようなものであったかを知るための、あまたの手がかりが、この中にはあふれている。

それはそれとして、思想家としてのアルベルトゥス・マグヌスの凄いところは、魔術なんて一言でも聞くと、目の色を変える宗教家が多数いた時代に、どきっぱりと、こう書いている事だ。
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アリストテレスは、いろいろな場所で、あらゆる学問はそれ自体善であるが、それを扱う者の目的とその使用法によって良くも悪くもなると言っている。そのことから、二つのことが結論される。一つは、その知識によってわれわれが悪を避け、善を行うなら、魔術は禁じられるべきものでも、悪いものでもないということ。もう一つは、われわれは目的によって結果を認めるのであり、ある科学は美徳や善の目的に結びつかないために許されないこともあるということである。
--------------------------------------------------(本書p40)

現代の科学者にも考えてもらいたい、貴重な意見じゃないか、これ?

著者: アルベルトゥス マグヌス, Albertus Magnus, 立木 鷹志
タイトル: 大アルベルトゥスの秘法―中世ヨーロッパの大魔術書