今年の誕生日。
衝撃的な出会いがありました。
何かが始まる時はいつだってそう、胸が高鳴るどころか雷に打たれた様な衝撃とか、肚の奥がぐわんぐわん熱くなるとか、身体の全細胞が総動員でお祭り騒ぎ。
誕生日は、年末年始にこんなことが意識の中で息衝いてから間もない頃。
とある古美術店に引き寄せられる様に入店しました。
いつも通る道なのに、これまでは目に入っていなかった場所。
この日は店名の書かれた小さな看板がキラキラと輝いて見えたのです。
その名は「桃青」。
松尾芭蕉の雅号であるその名を店の名にするのは、俳人か俳句愛好家の方か。
「お気軽にお入りください」と小さく書かれたガラス扉に思わず手が伸び、重たいその扉を押してみました。
「こんにちは、初めてなのですが見せて頂いても良いですか?」
おずおずと声をかけると、奥の方から眼鏡を掛けたご主人が「どうぞ〜」と控えめな声で応えてくださいました。
白檀の様な香りがふいに鼻をくすぐり、寺院の中の様に静か。
4人入ればいっぱいになる小さな店内には、壁や棚にご主人が愛しているであろう作品がひとつひとつひっそりと存在していました。
骨董、古美術…私にはほとんど馴染みがありません。
伊香保のギャラリーでは作家のコレクションとして扱っているので、そこにあるものは話を聞いたり調べたりしてようやく触れ始めた程度。
その作品の雰囲気がいいなぁと感じても、自ら古美術店に行くなどとは思ってもいませんでした。
同行した作家の所作を横目で見ながら失礼のない様に店内をそろそろと移動するのもちょっと緊張。
掛軸、陶器、漆器、木像、銅像、古箪笥などどれもが長い年月を経ていることは容易に想像できるほど、その色と佇まいには凄味の様なものがありました。
そしてふと見上げたところに新書が。
タイトルは『恋する骨董』
思わずキュンとしながら作者を見ると、どうやらこのお店のご主人らしい。
こんなに可愛らしいタイトルを付ける方だから、もしかしたらお話もさせて貰えるかなと淡い期待を抱いた頃、作家が「良いものがありますね」とひとこと。
先ほどの控えめな挨拶とさほど変わらないトーンで「ありがとうございます。もし分からないことなどありましたら何でも聞いてください」とおっしゃる。
あ、そんな気さくな感じなんだ、とやや張り詰めていた空気も和らぎ、次の言葉を待ちました。
ご主人は「何か探しものでもありますか?」と作家に問い、それならば古唐津盃を、と望むと「みんな古唐津と言うんですよねぇ」そう目を細めながら小首を傾げていらっしゃる。
そのやり取りが物語の入り口のようで、私は少し離れた所から次の展開を待ちました。。。