あまりにも満たされていると

言葉が出ない。


例えば美味しい料理を堪能しているとき。

「美味しい」という言葉すら出なくて

ただ噛み締めては味わい尽くし

自分の細胞ひとつひとつに染み渡るように

飲み込むことに

ひたすら集中する。

体の一部となるまで

じっくりゆっくり

舌で味わい

喉へ送り込み

食道を通過させる。

そんなとき、言葉は出ない。


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例えば大好きな人の隣にいるとき。

その人が居る、という体温が伝わる距離で

いつも通りに伏せるまつげや

いつも通りに口を結んだ角度や

なだらかな体のラインを

見ているだけで

自分がその人になってしまったかのような

感覚を覚え

わたしがあなたになって

あなたがわたしになって

境界線が消えてしまう。

そんなとき、言葉が出ない。


満たされているのは

そんなとき。



言葉にならない。

言葉がいらない。

それでいい。

そんな世界を生きる日が来るかもしれない。