次は、フランスの音楽院入試における実技試験についてお話ししようと思う。
大きく分けて以下のようなことだ。

① 録音について
② 初見について
③ 課題曲について
④ 面接について


①課題曲


音楽院の受験では、受験者がそれぞれ得意な曲をメインに組み立てた演奏プログラムを審査員の前で披露することが多い。

私の場合は、20分以内の自由曲と、
試験の6週間前に発表される課題曲からなる30分弱のプログラムを用意しなければならなかった。

20分以内の自由曲というのはそう難しくない。
音楽を嗜むものなら誰しも「この曲なら、人前に出してもまぁ恥ずかしくないだろう…」という曲が数曲はあるものだ。

問題は、6週間前に発表される課題曲である。
これは全ライバルと同時に同じ曲を始めることにより、どれぐらいの速度と深度で曲を学ぶことができるのかを審査員に詳らかに見せることを余儀なくされる、なかなか意地の悪いやりがいのあるシステムだ。

一応私の教授に
「課題曲も暗譜しなきゃダメですよね?」と聞いたところ、無言で重々しく頷かれた。

書類上は明言されていないのだが、よっぽどのことがない限り暗譜で弾くのが良いようだ。
アラサーの脳みそには、これが地味に一番重荷だった。



他の全ての受験生がそうするように、私も祈った。

ゆっくりな曲が来ますように。
短い曲が来ますように。
私の得意な時代、私の得意な作曲家の曲が来ますように。
なんならやったことのある曲だったりしないかなぁ…。






果たして与えられた課題曲は、

ブラームス作曲、ラプソディOp119 No.4だった。


リチャード・グードの演奏。Op119は4曲の美しい小品からなる曲集で、4曲目は9分38秒から。





うん……。

い、いける。



見開きにして3ページ半の、有名な小曲だ。


弾いたことはないし、楽勝ではないが。
6週間で仕上げろと言われても途方に暮れるような曲ではない!

ちょうどそう思わせてくれるだけの、絶妙な選曲をしたピアノ科の教授達が上手いのである。

さらにその6週間のうち、2週間程度はフランスの春休み。


「練習、しろよ…」
という先生方の声が聞こえてくるようだ。




というわけで、フランスの課題曲がある音楽院を受験するときは、課題曲発表までに自由曲のプログラムをある程度暗譜まで仕上げておけると、精神的にもスケジュール的にも楽になる。




続きはまた次回。