先生はイジワルだ。

「櫻井先生、さよならぁ」

「おぉ、さよなら。暗いから気をつけろよ」

「はーい」

茉美ちゃんが嬉しそうに返事をする。
私には目もくれない先生。
遠ざかる背中が広い。
大人の男の人だなあって思う。

「ハァ…今日も先生、カッコよかったぁ」

「そう?」

「え、カッコイイじゃない。よく見てよ、樹里」

「見てるよ。相変わらず爽やかな顔してた。茉美ちゃんって櫻井先生好きだよねぇ」

「うん、大好き」

茉美ちゃんは櫻井先生のファンだ。
櫻井先生は女子に異様に人気がある。

なぜなら超イケメン。

先生のファンは英語の成績が良い。
みんなテスト前になるとこぞって質問に行く。
先生は丁寧に教えてくれるから、
みんな必死になって勉強する。
先生の期待に応えようと必死になる。

当然、それは結果に表れる。

だから先生が担任に決まると保護者は喜ぶ。
特に母親達は嬉しそう。
きっと女は幾つになってもイケメンに弱い。

それが分かってる、
先生はズルイ。




校門の所にいた櫻井先生に
「弁当食べたら職員室に来い」
って言われ今日は朝から気が重い。

ママの作るサンドイッチは絶品だから、
ゆっくり味わいたいのに。

「じゃあ、行ってくる」
茉美ちゃん、和ちゃんに声をかけ教室を出る。

職員室は1階だ。
私達のクラスは3階だけど館が違う。
遠いよー。
階段を下りるの面倒くさい。
なに言われるか分かってるし、
行くのやだなぁ。


「先生」

「ああ、来たか」

「あの…」

「樹里」

「はい」

「お前、進路希望、まだ出してないよな」

「…はい」

「さっさと出せ」

「はい」

「明日持って来い。分かったか?」

「…はい」

「あとこれを」

「えっ?」

「やっといて」

「ええ?」

「ん?お前、学級委員だよな?」

「ハァ…」

「じゃあ、宜しく。笑」

これだ。本当の狙いはこれ。
ああ、もう!学級委員なんてやだ!

「先生~」

「ん?」

「文化祭の事なんですけどぉ」

「あぁ、それか。それはな…」

テニス部の人だ。
そこまで先生が担当するの?
あ、なんか楽しそう。
態度が違う、私にだけ違う。
みんなには甘いと思う。

先生はズルイ。




翌日、また昼休みに職員室へ。
昨夜書いた進路希望用紙を提出。
ても受け取った先生の顔が怖い。

「何これ?」

「え、進路希望」

「却下」

「どうして?」

「もっと上、狙えるよな?お前ちゃんと将来のこと考えろ」

やっぱり先生はイジワルだ。
ほら、綺麗な数学の先生と、
もう楽しそうにお喋りしてる。
あの先生はきっと櫻井先生が好きなんだ。
一つため息をついて私は職員室をあとにした。


授業が終わった。
教室の掃除を済ませ赤いリュックを背負う。
そしたら茉美ちゃんもリュックを背負った。

「あれ?彼氏は?待たないの?」

「うん、いいの」

「あ、用事?」

「ううん、別れたの」

「え、いつ?」

「先週、かな」

「…どうして?」

「んー、何でだろ。別に嫌いになったんじゃ無いんだけど…」

「仲良かったのに。え、ビックリ」

「フフ。だから一緒に帰ろ。あ、なんか食べてこっか?」

「あ、じゃあパンケーキ食べたい」

「うん、行こう行こう」

明るく笑う茉美ちゃん。
嫌いじゃないのに別れたの?
何があったのか分からないけど。
私達の年齢って難しいのかな。
恋って難しいのかな。




人気のパンケーキ屋さんへ行った。
混んでたけど20分待ったら席が空いて、
私は黒胡麻ときな粉のパンケーキ、茉美ちゃんは季節のフルーツパンケーキをチョイス。
もちろんシェアして。

色んなこと沢山話した。
この時間が大好き。
いつか懐かしく思う日が来るんだろう。
だから今を楽しむんだ。



20時、マミちゃんと別れて駅へ向かう。
途中、雨が降ってきた。
リュックの中に折りたたみ傘が入ってる。
でも差さない。

パラパラ、パラパラ。
冷たい。でも気持ちいい。

雲が暗い。
少し肌寒くなってきたのは濡れたせい?

明日は土曜だから、
駅のトイレで制服を脱ぎ私服に着替え、
荷物はコインロッカーに入れる。

電話をかけた。

自転車に乗り目的地に向かう。
緑地公園の近くにあるマンション。
自転車だと駅から7分ほど。
ほどなくマンションが見えた。
駐輪場に回り自転車を停める。

エレベーターに乗る。
7階のボタンを押す。
1番奥の部屋。
インターホンを押す。
ドアが開く。

黒いスウェットを着た人が現れた。

 「遅かったな」

「コンビニ寄ってたから」

「何買ったの?」

「わらび餅とお煎餅」

「和だな。笑」

「好きなんだもん」

そっと腕を触る。
大人の男性の逞しい腕。

ソファーに並んで座る。
温かいお茶を入れ一緒にわらび餅を食べる。

「おいし?」

「うん、甘い」

「好きでしょ、甘いの」

「うん。でも、こっちのが好きだけどな」

ギューと抱きしめられる。
ギューギュー、ギューギュー。

「苦しいよー」

「ハハ」

「もう、離して」

「ダーメ」

「イジワルだ」

「うん」

「イジワルだ」

「お前にだけ、な…」

温かな唇、微かに煙草の匂い、
そう、先生の匂い。

大きな背中に手を回す。
大好きな背中。

ここに来るのは久しぶり、
だからもっと……

唇が不意に離れ
先生が私の首筋をペロリと    舐めた。

それからは幸せの時間。
甘いスウィーツのような時間。

櫻井先生はイジワルだ。
私にだけイジワルだ。




昔書いた嵐さんのお話に加筆しました。
ただの自己満足の保管場所、
でも楽しかったー。
読んでくれる人いたらイイけど。
でもいないよーな気がするー