あるがん患者さんのお話です。
真言宗のお寺のご住職でした。
がんの治療はできないという状態で、私の外来に来られました。
幸いなことにお話もしっかりされていて、病気の進行は感じられませんでした。
初めての外来でしたが、私が四国遍路を2巡したこともあってか、仏教や弘法大師の話になるととても嬉しそうにお話をされていました。
そして、こんなことを仰ったのです。
「九州に高僧がおられて、何度も救っていただきました」
「もう一度、その方にお会いしてお加持を受けたいのです」
ご家族も本人の願いを叶えてあげたいお気持ちはありましたが、
内科医から身体の状態が良くないことは聞いていて心配のご様子でした。
咄嗟に、私の口からは「大丈夫ですよ」「お大師様がついておられます」という言葉が出てしまったのです。
それを聞いたご本人とご家族はとても嬉しそうでした。
その後、意を決して九州まで行き、念願のご祈祷を受けることができました。
しかし、状態が悪くなってしまったのです。
戻ることもままならず、最終的には九州の病院で最期を迎えられたという報告を受けました。
私が軽率なことを言ってしまったために、ご家族にも大変な思いをさせてしまったのではないかと反省していたのです。
それから〇年後、長男さんとFacebookを通じて再会することができました。
私が「言薬」のことを発信していたところ、直接メッセージをいただきました。
「先生には言薬をいただきました。
お大師様がついておられますよ、というあの一言のおかげで覚悟ができました。
大変でしたが、本人の願いを叶えることができて良かったです。
本当にありがとうございました」
私は、こう付け加えました。
「きっと、お大師様が私の口を通してお伝えなさったのだと思います」
真言宗の信者が多い四国では、弘法大師空海の存在は別格です。
四国遍路には、「同行二人』という言葉があります。
これは、いつもお大師様が一緒にいてくださるという意味です。
ですから、四国遍路を一人でしているようでいても、隣には必ずお大師様がついていてくださいます。
この患者さんとご家族からは、相手のことをよく理解してはじめて、言葉が言薬になりうるということを教えていただきました。
最後までお読みいただきありがとうございました。
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