あるがん患者さんのお話です。

 

年齢は70歳代の方で、がん治療中の方でした。

若くして奥様と亡くされていました。

 

免疫チェックポイント阻害薬による治療を受けたのですが、

残念なことに肝臓の機能が悪化してしまったのです。

 

もともと腎不全もある方でしたので、

治療は中断となってしまいました。

 

本人は自暴自棄に陥ってしまい、医療者の声が届かなくなりました。

 

「検査や注射による治療は受けたくない」

「もう自分は、妻のところに行くだけだ」

「楽にして欲しい」

 

その後、私が働いている緩和ケア病棟へ移ってこられました。

案の定、取り付く島もなく、看護師さん達のケアも受け入れがたい状況でした。

食事も水分もほとんど取れませんでしたから、

このままだと1、2週間でお別れなのかも知れないと思いました。

 

患者さんの希望は、「もう、眠らせて欲しい」でした。

カーテンすら開けさせてもらせません。

お恥ずかしながら、みんな病室の扉を恐る恐る開けていました。

 

あるとき、のどが渇いたと仰るのでかき氷をお渡ししたところ、

本当に嬉しそうに召し上がったのです!

それから、少しずつ食事を摂るようになってきました。

 

ある朝の回診中、本人に血液検査をすすめてみました。

本人も気にはしていましたが、肝臓や腎臓がさらに悪化していることを

何よりも恐れていました。

 

しかし、本人もようやく納得されたので検査をしてみたところ、

肝機能は著しく改善していたのです!

 

私も嬉しくなり、

とっさに「○○さん、まだ生きられますよ」と言ってしまいました。

その時の驚きと喜びが入り交じっていたお顔が忘れられません。

 

それから半年以上経過していますが、今でもお元気です。

先日、お話をしていたところ、こう仰いました。

 

「あの時の先生の『生きられますよ』という言葉が忘れられません」

 

いつでも誰にでも伝えられる言葉ではありませんが、

可能性がある場合にはこの言薬を使ってみたいと思います。

 

先日、ある看護師さんがいいことを教えてくれました。

 

「薬を処方できるのは医師にしかできませんが、

言薬は誰でも処方することができますよね」

 

 

本当にそうです。

言薬は、

身体が病んでいる人に対しては心身のつらさを和らげますが、

健康な人にも癒しや元気を与えることができるはずです。

 

 

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