今日、1年以上訪問診療をしていた患者さんが亡くなられました。

肺がんと診断されてほぼ2年、敢えてがんの治療は受けずに自然に最期を迎えられました。

 

元看護師である奥様は、ほぼ24時間の完全看護で尽くしておられました。

本人が食べられる間は数種類のおかずを揃え、時にはお酒も用意されていました。

 

 

患者さんであるご主人は認知症も患っておられたので、奥様の献身的な看護には頭が下がる思いでした。

 

本日の昼過ぎに訪問看護師さんから連絡があり、最期のお別れをいたしました。

奥様は涙ぐみながらも、びっくりするようなことを教えてくれました。

「昨日はずっと、『ありがとう、ありがとう』と繰り返していたんですよ」

「その後で、『苦労かけて済まない』なんて言っていたんです」

 

私が聞いた限りでは、これまで一度もそんなことを言いそうな方ではありませんでした。なんでも、かなりの亭主関白であったそうで、奥様は三歩下がってついていくような夫婦関係だったと聞いていたからです。姑さんも厳しい方で、大変な苦労をされたそうです。

 

もしかしたら、これは「なかよし時間」だったのかも知れません。

鈴木秀子さんの著書である『死にゆく者からの言葉 』の中で、紹介されています。

亡くなっていく人と遺される人との和解や仲直りの時間で、亡くなる1、2日前に起こることがあるそうです。

 

死にゆく者からの言葉 (文春文庫)

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私の患者さんも、最後の最後で奥さんへの感謝を伝えたかったのでしょう。

奥さんも涙を流しながらも嬉しそうな表情をしていました。

がんであっても、認知症であっても、亭主関白であっても、最後の最後に「ありがとう」「苦労かけたな」と言われたら、尽くしてきた甲斐があったと思うことができるのかも知れませんね。

 

私も最期のときには、家族、友人や知人にありがとうを「薬」として届けたいと思います。