折角借りたので本を読んだらここに記録をつけようと思った次第。
松井今朝子『星と輝き花と咲き』を読み終えました。
主人公は明治時代の娘義太夫・竹本綾之助。彼女の引退までがこの小説では描かれています。
娘義太夫とは女性による浄瑠璃語りのことをさします。三味線などの伴奏に合わせて物語を語るのが浄瑠璃です。
綾之助は、幼い頃は髪の毛も短く切って男装をし、男の子に混じって遊んでいました。
彼女の暮らす大阪は、かつて竹本義太夫という義太夫節の創始者の産まれた場所でもあります。
浄瑠璃の語りに囲まれて育った綾之助は、やがて天からの授かりものともいうべきその才能を花開かせることとなります。
東京へ上った綾之助は、五厘(今で言うところのマネージャー)となる近久の強い推しもあり舞台へのぼり、大きな評判となります。
寄席は連日大入り、錦絵は飛ぶように売れ、ファンは彼女の乗った人力車を追い掛け回したというのですからその人気の凄まじさが知れます。
10歳の頃から舞台に上がり、24歳で一度引退することとなるのですが、それまでにどのようなドラマがあったのかは是非読んでいただきたいと思います。
以下重大なネタバレを含みます。
無駄はないながらしっかりした文章ですごく読みやすかったです。「星と輝き花と咲き」というのは、作中で綾之助のファンの書生が彼女にあてたラブレターに出てくる言葉なのですが、これがまたぱきっと決まってるなと思います。むっちゃいい文句。
どうする連という言葉は、大学の演習で、なんだったかなあ漱石だったかなあ、何かで出てきたことがあるんですが、その時は単に「どうするどうする言いながら追っかけまわす」というような紹介しか為されず、なぜ「どうする」なのかは分からなかったので、今回この本を読んですっきりしました。
語りが飛んだときに「どうする、どうする」って言ったのが始まりなんですねえ。
彼らの熱狂ぶりを見ていると、今も昔もドルオタは変らないんだなあ…と不思議な気持ちになりました。
どうする連のたまり場に綾之助が足を運んだ際に、うわばみの彼女がくいっと酒を飲み干すのを見て、
「なんと綾姫様はお酒をきこし召すんだ……」「ああ、チクショー、あの茶碗がうらやましい」とどうする連の書生たちが言うシーンがあるんですが、もう今のオタクとホント変らない。
主人公の綾之助が嫌味なく可愛い女の子で読んでてとても和みました。
芸に対しての姿勢が真っ直ぐで、素直で率直に物を言うところがなんとも作ってなくて素直に可愛い。
単行本の最初に載っている写真を見ると結構きりっとした顔で、確かに男装したら映えそうだなと思います。
読んでいると、女性のファンも多かったのが分かるのですが、何というか宝塚の走りのようなものを感じました。
彼女の義母であるお勝とか、恋人の石井健太ですとか、色々魅力的な登場人物はいるのですが、個人的には五厘の近久を推したいです。
綾之助の才能にほれ込み、彼女を舞台へ引き上げ、勝手に綾之助に自分の行く末を預け、色々な寄席との調整をし、それなりに甘い汁を吸うだけに見えた近久なんですが、最後に綾之助が引退を決意しそれを彼に話すシーンでがらっと見方が変りました。
とにかく綾之助の才能に惚れて惚れて惚れこんで、その情熱で彼女の世話をしてきたんだなあとじんわりしました。
きっと十年後に綾之助が復活する際には、彼が一番に駆けつけたことでしょう。
登場人物がまるで目の前で動いてるように感じられる小説でした。
おもしろかった!
松井今朝子『星と輝き花と咲き』2013/12 講談社文庫
ISBN978-4-06-277717-9
