「不毛地帯」（山崎豊子）

山崎豊子さんの著書を読むのは、「華麗なる一族」「沈まぬ太陽」「大地の子」「白い巨塔」に続いて5作品目。

今回も、読みごたえあり。面白かった。

主人公の壱岐正は、山崎豊子作品に登場する主役と共通する要素（ひたむきさ、信念の強さ、正義感、など）がありつつも、独特の人生観や雰囲気があり、魅力を感じる。

間違ったことや筋の通らないことには毅然とした姿勢が基本だが、勝負どころでは、策士的な、悪人とさえ言えるような、振る舞いもする（葛藤と闘いながら）。

重要局面で、えっ！というような場面に遭遇しても、顔色変えず冷静沈着に対峙するシーンが痛快だ。

壱岐正は、日本軍参謀という人命を預かる仕事をしていた。部下の死に遭遇することもある。本人もシベリアで11年間、死と隣り合わせの過酷な抑留生活に耐えた。そんな経験をした人は、軍人の経験しかなくても、商才を問われるビジネスの世界でも肝がすわっている、というのは想像できる。

結局のところ、ビジネスの世界でも最終的に重要なのは信頼関係であり、信頼できる人物かどうかというのが成否を分ける。これが本書を読んで得た教訓のひとつ。

また、商社のビジネスモデルや日本経済における役割について、今回とてもよく理解できた（いままで、ある程度知っていたつもりだったが、わかっていなかったのだな、と思った）。

ビジネス書的な観点でも、価値のある読書体験となった。

壱岐は社の中で次々とピラミッドの頂点に向かって駆け上がって行くが、目の前に広がる、かれの生き抜かなければならない現代の国際商戦の世界もまた、雪のシベリアと同じく、不毛地帯なのである。

（解説より）