今日も、一応入念にシャワーをあびて、
加トちゃん先生の診察結果を聞くため、大病院へ向かった。
ドアを開けて挨拶。
おや?
加トちゃん先生のまわりの空気が重いぞ〜
まるで、カフェで別れ話を切りだす為に待ってた、彼氏のようじゃね。
遅れて入って来た彼女の私を、全く見ない。
（恋人設定かい〜
笑）
「うーん・・」
といって、加トちゃん先生は、パソコンの画像を見たまま、しばらくの沈黙。
別れ話を切り出す男は、たいていこんな感じじゃと思うわ。
いやいや、
そのつもりで呼び出したのに、
なかなか話を切り出さんじゃろ。
女というのはカンが良いけん、雰囲気で大体の想像がつくわ。
いらん気を使うてるんは、男の方だけじゃけん。
早く女を楽にしてやってくれぃ〜
静かな室内に、マウスの音だけがカタカタ。
相変わらず、パソコン画面を見たままの、加トちゃん先生。
ためる。ためる。
すると、
加トちゃん先生がいきなり切り出す。
強い口調で。
加トちゃん先生
「んーー・・
思ったより進行してるな。
厳しいです!」
いきなり、
バサッリ？
真正面から斬られた女は、解ってたはずなのに、瞬時に動揺。
あれほど解ってるから、
と思うてたんじゃけど。
・・
せんせえ〜
斬り方、エグぅ〜
斬り方が、
江口洋介ぇ〜
傷口が、
深田恭子ぉ〜
一言めを発した加トちゃん先生は、二言目からが速い。
「ここの卵巣がね。
凄く腫れてるんだよね。
で、
ここの向こう側。
これが、なんかすごく嫌な感じ。
厳しいです!
あ、こっち、
ちょっと測ってみるね。
んー20cm弱かな?
この位かな・・」
そう言って、両手で小玉スイカを持つように広げる。
加トちゃん先生
「手術で最低、卵巣だけは取り出します。
開腹してみないと分からないから。
出来そうなら、他の臓器もやるけど。
この辺りね、神経が沢山あるから、
大出血するかもしれないし、
命の危険があるんですよ。
だから・・
出来ないかもしれない。
もし出来ないなら、3時間位で手術は終わり。
卵巣だけ取り出して、
そのまま閉じます。
もし出来るようなら、10時間位。
それが出来る手術は、もう・・・」
そういって、パソコンの横のカレンダーに目を移し、
ペンでカレンダーをパンパン叩きながら、更に声を上げた。
「もう、ここしかない!
」
後ろにいた看護師の方を振り返り、
持ったペンで指しながら、
すぐに指示。
「この日!
ここ、すぐ抑えといて!」
こちらの都合なんて聞かない。
調整してる猶予なんてない。
前回の、余裕のある加トちゃん先生と真逆の、
早口で強い口調の加トちゃん先生。
頭の中に響く。
そのまま閉じます。
そのまま閉じます。
そのまま閉じます。
そのまま閉じます
せ
せんせえ。
しゅじゅちゅしても、
そのまま閉じるん?（言えてないぞ〜）
私・・
ヤバいかもでふか？（言えてないぞ〜）
彼氏に振られた女は日にちが薬で、
次の男を見つければ又元気になれるけど。
日にちが経っても治るともわからない癌を持った女には、
代替えの身体もない。
不安と絶望だけ。
無言で診察室を出て、
無言で小玉スイカが入ったお腹をさすりながら、
無言でようやく横を見る。
無言で旦那が、
ただただ、そっと背中をさすってくれた。
閉じます・・閉じます・・閉じます・・・・・・
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