先々週末の土曜日2020321日)TBSラジオの午後1時~3時の生トーク番組、『久米宏 ラジオなんですけど』でキャスターを務める久米宏の森友学園問題に関連する公文書廃棄・改ざん問題を原因とする近畿財務局職員、赤木俊夫氏の自死に関する蛮勇をもった発言におおいに刺激を受け、近日の私の筆先が鈍っていることを反省して、もう一度奮起してこのブログに向かうことを決めたという話を先週月曜日のブログ2020323日付 『森友学園の再燃から見えた官僚の無残な本質』)の中でしました。

 

それで一段落したかと思いきや、久米は先週末の同じ番組で再び同じ森友学園についての週刊誌に記事を書いた元NHK職員で、この問題について上司から不興を買ってNHKを退職し、現在大阪日日新聞で論説委員・記者を務めることになった相沢冬樹氏の記事について再び触れ、森友問題についての内閣や財務省官僚の対応を鋭く批判したのです。

 

それも、眉間にしわを寄せてという風でなく、いつもの笑い声を交えた飄々とした調子で話すのですから、リスナーには聴きやすかったことでしょう。さらに加えて、2時35分過ぎから10分間ほど落語家の林家彦いちが毎回その日のテーマに合わせた落語を自作自演するのですが、人気商売であるはずの彦いちまでもが、森友問題についての辛辣な主張をユーモアの中に埋めながら行って、久米との一体感を演ずるというのは、「見事!」と驚嘆するしかありません。

 

そしてことはそれで終わらず、来週は、相沢氏をゲストに呼んで、直接話を聴くというのです。この番組では、午後2時から30分をかけて、『今週のスポットライト』というコーナーを設けていて、途中CMを一切入れることなく老若男女、久米が気になる人を呼んで話を聴くこととしています。今週末には、そこに相沢氏を出演させるというのです。

 

この番組は生放送ですので、途中編集は一切許されないので、いかなる“不規則発言”があっても取り返しはつかないという、リスクをしょったインタビューを森友学園という、マスコミにとっては対政権との関係をどうとるのかという点について、一種の覚悟をした、ということになります。

 

これは、現政権についておおいに追従しているのではないかと思わせている、平日のワイドショーや日曜日の時事討論番組を展開しているTBSテレビ放送局とはまったく違った姿勢です。

 

 

TBSラジオとTBSテレビは、毎日新聞グループの中にありますが、しかし、TBSテレビと同じように㈱東京放送が運営していたものが、2000年にラジオ部門が分社化され、㈱TBSラジオ&コミュニケーションズが設立され、さらに2016年は社名を㈱TBSラジオに変更しています。

 

現在は、㈱TBSテレビと並んで、㈱東京放送ホールディングスの100パーセント子会社となっていますが、その資本金(4.78億円)はTBSテレビ(3億円)よりはるかに多く、その歴史の長さを表したものとなっています。そして㈱東京放送ホールディングス自体についての毎日新聞グループの持ち株比率は、MBSホールディングスが5.06パーセントを保有しているばかりで、資本上は、毎日新聞の指揮が強くは及ばない緩い結びつきとなっています(下のグラフを参照ください)。

 

出典:㈱東京放送ホールディングスの有価証券報告者に記載されたデータを素に作成。

 

つまり、東京放送、TBSの指揮の中で、政権に密着するTBSテレビと、政権に批判的な立場をとるTBSラジオという2つの放送局が共存していることになります。これが、TBS総体の中での仕組まれた戦略の結果であるのか、あるいは、TBSの中でのテレビ局派閥とラジオ局派閥の対立の結果であるのか、残念ながら私には知る手段が与えられていません。

 

 

 同じTBSラジオには、毎週月曜日から金曜日までの平日22時から2時間の時事トーク番組の『荻上チキ・Session-22』という番組があります。元々若者向け中心であったこの時間帯を青年層以上向けに改編したのはTBSであり、現在もその姿勢は他局に比べて際立っています。

 

番組の構成は、冒頭の荻上のアシスタント南部広美に対するモノローグから始まり、30分ほどのその日の時事ニュースの紹介、そしておよそ1時間のその日特集する話題について、各分野の専門家を招いて深堀するトーク番組という構成になっています。その対象とする分野は、若干の偏りがあるとはいうものの、国内政治、国際政治、経済、福祉、教育の巾広さをもっています。荻上自身が、中東や香港など、紛争のある地域に実地に取材に赴くという姿勢も高く評価していいでしょう。

 

殊に私が気に入っているのは、データを大事にした科学的な議論の進め方がとられており、大衆迎合、あるいは政権迎合という安直な姿勢がとられていないことです。そして特集テーマについての各界を代表する若手を中心とする学者たちの披歴する新鮮なニュースやデータは、同じ表現を何度も繰り返すだけの他のメディアでは得られないリッチなものです。そして番組中の広告は、禁欲的なほどに少ない回数で、かつ短く抑えられています。

 

ただもちろん、荻上のクセというものがあって、福祉問題や法律解釈などについて理屈っぽい議論が長々とされること、あるいは経済問題についてはリフレ学者の主張を盲目的に受け入れていること、など、不満とするところは大いにあるのですが、しかし、現政権に対して一定の距離を保ち、批判精神をもち続けていることは高く評価できます。このような番組を長年にわたって維持しているTBSラジオの姿勢はおおいに評価していいでしょう。

 

真摯な時事番組としては、民間衛星放送がいくつかありますが、それらは私には気取って見え、決定的な表現は避けているように思えるスタイルが必ずしも肌に合わないこと、そして長時間テレビの前にい続けることが難しいことから、散歩しながら、あるいは床について寝るまでの間に録音したものを睡眠誘導剤代わりに楽しめるラジオ番組の方が、私の性にはよほどあっています。

 

「今、TBSラジオが熱い!」、と私は思います。読者も是非リスナーとなって参加してください。もっとも、このブログの読者の中には既にそのような人も多いと思いますが、、、。